第106話 久遠の神殿ー2

 光の粒子が俺を包み、俺はダンジョンから転移させられた。


 魔力99万9999のステータスに変化して。


「……ここは……あの時の……」


 あたりを見渡す俺は、すぐに気づいた。


 俺はここに来たことがある。

ここは凪達が閉じ込められた神殿、時に忘れられて壊れた廃墟のような神殿だった。

空は真っ黒で、なのに不思議と明るい異空間。

そこにポツンと残って所々の柱が折れて壊れた寂しそうな神殿。


 すぐ来ることになるとは思ったが、あまりに早すぎるが?


 それと同時にあの音声が、俺に告げた。


『個体名:天地灰、前回ステージ2ー2まで攻略済み、ステージ2ー3から開始します』


 突如光の粒子に包まれた現れるのは黒い鬼。

確か前回は3体だったはずだが、その光は9つ現れる。


「S級の魔物が……9体か……いつものごとく何の説明もなしと……」


 神殿に所狭しと現れた巨大な9体の黒い鬼。

そのどれもが、景虎会長と同程度の魔力を持つS級の魔物。


 俺は白剣を握って前を向く、国すら落とせる戦力の魔物。

だが今の俺なら勝てるはず、S級を超越しようとしているのだからこんな程度で躓けない。


「昔、偉兄は100体倒したって言ってたけど……今なら俺にもできるかな?」


 こちらを見て叫びをあげる鬼の群れ。

だが、その鬼達は俺を見失う。


「──ライトニング」


 9体の鬼の背後に転移する俺、目で追うことなど不可能だ。

背後からの一撃で一体の鬼の首を飛ばす。

血しぶきが舞う白い神殿と黒い鬼達の悲鳴にも取れる叫びが響く。


 一分にも満たない攻防。

転移と攻撃を繰り返し、S級下位の魔力10万ほどの鬼を殺し尽くす。


 攻防というにはあまりに一方的な闘い。

魔力の差が9倍近くある敵は、今の俺では敵ですらない。

反撃も許さず一太刀剣を振れば一つ首が飛ぶ。


『ステージ2ー3クリア、続いてステージ2-4へ移行します』


「ふぅ……100人組手じゃああるまいし……」


 次々と現れる鬼や狼、蟲のような化物達。

絶対に生き残らなくてはならないからと、俺の強く剣を握る。


『ステージ2ー4クリア』

『ステージ2ー5クリア』

『ステージ2ー6クリア』



『ステージ2ー10クリア』


 少しのインターバルを経て次々と現れる鬼や狼の魔物達を倒す。

帝種と呼ばれる王種を超えるS級の魔物。

俺は次々に攻略していく、数はどんどん増えていき、ついには。


「……ふぅ、これいつまで続くんだろうな。もう深夜だぞ」


 100に近い魔物の死体に座りながら俺は、白剣の血をぬぐう。

少しだけ息を切らせながらも、これぐらいの試練は乗り越えて当然とでも言いたいように、その無機質な音声は俺に次を告げる。


『続いてステージ3へと移行します』


 それからさらに始まるS級下位から上位に変わった魔物との戦い。

徐々に数が増え、魔力も増え、しまいには50万近い魔物まで現れる。

それでも俺は攻略していく。


「俺は絶対に生き残る!!」


 魔力は絶対の差だ、しかし今の俺には経験がある。

魔力だけに頼らなくていいほどに優秀なスキルと戦闘の経験が。


 ならば多少魔力が上がったところで今の俺は止まらない。


『ステージ3ー1クリア』

『ステージ3ー2クリア』

『ステージ3ー3クリア』



『ステージ3のラストステージです』


 時間にして数時間後、俺はステージ3の最後まで来ていた。

疲労は間違いなく蓄積している、ケガがないのが奇跡だろう。

いつもなら寝ている時間を今日は徹夜で戦っている。


 最悪俺はライトニングで逃げかえることもできるのだろうか。


 だが、そのときもう一度ここに来ることができるのかは疑問だ。

ならできればこの一回で終わらせておきたい、真・覚醒の強さを手に入れたい。


 おそらくだが、滅神教の大本は超越者だ。

ならば真・覚醒がなければ戦えないかもしれない。


「さぁ、ステージ3のラストだ。何が来る」


 俺はもう一度、剣を強く握って、神殿を見つめる。


 そしてそれらは現れた。


 一際強く輝く光と共に二つの光が神殿を包む。


「……龍?」


 二つの光から現れたのは龍だった。

龍種なら俺は映像で見たことがある、日本のお隣にある確認されている魔物の中で最も強いと言われる種族、龍種。


 単純な魔力が同じなら高い知能があり、スキルが優秀な分他の種族の魔物達よりも圧倒的な強さを誇る龍種。


 その龍種が二体、俺の目の前に現れる。


「金色と銀色……龍種、しかも希少種? 聞いたことない……」


 俺の前に現れたのは二体の龍。

黄金色の龍と銀色の龍、色以外ほぼ同じステータスを持つ龍は希少種と書かれていた。


 王種や帝種が正当な成長を遂げた魔物であるならば、おそらく突然変異のような個体なのだろうか。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

