第55話 S級へー2

◇一方ダンジョン協会 日本支部 大会議室


「では中国も参戦したいと?」


「ええ、龍の島奪還作戦。米中日共同戦線といこうではありませんか。ねぇ景虎会長」


 そこでは中国人らしき眼鏡をかけた男が座っていた。

彼は中国のダンジョン協会の重鎮の一人、名を李 伟(リー ウェイ)と呼ぶ。


 そして対面には日本ダンジョン協会会長、龍園寺景虎。

加えて日本トップギルド、アヴァロンの副代表田中一誠、そして代表の天道龍之介も座っている。


 会長よりも体は大きく、まるで傭兵のような男が天道龍之介。

無精ひげを生やし、髪はボサボサ、特に見た目には気を使わずいつもタンクトップでたばこを加えているのだが、今日ばかりはさすがにカッターシャツを来てギリギリ正装を呼べる服を着ている。

その鋭い眼光は、歴戦の戦士であり常人なら目を合わせるだけで震えが止まらなくなるほど。


「元々予定では、米国と日本の共同戦線のはずじゃ。それを後から入れてくれとは?」


「まぁそういわずに。なぜならあの島は日本の次に私達中国の隣にあるのですから、我々も気が気ではないのですよ」


 そこに口を放むもう一人の男。


「それだけではないだろう……」

 

 髪は金髪、目は蒼い、欧米人であり軍服を着ている男は米国の軍人。


 米国は日本とは少し形態が異なりダンジョン協会と軍が密接につながっている。

そのため、ダンジョン協会アメリカ支部=米軍と呼んでも差し支えない。


 そしてこの男はダンジョン協会の重鎮であり、軍の中将。


 名をスターと呼び、スター中将と呼ばれた。


「田中さん。我々米軍としては、正当な理由でもなければ中国の介入は断りたいところですがな」


「スター中将の言う通り、日本のS級三名、そして米国のS級、二十名で行うとすでに計画は進んでいるんです。李さん、この変更はできません」


 この場を仕切るように話すのは田中一誠。

天道龍之介は形は確かに代表なのだが、実権は田中が握っている。

天道がめんどくさがっており、そもそもギルドマスターもしたくないといっているのだが、田中が代表は一番強い者がなるべきだとごり押した形だ。


 田中がその李と呼ばれる中国人の男を牽制する。


「では、こうしましょう。我々は後方で待機。もし作戦が危うくなったときに参戦させてもらうと。どうです? それでしたらそちらには利はあっても損はないはず」


(あくまで参戦したという実績がほしいか……しかしこの条件で断るのはさすがに……)


