第107話 久遠の神殿ー3

 三体の職業の覚醒者。

S級の覚醒者は大半は上級職を持っているだけの人が多い。

俺が今まで見た中で職業が覚醒している人は、数える程度しかいない。


 俺の覚醒騎士、彩のアーティファクター、レイナの聖人。

覚醒者はどれをとっても破格の性能を持つスキルを持っている。


 俺はその三体のステータスを見た。


 まずは情報、戦いはそれから。

攻防は既に始まっているが、神殿の柱にできた影に瞬間移動しながら俺は情報収集を優先する。


 まずは一人目、真っ白な腕とマントを纏う影のような敵。


 名はナイトメア。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

名前:ナイトメア

魔力:500000

スキル:無音、隠密、ナイトメア

攻撃力:反映率▶75%=375000

防御力:反映率▶25%=125000

素早さ:反映率▶25%=125000

知 力:反映率▶50%=250000

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 ナイトメアのスキルは俺のライトニングの下位互換のようなスキルだった。


 視界内の影へと転移する。

瞬間移動自体は脅威だが、それでも神の眼を持てばどこに移動するかわかるので、まだマシか。


 そして重量級の騎士。

完全に守りますという意思すら感じて微動だにしないが、やっぱり糞みたいなスキルだった。

こいつが集団戦ではいつも厄介すぎる。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

名前:カタフラクト

魔力:500000

スキル:挑発、守護結界、絶対防御

攻撃力:反映率▶25%=125000

防御力:反映率▶75%=375000

素早さ:反映率▶25%=125000

知 力:反映率▶50%=250000

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 挑発は言わずもがな、俺の意識を刈り取る。

知力の差があるため一瞬だが、それでも一瞬は奪われミラージュの効果が切れる。

守護結界は、前回同様味方のダメージを肩代わりするという結界だ。

本当にうざすぎる。


 そしておそらくこれが覚醒のスキル、絶対防御。

他のステータスが下がる代わりに、すべてのステータスを防御力に回せるらしい。

いや、お前本当に糞みたいなスキルばっかりだな。


 そして最後には魔法職、賢者を表すワイズマン。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

名前:ワイズマン

魔力:500000

スキル:全属性ボール、全属性ウォール、グラビティ

攻撃力:反映率▶25%=125000

防御力:反映率▶25%=125000

素早さ:反映率▶25%=125000

知 力:反映率▶100%=500000

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 攻撃力は相変わらずだが、正直俺にとってはそれほど脅威ではない魔法職。

巨大な魔物相手になら無類の強さを誇る魔法職だが、高速で動く小さな的相手にはそれほど効果がないだろう。


 だが、新しい魔法グラビティ。

俺は嫌な予感がしたので、詳細を見る。

この名前の通りならば、多分能力は。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

属性:スキル

名称:グラビティ

入手難易度:ー

効果:対象に重力魔法を発動する。

説明

視認できる対象に発動可能、知力に応じて重力を増加させる。

一度発動すれば対象がどこにいても継続する。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 俺がその能力を見ながら転移で逃げ続けていた時だった。

俺はワイズマンと目が合った、そして手を俺の方に向けて何かを唱える。


 突如俺の体が重くなる。


「!?……こ、これがグラビティ。糞! 避ける概念なしかよ」


 ファイアーボールや、ファイヤーウォールならばあたる気はしない。

だが、このグラビティという魔法に関しては対象指定のようで避けることができなかった。


 突如俺の体を重力が襲う。


 体が重い。


 魔力という力で底上げされた化物のような力ですら、まるで水の中を動くように体が重い。

おそらく重力魔法は、文字通り重力を操るのだろう。


 地面に向かってすごい力で上から押さえつけられているような感覚。

一挙一動が重くなる、普通の剣戟を交わし合うことはできないほどに、今すぐ地面に倒れこんでしまいたくなる。


「……覚醒スキルはまじで全部糞みたいな力だな」


 ワイズマンの魔法で動きが重く、ファイアーボールは無尽蔵に飛んでくる。

しかもとても珍しいと言われるサンダーボールまで飛ばしてくるが、あれに触れたら感電してしばらくは動けないだろう。

ナイトメアは、いつだって不意に俺の影に現れて俺を殺そうとするので、意識はそちらに集中しなければならない。


 だが、カタフラクトが守護結界で二人を守り、ただ自身の防御力を上げる絶対防御で無敵の構え。


「……相変わらずお前ら三人集まったら糞みたいな連携だな」


 俺は重い身体を転移でごまかしながら攻撃を避けている。

まずはやはりカタフラクトから倒さなければならない。

前衛職の覚醒者、こいつ一体いればパーティの命は安泰だろうと思うほどに糞固い。


 あれを倒さないと、すべての攻撃はあいつに肩代わりされてしまう。


「……あれ使ってみるか、実戦では初めてだけど」


 俺は腰のベルトにつけているものを触る。

田中さんに言って用意してもらったアイテム。

俺には相性がいいと思った現代の武器。


 魔力で守られる魔物達に現代兵器は効果がない。

だが、このアイテムは攻撃が目的ではない。


「……よし、リスクは承知だけど……出し惜しみしてやられたらあほだ」


 俺の頭の中で作戦は完成した。


 あとはベストなタイミングが来ることを願うだけ。


 条件は三つ。


 最大威力のサンダーボールが俺を狙って放たれる。


 ナイトメアが俺の影に転移しようとする。


 その行動がベストな位置で起きる。


 俺はそのタイミングをひたすらと待つ。

ライトニングとミラージュを繰り返し、重い身体でナイトメア達の猛追を浅い切り傷を作りながらも交わし続ける。


 一切目はそらさない。

数分の攻防、頭が焼き切れそうなほどに集中する。


 あのアーノルドとの戦いから俺の中で何かが変わった。

集中のさらに奥、今までの感覚よりももっと深くな没入感。


 場数は踏んだ、死線も超えた。

それが戦闘のセンスが光り輝く。


 この程度のピンチもう何度も超えてきた。


 そしてその時はやってきた。


 俺のミラージュを解除しようと、カタフラクトが叫び挑発する。

ワイズマンが最大火力のサンダーボールで俺を感電死させようと放つ。

その雷が生み出す影へと転移しようとナイトメアの魔力が揺れる。


 三体の連携が間違いなく俺の命を真っすぐ狙う。


「……ここだ!!」


 俺は手に持っていたそのアイテムのピンを抜く。


 その手榴弾のようなものを俺は狙った場所に投げた。


ピカッ!!


 そして神殿は、真っ白な光に包まれる。

科学の光、だがこれはスマホなんかとは桁が違う。

あの戦いで光というものが俺の戦闘にとても重要だと言うことを学んだ。


 だから作ってもらったんだ。


 視界すべてが白になり、すべての影は消え失せる。


 田中さんに頼んで作ってもらった特注の現代兵器。

またの名を、スタングレネード、ただし今回のは音はなく、光るだけ。


 ただ光る。

 

 それだけでいい。


 光があれば影が生まれる。


 ならばそこは。


「一気に終わらせるぞ!」


 俺の戦場だ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る