名前:黄金龍(希少種)

魔力:800000

スキル:・双対を為す龍、金の矛

攻撃力:反映率▶70%=560000

防御力:反映率▶50%=400000

素早さ:反映率▶25%=200000

知 力:反映率▶25%=200000

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

名前:白銀龍(希少種)

魔力:800000

スキル:双対を為す龍、銀の盾

攻撃力:反映率▶50%=400000

防御力:反映率▶70%=560000

素早さ:反映率▶25%=200000

知 力:反映率▶25%=200000

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

「完全に二人で一つみたいな存在だな」


 その龍が持つスキルは二つ。

一つはそれぞれが固有の力なのだろう、名前の通りシンプルだった。

金の矛は、飛び道具のような槍を翼から飛ばしてくる。

銀の盾は、レイナの光の盾のようなものだった。


 突如目の前に現れる半透明の盾は、厄介極まりない。

銀の龍を包み込むような、その盾は俺の攻撃力でも一撃では抜けない。


 そして最後の一つ、双対を為す龍というスキルだがなんとめんどくさいことに片方を倒しても片方が生きていたら数秒後に生き返るという糞みたいなスキルだ。

正攻法では、この希少種を抜けなかっただろう。


 なんで過去形なのかって?


「……相性が悪かったな。──ライトニング」


 俺は銀と金の龍を数秒で切り伏せていたからだ。


 作戦というのもおこがましいほどのごり押し。


 俺は銀の盾を張っているその白銀色の龍の腹部に転移した。

どれだけ固い盾を持ったとしても、転移されてしまえば無意味だった。


 どれだけ頑丈な鎧を着ていようが、内面は柔らかいように。

全身に球体のような盾を出していた白銀龍の内側へ転移。


 そして腹部から剣で俺は白銀龍を貫く。


 防御力は高いが、今の俺の攻撃力のほうが圧倒的に高いので正直攻撃が通れば一緒だった。


 そして俺は金の龍に視線を移した。

仲間がやられたことに気づいた金の龍は、翼をはためかせまるで爆撃のように金の矛を無数に飛ばず。

だが、そんなものもやはり関係はない。


 俺は翼をはためかす金龍の真下の影へと転移し、そのままジャンプ。

翼を切り落とし、地面に落ちた金龍の首を切り落とす。


 この間わずか5秒。

一見余裕に見えるが能力の相性が正直よかった。

正面からあの盾を超えるのは難しいし、かといって金龍を殺しても銀龍が生きていれば復活する。

力の差がなければめんどくさすぎる相手だったことは間違いない。


『ステージ3クリア、続いてステージ4へ移行します。ステージ4は4-1のみです』


「ステージ4は一つだけなのか……一体だれが出てくるのか……帝種の上? あるのかそんなもの。聞いたことないけど」


 俺は神殿を見つめる。

そこからいつものように三つの光が現れる。

小さい光、まるで人のようなものが転移する。


 俺はそれを見て言葉を失った。


「……はは、そうだよな。やっぱり俺の敵といえば──」


 三つの光から現れた三体の敵。

忘れもしないかつて死闘を繰り広げ、何度も殺されかけた敵。


「──お前達糞パーティだよな」


 昇格試験ではいつも俺達の前に立ちはだかった三体。


 確か前は、シャドーアサシン、パラディン、ウィザードだったはず。


 だが今回はそのさらに上。


 一体は、真っ白な腕と真っ黒な影を纏う敵。


 一体は、まるで鬼のような体格に白く輝く鎧を付け、完全に重量級の騎士。


 一体は、青白い皮膚に顔がいつも通り見えない魔法職。


 俺はその三体のステータスを見た。


「ナイトメア、カタフラクトとワイズマン……悪夢と超重量級騎士、それに賢者。全員覚醒職ってわけか」


 その三体が真っすぐと俺に敵意を向ける。


 覚醒した職業の三体が、俺の前に立ちはだかる。

その先頭に立つのは、ナイトメア。

ゆっくり白い剣を構えて、俺に向ける。


 黄金色に輝く目でそのスキルを見つめたならば影のように黒い魔力が俺に向かって揺れ動く。


 ナイトメア、これは俺のスキルに似ている。


 ならばその後は。


キーン!


「それは俺の方が得意分野だぞ」


 俺の影に現れる。

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