 間髪いれずにその李というと男は、言葉を続ける。


「我が国の闘神ギルドのことはご存じですね? そこから十名参加させます」


「10名!? それでは主力級ではありませんか!? 我々日本の戦力よりも!」


 中国最強最大ギルド『闘神』。

たったの33名という少数のギルド。


 だがその実力は世界最強。


 なぜならギルドに所属している人間すべてがS級という化物ギルドだからだ。

米国最大ギルド『USA』といつも世界で一番強いギルドを決めるランキングでは一位二位を争っている。

ちなみに、アヴァロンは今年は23位、S級が一名しかいないためだ。


「何かあった時の保険ですよ、我々は救援要請がなければ一切動きません。それに日本はもう二回失敗しているのです、これ以上は失敗できないでしょう?」


 にやりと笑う李、そしてこれを告げられると日本は弱かった。

これ以上失敗できない、過去二度失敗しているのだから世界的に信用もない。


 だから、景虎会長が口を開く。

諦めたわけではない、しかしこれは高度に難しい外交上の問題だった。


 日本としては中国、米国どちらともうまくやっていかなくてはならない。

むしろ地理的に言えば中国のほうが影響力は大きく、経済に与えるインパクトは大きい。


 かの国が本気を出したのなら、人口10倍以上、S級の数はそれ以上。

侵略戦争でも起きようものなら日本は一たまりもないのだから。

ただしその場合は米軍との世界大戦に陥る可能性もあるのだが。


 そして景虎会長が口を開く。

かの大国にここまで譲歩されると答えは決まる。


「……わかった、中国の後方待機を受け入れよう。よろしいですか? スター中将」


「そうですな、保険。というのなら仕方ないでしょう、ただし我々の作戦が失敗したらです。そこだけは譲ることはできませんし、その後の管理についてもです」


「ふふ、了解しました。その後のS級キューブについてはまた作戦が成功したのち議論しようではありませんか」


「……わかりました、では田中君本題に」


「はい」


 そういって田中が立ち上がり、画面に映すのは龍の島の映像だった。

そして始まるのは作戦会議、WEB上でつながり参加する各国のS級のもとへと映像は届けられている。


「これは衛星写真からの推定ですが、現在龍の島にはS級に相当する龍が100体以上存在します、そしてA級相当の龍が1000体と所せましと飛んでいます。崩壊を起こして黒く塗りつぶされたキューブの周辺にね。それを踏まえて作戦ですが……」


 作戦会議はお昼過ぎまで行われた。


「以上です、質問あればお答えしますが……」


 そこから質疑応答の時間。

アメリカ、中国、双方のリモートでつながる実力者が次々と質問する。

田中はどちらの言語にも対応しながら、質問に答えていく。

戦力としては、日本が一番少ないが作戦立案から管理まではすべてアヴァロンが担っているからだ。

名目上は日本への支援という形を守る必要がある。


「大体出揃ったようですね、では第一回龍の島奪還作戦会議を終了します。次回は二週間後で」


 田中がそういって今日の会議を閉めようとしたときだった。


「あ、そうそう、最後に別の議題ですが一つお聞きしたいことがあったんですよ。これは多分スター中将も気になっているかと」


 中国代表の李が手を挙げる。

アメリカ代表として来ているスター大佐も気になっていることだと言われスターも李を睨むように見つめる。


「なんでしょう、李代表」


「スター中将の部下だったとか。アルフレッド中佐のことです、あのS級覚醒者の」


 その発言に、田中は理解する。

今この李が議題に上げようとしているのは、あの黄金のキューブのことだと。

そしてそれは案の定。


「黄金のキューブ。日本が秘匿しているあの金色のキューブについてです」


「秘匿? それに関しては書面で、全て回答したはずですが? 強力な魔物がおり、討伐したことでキューブは消滅したと。アルフレッド中佐は最後まで奮闘されました。犠牲は多かったですが……私とみどりが生き残った」


「……そうですね、そう報告されています。まぁキューブが消えてしまいましたし、死人に口なし。私達としては信じるしかないのですけどね?」


 田中の回答に李は、薄ら笑いを浮かべている。

あの日の出来事の真相を知るのは当事者、そして会長のみ。

灰に危険が迫らないようにと、田中の情報操作だった。


 しかし唯一一点だけ、隠し切れない事実が残っている。

それは田中にとっても痛恨だった。

だが、あの時は死んでしまったと報告するしかなかったのも事実。


 そして案の定、李はそれを指摘する。


「では、一つだけ。あなたとみどりさん。生き残ったのは二人だけ……のはずでしたよね? では……天地灰……なぜ彼は突然生き返ったのですか? 書類の不備? ありえない、キューブから現れたのはあなた達二人だと証言もある。ましてや最初の報告には死亡となっています。妹さんも遺族病棟に移された。状況証拠はあるのです」


(……そこまで調べたのか)


 田中と景虎によって、証拠となるような資料などは全て隠蔽した。

しかし人の口に戸は立てられぬ、死亡処理した職員、病院のナース、キューブを警護していたものなどから漏れる可能性は十分にあった。


 黄金のキューブに関して中国は執拗に調査を続けていた。


 日本が隠し通そうとしているそのキューブについて。

そして田中と景虎が隠そうとしているその少年についても。


 そして李はもう一度にっこり笑って田中に問う。


「……さぁ、説明願えますかな? 天地灰、生き返ったアンランクの正体を」


 田中の額に冷たい汗が流れる。




◇一方 龍園寺邸


「……うん! すごいうまいよ、このラザニア! プロの味だ!」


「よ、よかったです!!」


(頑張って練習してよかった……最初はおじいちゃんには糞まずいって言われたけど……)


