第122話 この剣は守るためにー3

 俺の幻影と人型が対峙する。

その間に俺は攻略者を次々と転移させた。

さすがに俺の幻影では時間稼ぎ程度にしかならないようで、今にも俺が殺されてしまいそう。


 その時だった。


「どこに……いくんだ」


 すると俺の幻影と戦っていた人型は突如何かに呼ばれたように俺達を無視して飛んでいく。

空気の壁すらもぶち破り一瞬で長崎沿岸部から消えてしまった。


 俺は追おうと一瞬考えたが今は人命優先。

まずはここにいる攻略者全員病院へと転移させる。


「天道さん、後は俺に任せて休憩してください」

「坊主……わりぃな。あれは相当つえーぞ。消えちまったが」

「はい……」


 天道さんも相当に重症でいつもの強がりを見ることもできなかった。


 そして最後の一人。


「レイナ、ごめん。遅くなって」

「ううん、ありがとう。灰……全然大丈夫。私頑丈だから……」


 俺はレイナを病院へと転移させた。

伊集院先生に任せて、俺は再度ライトニングを発動する。


 発動するのは龍の一体。


 生物であればマーキングできるライトニングは魔獣相手でも効果がある。


「……よくもこんなに人を殺したな」


 俺は今だに空に飛ぶ龍の群れを見る。


「これ以上この国を壊させない!! 真・ライトニング!」


 俺は真・ライトニングを発動させ次々とS級の龍を撃ち落していく。

強い個体はレイナが頑張って倒してくれたおかげで残りはそれほど強くない龍ばかり。

それでも魔力量が数十万から60~70万までいくのだから、さすがはS級の魔物達だった。


 でも。


「ランスロットさんの剣技はすごいな」


 その龍達をものともせずに倒していく。

俺の魔力は今100万。

しかし反映率の大幅な上昇と、優秀なスキルである真・ライトニングと真・ミラージュ。


 さらに最も俺の戦闘力を向上させているのはランスロットさんの剣技だった。


 ランスロットさんの記憶を旅した俺は彼の剣技を受け継いでいる。

俺の心には彼の記憶が宿り、俺の肉体には彼の魔力が宿り、そして俺の剣には彼の想いが宿る。

まるで手足のように剣が動くし、どうすれば最善なのか考えるよりも体が動いた。

人生すべてを剣に捧げたランスロットさんの極みの技を俺は彼の光によって受け継いだ。


 だから。


(ランスロットさん……アテナさん……任せてください)


「俺が全部守りますから!!」



◇アナウンサー視点


「み、見えますでしょうか……突如現れた日本を追放されたS級攻略者、天地灰。その天地さんが次々と龍を落としていきます。なにやらスキルを使ったようで攻略者達も全員安全なところに避難されたのでしょうか」


 日本中に放映されていた龍と日本の攻略者の戦い。

人型がでてから絶望的状況に人々の不安はピークに達していた。


 だが彼の登場でそれは一変した。


 稲妻のごとき速さで次々と人々を救っていく。


 そして今はあの龍を見えないほどの速さで撃ち落とす。


 人型はきっと恐れて逃げたんだ。


 そんな希望を彼らは抱き、ただ灰を応援した。


 彼が日本を追放されて、中国にいったことはほぼ全員が知っている。

それでも応援するしかなかった。

今この国で戦えるのは彼だけなのだから。


 そして30分近くの戦いの末。



「はぁはぁ……全部倒せたかな……」


 俺は長崎沿岸部のすべての龍を討ち滅ぼした。


 あとはあの人型を。


 そう思った時だった。


プルルプルル。


 俺のポケットのスマホが鳴り響く。

画面をみたらそれは彩からだった。


「……デートすっぽかしたもんな。一言だけ言っておくか」


 彩は戦いには出てきていないはずなので安全なところにいるはずだ。

そう思っていたので戦っているレイナを優先して俺はここに来た。

電話がくる当たりどうやらテレビを見ているのかな?


