第14話 神の眼ー4
「はい、では参加報酬の100万円お振込みいたしました!」
俺はダンジョン協会東京支部に来ていた。
田中さんが協会に連絡し、俺が金色のキューブで生還していたことが伝えられている。
失効していた攻略者資格証も元通りだ。
騒がれるかもしれないと思ったが、案外手続き上のミスとして済まされた。
いつもの受付嬢さんがとても驚いていたが、生きていてよかったですと頭をなでられた。
話すときは敬語で、業務以外の話はしなかったので壁を感じていたが、俺のことは気にかけてくれていたようだった。
まぁ俺は世界最弱だしな、いつもいつ死ぬか心配されてもおかしくない。
頭をなでられたときは、少しバブみを感じた。
受付嬢ってなんでどこの業界も綺麗な人なんだろう。
「ありがとうございます!」
俺は頭を下げてダンジョン協会を後にする。
そして向かった先は、まるで宝石店のような綺麗な外装のお店。
東京の一等地にあるそのお店は、俺なんかとは一生無縁だと思った高級店。
名前は『フォルテ』
魔力を付与された装備品の最高級品を置いてある店だ。
フォルテはアメリカのブランドだが、世界中に展開されている。
ここはその日本支店、武器職人と呼ばれる魔力を魔物の素材に付与したり、金属に付与できる人が働いている。
「うわぁ……場違いだぁ……」
相変わらず半袖短パン元気っこの俺はスーツやかっこいい装備の攻略者達の中で浮いている。
「いらっしゃい──」
店員の女性が俺を見るなり、店間違えてませんか? という顔で見つめてくる、俺もそう思う。
「あ、あの……田中さんから紹介されてきたんですけど……」
「え?……あ、お待ちしておりました!! しょ、少々お待ちくださいませ!!」
その言葉を聞くなり、一瞬で態度を変える女性店員。
これが虎の威を借るキツネの気分か、将軍の印籠を掲げたような気分になるな。
俺は田中さんからこの店を紹介された、日本トップギルドの副社長、つまりはフォルテブランドのお得意様中のお得意様だ。
するとその女性に代わり、別の店員が現れる。
灰色のスーツを着こなして、出っ張った前歯が特徴的なセールスマン。
これでもかと揉み手をしていて、手から火でも出そうとしてるのだろうか。
「初めまして、天地様。私店長の根津と申します」
名刺をもらって俺は、はぁという生返事をする。
まさか店長さんまで出てくるとは、俺は装備を見れたら十分なんだけどな……。
「田中様からお聞きしております、ささ、どうぞ! 武器は何系統をご所望ですか? 杖から短剣、ハンマーまで何でもそろっておりますよ」
「あ、ありがとうございます。じゃあ……剣を。これぐらいの」
俺は腰に差していた剣を見せる。
国から至急された魔力が付与されている低品質のロングソード。
それでも半年近くつかって手にはなじんでいた。
「ロングソードですね。一番人気でございますよ! ささ、剣は御二階でございます。ご自由にご覧下さい、お手に取りたい場合はお申し付けくだされば」
どうやら自由に見て良いそうだ、よかった、俺は服を選ぶときは一人で選びたい派なんだ。
そして俺はショーケースに並べられているまるで装飾品のような装備を見る。
その武器を見つめると。
「最強の目利きスキルだな……」
武器のステータスが表示された。
実はアヴァロンのロビーで攻略者を眺めているときに気づいていたのだが。
どうやら俺は人間、キューブ、そして魔力を使って作られた装備品のステータスを見ることができるようだ。
例えばこの剣。
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属性:魔力武器
名称:ハイウルフの牙剣
入手難易度:C
効果:攻撃力+120
説明
ハイウルフの牙を用いて、鋼と高純度の魔力で練り合わせた剣
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このハイウルフの長剣なんてものすごく強い。
一際美しいその真っ白な剣に俺は見惚れて見つめていた。
それにステータスも大変優秀だ、正直めっちゃ欲しい。
攻撃力が+120、俺のロングソードの数倍以上。
この剣で、俺120人分の力があるって俺弱すぎないか?