 彩の渾身の料理のラザニア。

昔祖母が作ってくれたのを思い出し、一週間練習に練習を重ねた。

他にも、洋風の料理が並ぶがどれだけの材料がこの一週間練習と称して景虎の胃の中に入ったかは言うまでもない。


 元々研究者気質の彩、本気を出せばミリ単位、グラム単位で調理することぐらい可能。


 世の中にはレシピというものがある、ならば練習しさえすれば彩の敵ではない。

ただしそれまでは料理? そんなもの栄養を取れれば十分ですという扱いだったためしたことはない。


「彩……料理なんてしなかったのに、いきなりどうして?」


 しかし空気の読めない少女が一人質問する、焦るように彩は訂正させる。


「す、するわよ! な、なにいってるのよ、レイナ。忘れたの?」


 彩は必死に灰にばれないように目配せをする、しかしレイナに届くわけもない。


 だがレイナもそんなことはどうでもいいので深く考えないことにした。


「……そう。でも彩。美味しい……」


「ふぅ……よかったわ、あなたがこんなんで」


 少し冷や汗を流しながらも彩は作戦の成功に心でガッツポーズをしていた。

あれからネットでたくさん情報を仕入れた彩は、まずは胃袋を掴めという記事を参考に料理をしてみることにした。

作戦は成功したようで、灰は彩への認識を改めていた。


「知らなかったけど彩は料理が上手なんだね、毎日食べたいぐらいだ。最近コンビニ飯ばっかだったから」


「い、いつでも食べに来てください」


「彩……私ももっと食べたい。おかわり」


「レイナ、今まで気にならなかったけど……なんでそんだけ食べて太らないのよ……」


 灰もレイナの目の前に詰みあがっていく皿を見る。

もぐもぐと黙々と食べる姿はまるでリスのようにかわいいが、食べる量は尋常ではない。

フードファイター? そう思うほどには食べている。


「胸?……」


 その言葉に彩はレイナの胸を見た。


 そして自分の胸を見る。

そして自分もこの細さにしては大きい方だと思うが、レイナとは相手にならない現実に少し落胆する。

これが人種の差かと現実を突きつけられて少し暗い気持ちになる。


「もしかしたら……たくさん動いてるからじゃない? 俺の筋肉みたいに」


「そういえば……レイナは世界最強の女だったわ」


「二人とも細いけどね……彩なんてモデルみたいだよ、すごいと思う」


「そ、そうですか? ちなみに灰さんは細いほうが好きですか……」


「え? ……うーん、健康的なのが一番かな。彩は細いのに健康的ですごいなと思う、レイナは……」


(肉感的というのか……むっちり太ももと、むっちりな胸。正直俺はこちらのほうが好みなのだが……それをいうと火に油なきがするので黙っておこう)


「灰さん、今どこみてました?」


「え!? いや、どこも?」


「レイナを見ながら目が黄金色に輝いてましたけど……」


「あ、あぁ! レイナのステータスをね、レイナのステータスをみてただけだから!! 決して邪なところは見てないから!」


「はぁ……灰さんのせいでどんどん私嫌な女になっていく……これがいわゆるメンヘラ」


 彩は小さな声でぼそっとつぶやく。


「なんて?」


「なんでもないです!!」


「灰、ステータスって?」


 つい口が滑った俺の言葉にレイナが反応する。

俺は締まったと思い、とりあえずゲームの話と適当にはぐらかしたがレイナは特に気にしてないで話は流れる。


(それにしても……これがレイナのステータス。世界最強の女の実態か……)


 俺は再度目を黄金色に輝かせ、レイナを見た。


 そこには世界最強レベルの魔力を持ちながらも、実力はS級でとどまるレイナの秘密が記されていた。



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