第108話 久遠の神殿ー4

 閃光が世界を支配する。


 スタングレネード。

フラッシュボムや閃光弾と呼ばれる軍事用の兵器。

原理は良く知らないが、とりあえず眩しいばかりの閃光がその空間を支配する。


 それは強烈に光り輝き、ナイトメアが転移しようとした俺の影は一瞬で消えた。

ステータスを確認すると、失敗時にCDという情報。

これはおそらく俺のライトニングと同じ扱いなのだろう。

ならば影が消えれば転移は失敗する。

 

 つまりナイトメアは失敗し、クールダウンが発生、これであいつは封じ込められ邪魔されることはない。


 まずは一体を封じ込めた。


 俺の狙いは。


「まずはお前からだぁぁ!!」


 カタフラクト、重量級の完全な守護者。


 完璧な角度に投げたスタングレネードによって発生したカタフラクトの影。

カタフラクトから俺へと影が繋がるほどに伸びていた。


 その長い影になら俺はどこにでも転移できる。


 一瞬でカタフラクトの目の前に転移し、カタフラクトに触れ、共に再度発動する。


「──ライトニング」


 狙うはもちろん、サンダーボールの直線状。

突然の転移に反応できず、カタフラクトは俺の代わりにサンダーボールを受けて感電して動けない。


 だが、それでもこの防御はまだ抜けない。


 まだ抜けないが、これで俺の作戦が終わりなわけもない。


 閃光が落ち着き、神殿は元の形を取り戻す。

影が戻りナイトメアが怒りに満ちて俺を見る。


 魔力が揺れて転移しようとしているのがわかった。


「残念だが、お前はもう一回休みだ」


 だがそんなことは許さない。

 

