第18話 初めてのソロ攻略ー4

「は、はい?」


 いきなり話しかけられた俺は挙動不審になってしまう。

年は中学生ぐらい? 凪と同じぐらいの身長で、どことなく雰囲気が似ていた。

化粧っけがない素朴な感じというのだろうか、悪く言えば垢ぬけていない。

その姿が家でずっと寝ていて化粧も知らない凪に少し重なる。


「あ、す、すみません。私この夜鳴村の今井渚といいます」


「今井さん……は、はじめまして。で、ど、どうしたんですか?」


 俺はいきなり話しかけられた理由を尋ねる。

バレたわけではないだろうが、俺はルールを破ってキューブを一人で攻略しているんだ。

少しばかりの罪悪感が俺の鼓動を速めた。


「あ、そうですね。連絡させていただいたんですけど……とりあえず様子からみてもらえますか?」


「様子?」


「はい、キューブのです!」


 どうにも話がかみ合わないと思ったが、今井さんはすたすたと歩いていってしまうので後をついていくことにする。

キューブの場所まで案内してくれるのなら好都合だし、この村のキューブの場所は知らなかったので俺はよくわからないままついていくことにした。


 足早に急くように真っすぐ歩いていく今井さん。

その後ろ姿を見て俺は、思わずつぶやいてしまった。


「……凪」


「え?」


「あ、いやなんでもないです!」


 体系と身長、そして髪型。

すべてが凪と似ている今井さん、なんなら名前までなぎさとなぎで似ているし。

顔はさすがに似てはいないが、それでも化粧っけのない素朴な感じは似ている。

だが凪は素材だけで世界一可愛いので、そこだけは違うかな。

しかし後ろ姿は、もしも元気に成長し中学生に通っていたならと想像してしまうほどには似ていた。


 少しその背中に俺はセンチメンタルになりながらも、いつか凪も制服を着て元気に歩いて欲しいと思った。

そのためにも絶対にこの神の眼で治療法を見つけなくてはならない。


 俺はそのままついていく。

すると村の中心だろうか、そこには何か大きな建物と村人が囲うように集まっていた。

50人ぐらいだろうか、お祭りでもあるのかな?


