第17話 初めてのソロ攻略ー3

「……お? 戻ってきたのか。報酬が何かは教えてくれないんだな」


 目を開くといつものボス討伐後のキューブの中だった。

キューブの煌めく壁がゆっくりと倒れて休眠モードとなる。


「んで……本当に報酬はもらえたんだろうか」


 俺はその壁を見つめ、ステータスを表示させる。

残存魔力が0になっているので、やはり予想どおりこの残存魔力がダンジョン崩壊を表しているようだ。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

残存魔力:0/50(+1/24h)

攻略難易度:E級


◆報酬

初回攻略報酬(済):魔力+10

・条件1 一度もクリアされていない状態でボスを討伐する。

完全攻略報酬(済):魔力+30、クラスアップチケット(初級)

・条件1 ソロで攻略する。

・条件2 100体以上のブルーベアーを討伐する。

・条件3 ボスを一分以内に討伐する

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「よかった。もらえてるみたいだな……確かに強くなった気がする……か? それにクラスアップチケット? ん? これか?」


 完全攻略報酬は、魔力が+30。

そして、クラスアップチケット(初級)というものがもらえたらしい。

俺があたりを見渡すと、すぐ足元にブロンズ色のチケットのようなものが落ちていた。


 俺はそのチケットを手に取って見つめる。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

属性:アイテム

名称:クラスアップチケット(初級)

入手難易度:C

効果:10枚集めると、職業のクラスアップ試験が開始される。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「クラスアップ試験?……俺のステータスに書かれているこの職業なしってのが変わるのか? なんだ無職に対する罵倒じゃなかったのか」


 俺は自分の手を見つめてステータスを確認する。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

名前:天地灰

状態:良好

職業:なし

スキル:神の眼、アクセス権限Lv1

魔 力:35

攻撃力:反映率▶25%=9

防御力:反映率▶25%=9

素早さ:反映率▶25%=9

知 力:反映率▶25%=9


装備

・騎士の紋章

・ハイウルフの牙剣=攻撃力+120

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「……よし……よし!」


 俺は自分のステータスを見て、両手でガッツポーズを作る。

魔力5だったものが、魔力35になっていた。

魔力10以上、それはE級の条件。

つまり今俺は長年蔑まれてきたアンランクの称号を消し去り、E級へと進化した。


「この調子でいけば俺は……」


 俺は嬉しくなって次のダンジョンに向かおうとした。

だが、すでに時刻は20時を回っており、今日はもう難しい。

焦ってもいいことはないだろうと、この日は家に帰ることにした。


 帰りも3時間かけて我が家のボロアパートへと帰る。


 しかしその日の足取りはいつものダンジョン帰りとは違っていた。


 強くなれる。


 どれだけ努力しても届かないと思っていた上位の攻略者達。

神にも等しい存在達にもいずれは自分は触れることができるのではないか?