 再度閃光が神殿を包み込む。


 俺はカタフラクトの足元にもう一つのスタングレネードを置いていた。

カタフラクトがサンダーボールを受けると同時に、閃光がもう一度神殿を明るく照らす。

ナイトメアは悔しそうに震え、再度転移に失敗し、動けない。


 だが、そんなものは副次的目的。


 俺の狙いはそこではない。


 見上げる天、そこには神殿の屋根がある。

閃光によって照らされてそして、カタフラクトの足元が光ったことによって生まれたカタフラクト自身の影が。


「──ライトニング」


 その影に向かって俺は瞬間移動。

神殿の屋根を足の裏でとらえて、真下にはカタフラクト。


 まだカタフラクトはサンダーボールで感電して動けない。


 ナイトメアも転移に失敗して動けない。


 そして、俺の体にはワイズマンが施した真下へとかかる強力な重力魔法が懸かっている。


 すべての条件は整った。


 俺は全力で神殿の天井を踏みぬいた。

亜音速にも到達しそうな、爆発的な推進力が生まれ、神殿の屋根が吹き飛んだ。


 そのまま動けないカタフラクトへと突撃する。

俺が両手で握るのは、彩が作ってくれた真っ白な龍王の剣。


 龍の王からとれた魔石が生み出したアーティファクト。

想いを乗せて、眼をそらさずに、魔力が一番薄い場所へ。


 この一撃ならば。


「ガァ!?」


 この完璧な守護者すら打ち破れる。


 白い鎧を貫いて、首を背後から突き刺した。

カタフラクトは、悲鳴を上げて力なく倒れ光の粒子となって消滅する。


「──ライトニング」


 間髪入れずに俺はナイトメアの背後の影を見つめる。


 転移に失敗し、動けないナイトメアの影へと稲妻の速度で移動する。


「はぁぁ!!」


 動けないナイトメアの背後からその背中を突き刺した。


「ギャァァ!!??」


 カタフラクトの守りを失った紙装甲のナイトメアは、抵抗もできずに悲鳴を上げて消滅した。


「さてと……毎回毎回、お前はこんな感じだな。ライトニング」


 俺はワイズマンの背後の影へと瞬間移動する。

魔法職、めんどくさいことこの上ないがたった一人では前衛職相手に無力な存在。


 体は重い、それでもこいつと肉弾戦ならば問題ない。


 振り向くワイズマン、遅すぎる。


 ためらいなくその首を背後から落として、ワイズマンは消滅した。


 流れるような連撃で、俺は一瞬で三体の覚醒者を倒して見せた。


「……ふぅ。田中さんに感謝しないとな、無理言って作ってもらったけど本当に助かった。スタングレネード。これからも使えそうだな」


 俺はその場に座り込む。

大きな傷はないが、接戦ゆえに疲労はたまるし切り傷が少しヒリヒリする。

覚醒者3人を相手にするのは想像以上に大変だったが、それでも軽傷と呼べる程度の傷で勝利した。


「ちょっと休憩……はぁ……よかった。勝てて……」


 俺は床にそのまま座り込んだ。


 もってきた鞄から水とおにぎりを取り出す。


 ステージ間は一時間ほどの休憩をもらえたので今回もおそらく休憩させてもらえるだろう。


「ふぅ……生き返る。にしてもやっぱり糞みたいな連携だったけど……何とかなったな。あとは」


 おにぎりをパクパクと食べて、のどに詰まるような感覚。

ペットボトルの水をごくごくと飲んで詰まった米を胃に流し込む。


 俺はスマホを取り出した。


 時間はすでに深夜すぎ。

もう少し早く終わると思ったけど、案の定イレギュラーのこの神殿。


 どうせいつかは来ることになったのだから、いつでも問題ないのだが。


「明日のデート……どうしようか……いや、今は少し忘れてこっちに集中しよう」


 命を懸けた死闘の後なのに、俺は明日のデートが楽しみだった。

彩は気合を入れるといっていたし、一日ということは夜までなのだろう。


 もしかしてお泊りデートなのか?


 そういえば、新しい魔石でアーティファクトも作ってもらわないといけないし。


「……またキスするのかな」


 思い出すのは沖縄の夜。

こんな時になんでと思ったが、そういえば命の危険に人は性欲が上がるらしい。

種を残す本能だとか聞いたことはあるが、俺は少しそういう気分になっていた。


「……明日は癒されよう」


 後ろにのけ反り、俺は床に寝ころんだ。

一時間の休憩、この間に体力を回復させるために目を閉じる。

こんなに頑張ったんだ、明日は彩に甘えて癒されよう。


「次がラストか……」


 ステージは5まで用意されていると転移されるときのあの声が言っていた。

ならば次が最後だろう、そして予想が正しいならその相手はきっと。


「…………」


◇灰が攻略している時間より少し進み、日本 東シナ海 早朝8時頃。


「はわわ、ねみーーったくどうせ何も起きないってのに」


 龍の島から距離にして3キロほどの海上に一席の船が止まっている。

龍の島の異変を観測するための海上保安庁の巡視船。


「まじめにやれよ、じゃあ俺は寝るから」


「うぃ、夜勤お疲れ」


 見張りが変わる時間になって、やる気のない二人の船員が今日も何もなかったと報告のために報告書を記載していく。


 レーダーに映るのはいつだって、漁船ぐらいのもの。


ピーピー


「あ? 漁船か?」


 交代の日誌を受け取った瞬間だった。

周囲を見張るレーダーが何かをキャッチする。

いつものように漁船だろうと、虚ろな目で見る見張り。


「……はぁ?」


 赤い点が端に現れる。

一つ、二つ、三つ、次々と船と同等の大きなの何かがレーダーに映る。

距離は数キロ先、それでもその速度は漁船のような速さではない。


 ふと悪い予感で青ざめる二人の見張り。

眠気を吹き飛ばし、マニュアル通りに行動する。

その行動の速さはさすがによく訓練された職員だった。


「本部へ、緊急連絡! 繰り返す、緊急連絡!! 多数の飛行物体が龍の島から日本、九州地方へと直進中! 繰り返します!! 多数の飛行物体が龍の島から日本、九州地方へと直進中! おそらく龍かと思われます!!」


「了解した。ダンジョン協会へ連絡! 急げ! 対象の速度と数はいくらか!」


「対象の速度。時速にして……200キロ程度を維持! 数は…………はぁ?」


 今までもたまにはぐれた龍が飛んでいくことはあった。

そのたびにS級である天道などが対応し撃ち落していたから、珍しいがごくたまに発生する事象。


 それでも多くて数体程度の龍だった。


 だが、今度だけは違っていた。


「よく聞こえなかった、数はどうした?」


「か、数は……不明、レーダーが真っ赤に染まっています……100以上……嘘だろ」


 レーダーを見つめただ唖然として立ち尽くし通信機を落とす職員。

そして窓の外を見る、日が昇り始めた太陽を隠すように巨大な何かがいた。


 強大な何かだと思ったそれは、群れだった。


 轟音を鳴らしながら、まるで嵐のように巨大な生物が群れを成して飛んでいる。


「……おわりだ……こんなの止められっこない」


 一匹いれば町が滅びるようなS級の龍。

その無数の龍が朝日を真っ黒に塗りつぶす。


 闇の空を作り出し、日本に向かって飛来する。

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