他を見渡せばさらに強い装備ももちろんあるのだが俺はこの剣が気に入ったので触ってみようと思う。
「あ、すみません。ちょっとこのハイウルフの牙剣触ってもいいですか?」
「おぉ、お目が高い。牙を使用しているとは記載されていないのに、よくご存じで!」
すると根津さんがショーケースから長剣を取り出す。
確かに、ハイウルフと書いてるけど、牙っては書いてなかったな。
やっちゃったと思ったが、まぁ目利きだとごまかしておこう。
俺はその剣を握る、重さは今よりも若干軽い気もするがそれでも十分な重量感。
すごくしっくりくるし握りやすい、これならホブゴブリンだって簡単に貫けそうだ。
というか攻撃力+120の力を感じる、これが力。
俺はそのまま自分のステータスを見た。
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名前:天地灰
状態:良好
職業:なし
スキル:神の眼、アクセス権限Lv1
魔 力:5
攻撃力:反映率▶25%=1+120
防御力:反映率▶25%=1
素早さ:反映率▶25%=1
知 力:反映率▶25%=1
装備
・騎士の紋章
・ハイウルフの牙剣=攻撃力+120
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「ステータスが上昇してるか……」
装備を持つだけで圧倒的に力が増した感じがする。
ならばとステータスを見ると、やはり俺のステータスに追加されているようだった。
装備という項目に攻撃力が+120されていると記載されている。
「それにしてもすごい……120か、俺の魔力の24倍か」
「どういたしました?」
俺が独り言をつぶやいたのを不思議に思った根津さんが首をかしげて俺を不思議な顔で見る。
「あ、いえ! いい剣ですね! お値段は……」
「はい、そちら2400万円となります。他に比べると大変お買い得ですよ!」
「ぶっ!!」
俺は思わず噴き出した。
2400万円!? 無理無理無理!!
100万円あれば相当いいのが買えると思ってたが桁が違う。
しかし俺のその様子を見て根津さんが信じられないことを言う。
「ごほん! で、ですが、なんと本日に限りすべての商品が90%オフとなっております!」
「はぁ!? 90%オフ?」
「はい、本日在庫処分のために90%オフとなっております。ですのでそちらの商品ですと240万円となりますね」
「す、すごいお得ですね」
(そんなことある? 閉店セールもびっくりだぞ)
「はい、どうです? そちらの剣がお気に召しましたか?」
「え。えぇ。ですがちょっと……それでも高いですね……俺ではとても……」
「そうですか……失礼ですがご予算は」
「じ、実は100万円ぐらいしかなくて……お恥ずかしいですが……」
すると根津さんが、咳払いする。
「ゴホン! 失礼しました、そちらの商品は傷物でしたので96%オフです」
「傷なんて……って96%オフ!?」
「はい、本日のみのスペシャルプライスです」
「か、買います!」
俺は騙されているのかと思いながらも即決した。
……
「ありがとうございました!!」
大きな声で根津さんにお辞儀されながら送り出される。
96万円と大変な買い物だったが、これほどお買い得な商品もないだろうと即決した。
何か裏で力が動いていたような気がするが、気にしないことにしよう。
なんとなく頭に眼鏡のニヒルな笑いがちらつくが忘れよう。
俺は上機嫌でお店を後にした。
◇
「はい、田中様。先ほどお買い上げされました。2400万円の品ですがよろしかったのでしょうか」
灰を見送りながら、店の外で根津は田中に連絡する。
「なんだ、君の店では安いぐらいだな。まぁ本人が気に入ったのならいいか……とりあえず差額は振り込んでおくよ。意外とばれないものだね。いや、ばれていてそれでも黙っていたのかな。ふふ、彼らしいな。素直に受け取ってくれればいいのに、ありがとう、助かったよ」
「いえいえ、私共としては大したお手伝いもできませんで……それにしてもあの少年。田中様がそれほど目を掛けるとは……まさかS級ですか!?」
「はは、違うよ。彼はアンランクだ」
「アンランク!? あ、で、ではどこかの名家のご子息様で?」
「いや? ボロアパートに住む貧乏少年だよ。世間一般でいえばこの社会の下層に位置する少年だ」
「そ、それは……」
「でも」
「でも?」
「私の勘が……言っているんだ。彼を絶対に手放すなと。ふふ、これはだだの勘だがね。だが人を見る目には自信がある」
その田中の一言を聞きながら根津は遠くに見える少年の後ろ姿を見つめる。
何のとりえもなさそうな、どこにでもいる普通の青年を。
◇
「いやーいい買い物ができた! これならE級ダンジョンもソロ攻略できるんじゃないか?」
俺はそのうっとりするような真っ白な剣に頰擦りする。
白くて、まるで雪のようなロングソード。
しかし鉄よりも鋭く、固く、そして軽い。
今にも舐めてしまいたいほど綺麗だが、剣を路上で舐めるなんて昭和のヤンキーしかやらないので自重する。
街中で剣を腰に差しているのも攻略者資格を持つ俺だから許される特権だが。
「とりあえず、凪の様子を見に行こう……寂しがってるかな」
俺はそのまま病院へと向かった。
……
「灰君!!」
病院につき、面会したいと受付の方に言うと伊集院先生が下りてきた。
