第132話 終わった世界ー6

 モードレッドは首を傾げた。


 なぜレイナちゃんと彩ちゃんに繋げた自分の魔力糸が切れてしまったのだろうか。


 ゆびをくいくいと動かしてみる。


 しかしやはり外れてしまっている。


 切られた? 全部?


 そんなことは不可能だ。

それこそ見えていない限り一本ぐらいは普通は残る。


 なのに。


「どういうこと? 君は誰?」


 全て切られた。


「彩、レイナ。ごめん、遅くなって。もう少しだけ待てるな」


「う˝ん˝……う˝ん˝……」

「待つ。ずっと待つよ」


 灰は彩とレイナを傍におろし、モードレッドの方を睨む。


 そして。


「お前……まさか……その眼、その眼!! 神の騎士!!」


 その眼を黄金色に輝かせる。

モードレッドの眼の色は変わり、深淵のような闇へと落ちていく。


 灰はその眼を持って、モードレッドのステータスを閲覧する。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

名前:モードレッド

状態:良好

職業:道化師【真・覚醒】

スキル:マリオネット、闇の眼

魔 力:2500000

攻撃力:反映率▶75%=1875000

防御力:反映率▶75%=1875000

素早さ:反映率▶50%=1250000

知 力:反映率▶50%=1250000

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 そしてそのスキル、マリオネットの詳細も確認する。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

属性:スキル

名称:マリオネット

効果:

・魔力糸が付き、心が折れた相手を肉体的に操る。

・自身が殺した相手は、魔力糸が切れない限り動き続けるマリオネットとなる。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 このスキル、マリオネットで彩とレイナを操っていたのだろう。

このモードレッドと呼ばれる道化師から伸びているのは魔力糸。


 まるで薄いワイヤーのような見た目だが、魔力で出来ているため彩達には視認することはできない。


 だが、この眼なら。


ザシュッ!!


「もう見えてるぞ、モードレッド。彩達を操ろうとしても無駄だ」


 この世界の全てが見える。


「ふふふ、ははは! そかそか、どうしていきなりこんなことしたのかと不思議だったけど。そう、君が戻ってきたんだ。五年もどこいってたの? みんなを見捨ててさ! たくさーーん死んだんだよ! 君が逃げたせいで!!」


 モードレッドは、冷や汗を流しながらおどけるように灰を挑発した。


 逃げなくてはならない。


 もし本当にこいつが神の騎士で、神の眼を持っているというのなら自分とは圧倒的に相性が悪い。


 はやくここを離れなくてはならない。

挑発して、少しでも時間を稼ぎながら指を動かす。


「……その通りだよ」


 だがそれは灰には逆効果だった。

そんなこと一番今灰が感じている。

この世界にいきなりきて、五年後ですと言われて、何もかもがわからない。


「だからこっからは俺が救うんだ。まずはお前からだけどな」


「ぜ、全員いけぇぇぇ!!」


 その言葉と同時に周りの黒の騎士含むすべてのマリオネットが灰へと襲い掛かる。


 だが同時に灰は最優の騎士を発動した。

そして真のスキルへと昇華した真・ライトニングで頭上を見た。


 それを見てモードレッドは目を見開く。


「――真・ライトニング」


バチッ!!


「――!? ど、どこに……まさか!? や、やめろ。やめろぉぉぉぉ!!!」


 モードレッドは目の前で突然消えてしまった灰に目を見開く。


 そして見上げるのは頭上。


 まずい、まずい、まずい!!


 今のは瞬間転移か!? 魔力糸はすべて見えている。


 だとするならば、今向かった先は。


「お前が本体か」


 自分の本体がいる雲の上。


 分厚く真っ黒な雲の上、そこに龍種の背に乗って地上のマリオネット達を操る本体がいる。


 灰は、天から道化師に向かって魔力糸が伸びているのが見えていた。

ならば地上にいる道化師のようなモードレッドと名乗る存在すらフェイク。


 自分は遥か頭上で安全に戦い続けているのだろうと。


 そしてその勘は的中した。


 慌てるモードレッドは灰に背を向けて逃げようとする。

だが、龍種の翼を叩き切られて地面へとそのまま落下する。


ドスン!!


「はぁはぁはぁ……」


 上空5000メートル以上からの自由落下。

モードレッドをしてもダメージを多少なりとも受けて、仰向けになる。


 早く立ち上がらなくては、早く。


 魔力糸で全員呼び寄せて!


ザシュッ!!


 だがその魔力糸は全て灰によって叩き切られた。


 すべての黒の騎士と魔獣は力なく倒れて灰となる。


「詰みだな、モードレッド。お前の負けだよ」


 そして灰によってその首元に剣を突きつけられる。


「ま、まだ!! 僕だって戦えるんだぞぉぉ!!!」


 モードレッドは素早く起きて、腰の短剣を握りしめる。

確かにモードレッドの魔力は高い。

数値でいえば彩にもレイナにも圧倒的に上回っているだろう。


 だが。


「灰、お願い。ここはやらせて。こいつだけは私、許せないの」


 こんな奴が戦いの技術があるようには見えない。


 レイナが剣を握ってモードレッドの前に出る。

そして、戦乙女を発動し、切りかかる。


「レ、レイナちゃん! な、なんで!? 操れない!?」

「もう私の心は折れてない!! 灰と一緒ならどんな敵だって乗り越えて見せる!!」


 必死にガードするモードレッド、しかしレイナの一撃一撃で徐々に傷がついていく。


 圧倒的に剣技においてモードレッドはレイナに及ばない。


 きっと勝利したときも物量とイモータルによっての絡めてなのだろう。


「あ、あんなことした仲じゃないか!!」

「――!?」


 そのときレイナが俺の方を見た。


「さ、されてない!! 灰! 信じて!! 私はまだ綺麗!!」

(え? 一体なにが……)


 その言葉とともにレイナの怒りが頂点に達する。


「許せない。どれだけ辱められたか!! 許せない!! お前は絶対に許さない!! 死ねぇぇ!! 女の敵!!!」

「ゆ、許してぇぇ!!!」


ザシュッ!!


 そしてレイナの怒りの一撃がモードレッドの首を叩き切った。


 真っ赤な充血した目のままモードレッドの首が転がり、光を失っていく。


「はぁはぁはぁ……」


 そして黒の帝国、円卓が騎士の一人。モードレッドは死んだ。


 この日人類の反撃の狼煙はあがり、敵の一角を落とすことには成功した。


 これから俺達、人類の戦いは続いていく。


 でも今は正直。


(レイナは一体なにをされたんだ……)


 レイナが一体なにをされたのかが気になって仕方ない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る