 S級、そしてさらにその上すらも。


 俺はこの神の眼の可能性と、自分に与えられた意味を考えながら胸を躍らせ眠りにつく。


~翌日。


 大学にもいっていない俺は世間一般でいえばニート。

寝たいときに寝ておきたいときに起きる。

ただし今日はE級ダンジョンを二つは攻略したいと考えていたので朝9時には起床した。


「身体の疲労もないな、んじゃ。いくか!」


 俺は身支度を整え、昨日同様に比較的田舎にあるキューブへと向かう。


「とりあえずは、このクラスアップチケットを10枚集めるまではE級ダンジョンを攻略しようかな」


 まずはE級ダンジョンの完全攻略を10箇所目指す。

俺の勘が正しいならば多分E級ダンジョンの完全攻略をすればこのチケットがもらえるはず。

もしかしたら今までも手に入れた人はいるのかもしれないが、10枚なければ意味がないし一見ただのゴミのようにも見えるので多分今まで捨てられてきたのだろう。


 ただ完全攻略の条件を考えれば、キューブの完全攻略をしたことがある人がいるのかは疑問だが。


 俺は今日も電車とバスに揺られて田舎のキューブを攻略する。

都会だと、一人で入るところを見られる可能性が高いからだ。


「お、ここのキューブはゴブリン100体か、ならホブゴブリンかもしれないな」


 青色のキューブのステータスを見つめる。

条件は昨日攻略したキューブのブルーベアーがゴブリンに変わっただけのようだ。


 俺は躊躇なく入場する。


 ゴブリンは油断ならない相手だ。

狡猾で、ずる賢く、人間の雌に情欲を抱く。

たくさんの女攻略者が奴らに捕まって悲惨に凌辱されてきた過去がある。

その事実は、世の女性攻略者達の最大の恐怖の対象だった。


 ゴブリン、そしてもう一つ。


 『オーク』。


 そんなファンタジー小説や、同人誌の中だけの凌辱はリアルに起きてしまうと許されることではない。


「はっ!!」


 俺はゴブリンを狩りつくした。

ブルーベアーのときよりも随分と楽に感じた。

攻撃力については武器が良すぎて実感はないが、素早さに関しては値でいえば数倍だ。

それだけでこれほど体が軽く感じるとは。


 これでまだ世間一般では弱いE級だというのだからS級なんてどんな感覚なのだろう。


 全能感で自分は無敵と勘違いしてしまい、犯罪行為に走る人がいるのも無理はない。


『条件2を達成しました』


「お? もうか! ゴブリンはいいな、数がすごいから100体もそこまで辛くない」


 それでもダンジョンを探し回らなければならないあたり100体という数は膨大である。

俺はそのままスマホにダウンロードしている地図を見ながらボスの部屋へとむかった。


「さてと……俺はどれだけ成長できているんだろうな」


 その扉を開けた先。

もちろんそこにいるのはホブなゴブリン。

大きいという意味を持っているホブがついた俺と同じほどの大きさの緑の鬼だった。


「ギャァァ!!」


 ホブゴブリンは吠える。


「久しぶりだな、試させてもらうぞ。俺が──」


 そして、俺は一切躊躇せずに懐へと潜り込んだ。


「ギャァ!?」


「──どれだけ成長できているか」


 それに慌てながらもこん棒を振り下ろすホブゴブリン。

俺はしっかりとそのこん棒を見つめ、一切瞬きをせずに勘ではなく確信をもって最小の動きで躱す。


 そのまま剣を斜めから振り下ろし、ホブゴブリンの首と体を分離させる。


 一撃。


 ホブゴブリンは声を上げることもできずに絶命した。

攻防にして、実に10秒もかからなかっただろう。


 圧勝に見えた。


 でもそういうわけではない。

一歩間違えば死んでいるのは俺だ。

それでも勝てたのは、覚悟の差だろう。


 あのとき、金色のキューブの中で起きた力の試練。

そこで決めることができた、命を懸けるという覚悟。


「……今度は俺の完全勝利だな」


 その結果がこの無傷の完勝だった。


 俺の独り言と共に、完全攻略を告げたシステム音声。

そして光の粒子に包まれて俺はダンジョンの外にでた。


「よし、チケットがある。やっぱりE級を完全攻略するとこのチケットがもらえるっぽいな」


 俺は足元にあったチケットを拾う。

時刻はまだ昼過ぎといったところだった。

この日はもう一つ回りたい、時間的にも問題ないだろう。

俺はそのまま目星をつけていたダンジョンへと向かった。


 そのダンジョンも何も問題なく完全攻略した。

どんどん強くなる俺は、もはやE級ダンジョンの敵に脅威を感じなくなる。

その日は二つ攻略し、翌日も二つ攻略。


 その翌日も二つ攻略と大体一日で無理をしないなら二つがちょうどよさそうだ。

四日ほどそれを繰り返し、すでに合計で九つのE級ダンジョンを攻略していた。

残すところあと一つで十個のダンジョンを攻略することになる。


 クラスアップチケットも九枚集まり、あと一枚で十枚揃うところまできていた。


「さぁ、ここが最後だ。これが終わったらクラスアップチケット使ってみるか? 昇格試験ってのがどんなのか気になるし……」


 時刻は夕暮れ時。


 太陽が落ちて、オレンジ色の空が綺麗な時間。


 俺は目標枚数が集まりそうなクラスアップチケットの使用について頭を悩ませながらも、目的の無人駅に降り立った。

駅員さんもいない無賃乗車がいくらでもできそうな駅で俺は降りる。

あたりを見渡すと、視界を遮るものは山以外何もなかった。


「この村にE級のキューブがあるのだけは協会の情報でわかったけど、場所が書いてなかったんだよな……村の人に聞いてみるか」


 なぜかこの村のキューブの詳細は協会の攻略者専用サイトには載っていなかった。


 四方を山に囲まれて、完全に外界と遮断された村で、盆地。

この村だけ世界に取り残されているような、都会住みの俺からしたらありえない光景だった。


 屋根が木造ですらなく、茅葺きの屋根、川では半袖半ズボンの子供が遊んでいる。

田舎で検索したら真っ先に出てきそうな、どこか懐かしさを感じる風景。


 『夜鳴村』


 地図ではそう書かれていたが、なんだろう、少し怖い雰囲気があるな。

生贄とか捧げてそう、偏見で申し訳ないのだが。


 俺が駅に貼られた地図を見ていると、突然話しかけられる。

俺は癖ですぐに身構えてしまった、しかしそこには。


「あ!! も、もしかして攻略者の方ですか!?」


 制服の女の子が手を振っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る