そして俺を抱きしめる。
「伊集院先生!」
「田中さんという人から連絡をもらったが……生きていてよかった……本当に。この仕事をしていると別れはいつも突然だが、生き返ったのは君が初めてだよ。本当によかった。まったく書類上の不手際とはいえ、君の死は日本中に流れてしまったぞ。いや、本当によかった」
「はは、すみません。一週間自宅で寝込んでたらこんなことに」
俺は田中さんと決めた言い訳を答える。
俺はダンジョン攻略したあと、疲労とケガで一週間自宅で寝込んでいたということにした。
細かいところを指摘されるとすぐに嘘だとバレるのだが、まぁごり押せるだろうと。
田中さんが協会の偉い人ともつながりがあるそうで、うまくやると言っていたのでまぁ任せよう。
「そうそう、田中さんね。友人だそうで、すごいコネだね。凪ちゃんは動けないことを除けばとても良好だよ、一週間会えずにとても心配していると思うから早く声をかけてあげてくれ……案内しよう」
俺はそのまま伊集院先生に連れられて最上階へと向かう。
「これは……すごいな」
俺がその最上階の一室に入ると、凪と介護してくれる一人40代ぐらいの女性が何かを読み聞かせていた。
それだけではない、ここはどこの高級ホテルだというほどに快適な空間。
すると俺に気づいたそのおばさんが立ち上がり、挨拶をしてくれる、
「あ、こんにちわ。私ギルドアヴァロンから派遣されています、ASM専用介護サービス会社の山口です」
「あ、どうも……兄の天地灰です」
出会いがしらに名刺を渡された俺、どうやらこの40代ぐらいの山口さんはASMで動けない人専用の介護を行う会社から派遣されているようだった。
「凪さんのお世話を色々させていただいてます。最上級のサービスを依頼されてますので、ほら! 少女漫画の朗読サービスです。これぐらいの年代の女性に人気作品をたくさん用意してますよ! それに有名動画から映画まで何でも取り揃えております!」
「あ、ありがとうございます。すごいサービスですね」
「えぇ、せめて声をかけ続けることぐらいしかできませんから……あ、では私は少し外に出てますんで!」
「私も戻るよ、灰君」
そういって山口さんと伊集院先生は、外に出る。
気を聞かせてくれたようで、俺は凪の隣へと向かった。
凪は寝ているのかどうかもわからない。
でも顔色がよく本当にただ眠っているようだった。
「凪……ごめんな、色々あって一週間もこれなかった」
俺は凪の横に椅子を持ってきて座る。
そして凪を見つめて、風で顔にかかっていた髪を整える。
一週間前と何も変わらずとても可愛い妹の寝顔だった。
凪のステータスはどんなのだろうか……覚醒してすぐに発症したから魔力測定もしていないし。
俺の神の眼を発動させて、凪のステータスを見た。
そして腰を抜かしそうになる。
「……はぁ?」
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名前:天地凪
状態:筋萎縮性魔力硬化症
職業:魔術師(治癒)【下級】
スキル:治癒魔法
魔 力:18750
攻撃力:反映率▶25%=4687
防御力:反映率▶25%=4687
素早さ:反映率▶25%=4687
知 力:反映率▶75%=14062
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「凪……お前。A級だったのか、しかも魔術師(治癒)……」
魔力測定値で1万超えを出す。
それがA級と呼ばれる国家戦力とすら呼ばれる覚醒者。
ただし、A級の中では下位に位置するが、それでもこの世界の圧倒的上澄みに存在する力。
そして、職業が魔術師(治癒)、とても貴重な存在でありみどりさんと同じ。
何人か覚醒者を見て分かったのは、この職業というところに魔術師や、武器職人、剣士などがある。
その中で凪は一生食っていけるほどのレア職業。
戦闘には向かないが、パーティには一人はいてほしい存在だ。
凪のステータスを見た俺は自分の妹がはるかに自分よりも強いことに気づく。
「それに……」
状態に筋萎縮性魔力硬化症と書かれていた。
どうやら、この眼は病気ならその症状も教えてくれるらしい。
この名前をつけたのは人間のはずだが、そういえばライブラリを種族人間に併合とかいってたな。
俺はその文字を憎らしく見つめる。
意識して、強く、真っすぐと。
するとそれは現れた。
「え?」
空中に現れるウィンドウ画面のようなステータス。
その筋萎縮性魔力硬化症の文字の横にもう一つポップアウトが現れた。
それは詳細だった。
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属性:病
名称:筋萎縮性魔力硬化症
入手難易度:ー
効果:精神の混濁
説明:魔力が枯渇し、筋肉への神経伝達が到達しない病
治療法:現在のアクセス権限Lvでは参照できません。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
筋萎縮性魔力硬化症の、まだ誰も知らない詳細がのっていた。
治療法という今はまだ見ることができない項目と共に。
今はまだ、見れないだけの項目が。
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