第131話 終わった世界ー5
「大丈夫、レイナ。絶対に私達が助けるから」
彩は剣を構える。
その剣は純白で真っ白で、かつてのあの人が使った剣と全く同じ形。
レイナは銀色の鎧を纏って、彩へと切りかかる。
モードレッドと戦っていた彩は、距離を取らされる。
本来であれば彩がレイナに勝てるわけがない。
しかし、5年の月日を戦いに明け暮れ、さらには超越へと至った彩ならば操られるレイナならば切り結べる。
「龍さん! こっちは任せて!」
「おう!」
その声に合わせて、龍之介がモードレッドへと切りかかる。
「もう! 僕は戦いたくないのに!」
「ふざけるなぁぁ!!」
おちょくるように笑う道化のようなモードレッド。
戦いたくないと言うのは、自分は戦いたくないと言う意味でしかない。
傍観者として、観客として、ただ狂っていく人々を見ていたい。
それが円卓の騎士、モードレッド。
戦いは激化していく。
イモータルは彩の力で強化されたA級以下の攻略者達。
黒の騎士は強化されたS級達。
そしてレイナとは彩が戦い、モードレッドとは龍之介が戦う。
戦いは均衡していた。
だからこそ。
「はぁはぁはぁ……なんで……死なねぇ……お前も不死身だってのかよ」
敗北するのは人類側だった。
龍之介はその鍛え上げた技術で、モードレッドに何度も手傷を負わせている。
しかし、まるでダメージがないとでもいうように、道化師は高笑いするだけだった。
「ははは! そうだよ! 僕は死なないからね! 君達では絶対に勝てないよ!!」
おちょくるように、戦場を駆けまわるモードレッド。
「なら! これでも死なねぇのか!! 覇邪一閃・黒龍!!」
超越者になった時だけ使える龍之介のたった一つのスキル。
まるで真っ黒な龍が、振るった剣から放たれてモードレッドへと真っすぐと伸びる。
「――!?」
その龍がモードレッドの体の半分を食い散らかす。
上半身がまるまる無くなったモードレッド、さすがにこれで死んだはず。
「はぁはぁ……やったか」
だが当たり前のように聞こえてくるのは、おちゃくるような笑い声。
「ははは、それってやってないときに言う言葉だよね? 無駄だってわかんないかな」
「なんなんだよ、まじで。無敵なんてありえねぇぞ」
食い散らかされた上半身が、塵を集めていくように再生していく。
まったくの無傷で再度復活する道化師は、首をかしげながら笑っている。
その時、龍之介の横に彩が吹き飛ばされてくる。
それはレイナによって投げ飛ばされた彩だった。
彩も強くなったとはいえ、レイナは幼少期からずっと鍛えられてきた天才。
近接戦闘では、彩に勝利はない。
さらにいえば、彩はレイナを傷つけられない。
「うわぁぁぁ!!!」
悲鳴が聞こえて、消えていく。
。
イモータルによって、解放軍の誰かが死んだ。
「くそぉぉぉ!!! なんで死なねぇんだよ!!」
また悲鳴が聞こえて、消えていく。
物言わぬ黒の騎士によって、S級の誰かが死んだ。
「ははは! 随分と色々準備したようだけど、無駄無駄! ほんとにお前達ってバカだよねぇ! 自ら僕の駒になりにくるなんてさぁ!!」
こちらは被害が出ていくのに、相手には一切の被害はなし。
「……て、撤退」
彩は決断しなければならなかった。
撤退し、ここを明け渡す。
でなければここで全滅する。
モードレッドを倒せば勝てる算段ではあった。
しかし当の本人すらも不死身なのであれば勝利はない。
「あれれ? 逃げようとしてない? だめだよ?」
その瞬間だった。
「なぁ!?」
「体が!!」
「なんだこれ!! 動けねぇ!!」
モードレッドが指を動かした瞬間だった。
解放軍の中で負傷していた半数近くが動けなくなる。
まるで操られているかのように、そして自らの武器を首元に当てる。
「まさか……操ってるの? 一体なんなのよ、その力は……」
そして、レイナも同様に彩の眼の前まで歩いてきて。
「彩……ごめん……逃げて……ごめん」
自らの剣を泣きながらその喉へと向ける。
「撤退したらみんな殺すよ? だからさぁ彩ちゃん! 最後まで僕と遊ぼうよ!! 君が泣きながらすべてを差し出す姿が見たいんだ、だから!」
その道化師は今まで見せたことがないほどに歪んだ表情で彩を見て言った。
「――心折れるまで僕と遊ぼうよ!! そして僕のお人形になって!!」
その言葉に、心から彩は恐怖した。
この敵にはそれができる力があり、心の底からそれを楽しんでいると。
狂っている。
「あ、あ、……」
その時彩の心に隙ができた。
恐怖という隙、勝てないという敗北感、その隙をこの悪魔は絶対に見逃さない。
「彩ちゃんゲット~~」
「――!?」
その瞬間、自分の体の自由が利かなくなったことに気づく。
「ははは! 弱いね、ほんと弱い! 心が弱すぎる! こんなことで心折れちゃうのに僕に歯向かうからこうなるんだよ!」
モードレッドが指を動かすと彩は自分の体が意志とは関係なく動くことに気づく。
正確にいえば心とは別で、体が勝手に動こうとする。
「よーし、次は彩ちゃんとレイナちゃんで殺し合え! 勝った方が僕のお気に入りのお人形さんにしてあげる!」
「やめて……」
「いや……」
レイナと彩は剣を握って向かい合う。
それを止めようと龍之介は走るが、黒の騎士達が行かせない。
泣きながら見つめ合う姉妹のように育った二人は剣を握る。
振り上げて、お互いを殺そうとする。
それを見て心底楽しそうに笑うモードレッド。
人類は敗北した。
見つめ合いながら振り下ろされる剣。
もう誰も二人を、そして人類を助けることはできなかった。
この時代には、もういない。
「助けて……」
だから。
バチバチバチ!!!
過去から彼はやってきた。
雷鳴が鳴り、空気が爆ぜる。
稲妻のような速度で、戦場を何かが駆けていく。
気づけば、レイナと彩は抱きかかえられていた。
「ごめん、遅くなって……彩、レイナ」
いつの間にか体の自由は聞くようになっている。
そして見上げるのは、いつも見てきた顔、何度も見てきた角度。
助けてくれるたびに、この覚悟から彼を見てきた。
ずっと閉まっていたものが蓋を開けて、彩の中で決壊する。
「もう……遅いです。ほんとに遅いです!!……五年も待ったんですから……」
「でもずっと信じてた。来てくれるって……」
「あぁ、ほんとに遅くなってごめん。だから」
でもこれは悲しさなんかじゃない。
嬉しくて、どうしようもなく嬉しくて、涙を流す。
彩とレイナが見上げる彼の眼は、黄金色に輝いて。
振るえるほどの怒りを込めて、敵を見る。
そして口を開いて。
「――あとは俺に任せろ」
人類の反撃の狼煙を上げた。
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