 四角い箱型の建物を囲むように人が集まっている。

まるでキューブみたいだが、プレハブ小屋のようだ。


 俺がその建物を見つめていると、一人の老人が俺を見つけて叫び出す。


「渚! お前!!」


 農家のおじいちゃんのような人だ、悪く言えば頑固そう。

それにつられて多くの村人たちが俺を見た。


 歓迎されているような雰囲気は一切感じない。


 というよりもむしろ。


「ごめんなさい、で、でも! やっぱりプロの人呼んだ方が!!」


「バカやろう! 村のことは村で解決する! それが昔からのしきたりだし、そう決めただろうが!!」


 するとお爺さんが俺の前まで歩いてくる。


「よそ者は帰れ、ここは儂らの村じゃ。盗人が。甘い汁を吸いにきよって」


「はぁ?」


 いきなり罵倒される俺、だが次々と他の村人たちが同じように俺に暴言を吐きながら帰れと浴びせる。

なぜいきなりきて、ここまで罵倒されなくてはいけないのかわからないが、だんだんムカついてきたな。


 しかも俺ならまだしも今井さんが滅茶苦茶責められている、理由はわからないが可哀そうだった。


「で、でも……」


「渚、お前いい加減にしろ!!」


 お爺さんがすごい形相で今井さんに拳を振り上げる。

今井さんは、泣きそうな顔で目を閉じた。


 しかし、その拳がそのまま今井さんを傷つけることはなかった。


「よくわかりませんが、自分のせいならその拳を下ろしてください。俺は帰りますから」


 俺はその拳を受け止める。

お爺さんとはいえ、覚醒者。

もし等級が高かったら今井さんに傷がつく。

といってもステータスは見ていたので、お爺さんはE級、今井さんはD級なので問題ないだろうが。


「よそ者が……しゃしゃり出るんじゃねぇ!!」


 お爺さんはその腕を無理やり振り払った。

俺はよくわからないながらも、今井さんに帰りますといって下がることにする。


 俺はそのまま駅へと向かった。

ここのキューブは惜しいが、とてもじゃないが攻略できるような雰囲気ではなかった。

別にキューブはいくらでもあるので俺は他の場所を攻略することにした。


「あ、あの!!」


 すると後ろから今井さんが走ってきて俺を呼び止めた。


「すみません、本当に。あ、あとさっきは助けてくれてありがとうございます」


「いや、いいんです。一応何があったか聞いてもいいですか?」


「……それが」


 今井さんが俺に事情を説明してくれた。

この村のキューブはこの村にいた覚醒者である村長の孫が一人で間引いていたそうだ。

だが、その覚醒者は海外のギルドに誘われていって今はアメリカにいるらしい。


 喧嘩別れだったようだが、そういう事情もあり村長はかたくなに外からの支援を求めなかったそうだ。

その喧嘩別れした村長が、あのお爺さんである。


 そして明日、いよいよダンジョン崩壊がいつ起きてもおかしくない状態なので村を上げてダンジョンのボス討伐に行くとのことだった。


「今どきこの日本でそんな村があるんだな……閉鎖的というか」


「なので私がダンジョン協会に連絡したんですが、その……自治体の代表の方からお願いしますって……で、でも来てくれてよかったです!!」


「あぁ……」


 俺は少しだけ罪悪感で目をそらした。

キューブは基本的にダンジョン協会が管理している。

しかし、キューブは既存のものに加えて突如空から降ってくる場合もあるためすべてを把握はできない。

そのため新しいキューブについては、その発見した地方の自治体が連絡することになっている。


「でもあの様子じゃな……」


「……とても失礼なお願いだと思います、で、でもお願いします! 助けてください! お金はす、少し待ってもらわないといけないですが! 絶対払いますから!」


 今井さんは必死に頭を下げて俺を呼び止めた。

あんな仕打ちをされてなんでだろうと、俺は思った。


「なんでそこまで、あんなことされたのに」


「……お願いします。この村の人は私の大切な人なんです。だから……お願いします。お願いします」


 俺はその必死の態度に頭を書きながらどうしたものかと悩んだ。

それでもここまで必死に頼まれてしまうとどうも俺は弱い。

特にこんなに凪に似ている女の子だと、なおさらだった。


 お人よしと言われればそうだろう。


 でも助ける力がある人が助けを求めている人を助けない。

それを俺は恨めしいと思った過去がある。

身勝手だけど助けてほしいと思ったこともある。


 俺なら絶対手を差し伸べるのにと、憤りを感じたことがある。


 なら答えは決まっていた。


「わかった。じゃあ今日と明日はこの村にいるよ。何かあればそれで対応できるだろう」


(E級ダンジョンなら何かあっても俺でも大丈夫だろうし)


「ほ、本当ですか!? あ、ありがとうございます! じゃあ今日は私の家に泊ってください! おばあちゃんと二人で村の端にありますが」


「そう? じゃあお世話になろうかな、そのほうが何かあればすぐにいけるだろうし」


「じゃあ決まりですね! あ、今更ですけどなんてお呼びすれば……」


「あ、天地です」


「了解です、よろしくお願いします。天地さん」


 俺はそのまま村のはずれにある茅葺きの屋根へと向かった。


「おばあちゃーーん。今日一人お客さんを泊めるね!!」


 今井さんが家に入るなりおばあちゃんを呼ぶ。

すると、80代ぐらいだろうか、杖をもって腰に手を当てたおばあさんが出てきた。

俺は少し警戒するが、全く問題なくむしろ優しそうなおばあちゃんだった。


「この村に外からのお客さんなんて珍しいねぇ。渚の彼氏かぇ?」


「ち、違うから!」


「なんじゃ、じゃああれか出会い系アプリか、てぃんだーとかいうやつか。じゃあ儂はしばらく外に行くからいくらでもたのしむといい。だが一つだけ、避妊はせいよ」


「お、おばあちゃん! 変な事いわないで!!」


 今井さんが慌てておばあちゃんの口を閉じる。

田舎のおばあちゃんという感じだったのに中身は全然違った。

相当おちゃめなおばあちゃんだわ。


「ご、ごめんなさい。天地さん、おばあちゃん冗談が好きで」


 俺に謝る今井さん。

その後ろで楽しそうにピースして入れ歯を見せながらニカッ笑うおばあちゃん。

めちゃくちゃ元気で楽しそうなおばあちゃんだな。


「はじめまして、天地です。今井……いや、渚さんから呼ばれた攻略者です」


「そうか、そうか、いらっしゃい。じゃあ飯にしよう、遠路はるばるきてくれてありがとう。なんもないところじゃが、ゆっくりしなされ」


「はい、お邪魔します」


 俺はそのまま家の中に上がり、案内されるがまま居間へと向かう。

うわ、囲炉裏だ、初めて見た。

案内された部屋で俺は胡坐をかいて座った。


「何か手伝いましょうか?」


「いやいや、お客さんは座っていなされ。渚、今日は鍋にしよう。あの肉をだそうか」


「……わかった……」


 俺がただぼーっと部屋で待っているとてきぱきと鍋の準備が進んでいく。

この肉何の肉だろう、牛でも豚でもなさそうだけど美味しそうだな。


 そして囲炉裏に火が炊かれ、鍋がつるされる。

山菜やお肉が次々と入れられて美味しそうな匂いが部屋に充満する。


「じゃあたべようか」


「いただきまーーす!!」


 俺はその鍋を堪能した。

米もさすが田んぼだらけの田舎、めちゃくちゃ美味しい。


「どうじゃ? うまいじゃろ?」


「ふぁい、本当に! ふぉれ何の肉です?」


「人肉じゃよ」


「え?」


「さて、そろそろ薬が効いてきた頃かの……」


 おばあさんは俺を見て、確かに笑っていた。



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