 あのアナウンサー前もいた気がするけど。

俺は電話にでて、心配かけてごめんと謝ろうとした。


「あぁ、彩。ごめん、心配かけ──」


「初めまして。神の騎士」


「──!?」


 しかし電話の向こうから聞こえたのは彩の声ではなかった。

俺を神の騎士と呼ぶ低い男の声。

この世界の人間で神の騎士という単語を知っている人はおそらくはいない。

俺は一瞬で何かが彩の身にあったんだと理解する。


 そしてその声の主も俺は知らないが、彼の記憶は知っていた。


「彩に何をした。お前……マーリンか」


「はは! そうか、神の眼だけではなく記憶も受け継いだか! そうだ、私がマーリン。黒の帝国、最高の魔術師。マーリンだ!!」


「……お前か。すべてを仕掛けたのは!! 彩に何をした!!」


 ランスロットさんの記憶の中で俺はこの男を知っている。

マーリンと呼ばれ魔術に長けた存在。

ランスロットさんを操り神を殺せと命令したのもこの男だった。


「ふふ、そうだ。安心しろ、お前の女には何もしていない。声を聞かせてやろう。ほらしゃべれ」

「もしもし? 灰さん?」


「あ、彩!!」


 その声は間違いなく彩だった。

でもなんだろう、声の抑揚が変だった。


「よかった。灰さん、心配したんです。本当によかった……それでね。灰さん……私死なないといけないんです」


「はぁ? 何を言っているの? 彩……」


「世界のために、既存の神の世界を壊すために。私は死なないといけないみたいなんです」


「な、なにを!! …………そうか。狂信」


 俺は彩の身に何が起きているのかを理解した。

おそらく闇の眼の力、自身よりも弱い魔力の者を操るランスロットさんすらも操ったあの力だろう。

それに今彩は囚われている。


「と、いうことだ。神の騎士よ。お前なら何が起きているかわかっているな? 止めたくばここまでくることだな」


「あぁ、すぐにいく……ライトニング」


 そして俺は彩の影に稲妻となって転移した。


 直後のことだった。


「──!?」


 転移した瞬間、空気がつぶれる音がする。

俺はすぐにその場を飛び退いて回避する。


 それは拳だった。


「どこに言ったと思ったら……ここに来ていたのか」


 そこには長崎からいなくなったと思った人型の龍がたっていた。

その奥には黒いローブの男、あれがマーリンだろう。

そしてそのマーリンの手が彩の肩に置かれている。


「彩に触れるな、マーリン」


「ははは、この女を助けたいか? ならば死ね。そうすれば助けてやろう。抵抗は許さんぞ? 抵抗すればこの女の首をへし折る」


 そういってマーリンはその手で彩の細い首を握る。

そうか、正攻法で来るわけはないと思っていたけど彩を人質にしたのか。


「人質を取らなければ戦えないのか」


「ははは、お前達はいつも大変だな。守る強さといいながら、守る弱さを見ようとはしない。守る者がいるものが強い? 間違っているぞ、それはただ弱点にしかなりえない。今のお前のようにな!!」


 マーリンは嬉しそうに彩の首を握りながら高笑いする。

俺はその間に必死に考えていた。

この人型の龍を超えて、彩を助ける方法を。

ライトニングで一瞬で、いや、真・ミラージュで背後から。

俺はあらゆる考えを巡らせる。


 しかしそれはすべて捨てなくてはならなくなった。


「さてと、まぁ龍神だけでも十分だと思ったのだが、私は慎重なタイプでな。どうやらお前はかつてこいつに負けたらしいじゃないか」


 その言葉とともに空から何かが降ってきた。

まるで隕石のような速度で俺の目の前に落ちてくる。


 砂煙が待って、コンクリートの地面が消し飛ぶ。


 それは人だった。

あの時と同じ登場の仕方、破壊の限りを尽くす暴力の化身。


「……まさか。お前もなのか」


 俺の前に落下したそれは、ゆっくりと俺の前に歩いてくる。  

サングラスを外して、まるで殴れと顔を近づけあの時と同じ言葉を言った。


『Come on boy』


 それは暴君。

 

「お前も操られているのか……アーノルド」


 かつて俺が唯一敗北した世界最強の男だった。



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