第31話 お嬢様の護衛ー3

「そろそろボス部屋も近いですが、いかがいたします? 龍園寺様」


「……名残惜しいですがこのまま攻略してしまいます。十分見たいものはみれました。今日はありがとうございました。皆さんのおかげでとても有意義な時間が過ごせました」


 そういって龍園寺さんは全員に頭を下げた。

少しの間彼女と一緒に攻略してわかった、言葉は強く悪く言えば偉そうだが根はとても礼儀正しく良い子だった。

まぁいきなり知らない男に腕を拭かせるあたり、少しその辺の感覚がおかしいなともおもったが過保護に育てられたのだろう。


 少し世間一般とはずれているが、それでも俺は結構この子に好感を持っていた。


 ツンツンしているクール系お嬢様と思えば可愛いものだとも思えた。

こういうのは何と言うんだろうか、ツンデレ? クーデレ? まだデレは見たことないが。

俺達は少しだけ笑いあう、益田さんが嬉しそうにニコニコして頭を照れ隠しでかく。


 俺達が和やかな雰囲気で笑っている時だった。


(ん? 今なにか……)


 俺が違和感を感じた瞬間だった。

違和感、いやどちらかというと寒気だった。


 まるで首筋にナイフが触れているかのように。


 心臓を握られているかのように。


 幾度も感じてきた死の恐怖。

誰よりも弱かった俺は誰よりもそれをたくさん感じてきた。

それはあたかも小動物が持つ本能のように、強者と生まれなかったからこそ持つ感覚。


 だからだろう。


 剣先を向けられたような寒気……突如俺の心がざわめいて──。


「いえいえ、そんな。私なんて、龍園寺様とご一緒できてしあわ……!?」


 ──武器を握れと叫び出す。


「ゴホッ!?」


「益田さん!!」


 俺達の前で笑っていた益田さんの胸から黒い刃が突き出てきた。

背後からの一撃、心臓を一突きにされ益田さんの眼から光が失われる。


 唖然とする俺達の前にもはや肉となった益田さんがどさっと倒れる。


 その背後から現れたのは。


「敵だぁぁ!!!」


 混乱する頭を必死に動かし、俺は叫ぶ。

さすがにアヴァロン所属の攻略者はよく訓練されすぐさま武器を構え円を描くように龍園寺さんを守る。


 益田さんは……あの傷ではもう即死だろう。


「……な、なんだ!? なにがおきてんだよ!!」


 水口さんが叫びをあげ、俺達はその敵を見た。

だがその瞬間だった。

こちらにかざされた手、そしてつぶやくようにいった言葉は。


「……ダークネス」


 突如世界は光を失い、闇に落ちる。

俺の視界は暗転し、ただでさえ薄暗い洞窟は完全な闇となる。


「な!? こ、これは!?」


 どうやら視界を奪われたようだった。

真っ暗な中水口さんの焦る声と他の攻略者の声だけが聞こえる。


ザシュッ


 それは一瞬だった。

なにかが切られる音がした。

暗闇の中、断末魔と肉が切れる音がした。


「敵です!! 私達の周りをすごい速度で走り回ってます!!」


 叫んだのは龍園寺さん、どうやら彼女には見えている。

だが俺を含めて全員の視界が暗転し、周りは闇しか見えなかった。


「うわぁぁぁ!!!」


 俺は理解できなかった。

何が一体起きている、俺達の視界が消えたのか?

暗い部屋、まるで暗殺者のように。


 その時俺は思い出す。

見えない敵になら、俺のこの力がもしかしたら。


 だから俺は神の目を発動し、意識を集中する。


 この目ならばきっと、見えるはずだから。

俺の眼は黄金色に輝いて、暗闇の中を照らし出す。


 闇の中を揺らめく陽炎が、二つ。

一つは俺の隣で小さくなっている少女。


 そしてもう一つ。

俺に向かって高速で迫ってくるのは黒い魔力。


 ならばそこに。


「ぐぅっ!」

「ほう……よく止めましたね。勘ですか?」


 敵がいる。


 認識した瞬間その姿が俺には見えた。

俺の首に向けられた刃を、ギリギリのところで受け流す。

暗闇が開け、その敵は俺に姿を現した。


「なんなんだ、お前は!!」


 その男は止められるやいなや、一度俺達から距離を置いて、話し出す。

黒のローブを脱いだかと思ったらそれでも全身黒づくめ。

外国人だろうか、金髪でくせ毛、そして青い瞳が俺を見る。


「……ふむ。ダークネスは効いているはず。なのに勘ですか?」


 黒い剣を片手で地面に突き刺して、右手で顎に手を当てながら首をかしげる。

俺はその黒づくめの男に剣を向けて再度問う。


「先に俺の質問に答えろ。お前は誰だ」


「……ふふ、そうですね。これは失礼しました」


 その男はまるで礼儀正しい挨拶をするように、俺達に向けてお辞儀した。


「初めまして、私はフーウェン。そこのお嬢さんを殺しにきました……あなたはついでです。では、さようなら……ダークネス」


 突如そのフーと名乗る男は、お辞儀しながら俺を見てつぶやいた。

俺の世界から光が消えて、真っ黒な世界に落とされる。

それでも俺のこの眼なら。


「!? ……まぐれではない?」


 魔力を纏ったものが見える。

振り下ろされた剣を俺は再度受け止める。


 しかし、正直ギリギリだった。

見えているが、そもそもの魔力量に実力差がある。


 しかし理由が分からないと警戒した男は一度俺達から離れ、世界に光が戻る。


「あなた何者です? ここにはC級ないしB級しかいないはずですが?」


「……お前の目的を教えてくれたら教えてやるよ」


「……ふふ、私の目的はそのお嬢さんを殺すことだといったはずですよ? 憎きダンジョン協会、その日本の会長の娘を殺す、しかも魔力だけはS級だ。それが私があの方に与えられた使命。我らが教祖様のために」


「なにを……」


 すると俺の後ろにいた龍園寺さんが口を開いた。


「……おそらく彼らは滅神教です。ダンジョン協会を敵とし、上位魔力を持つ存在こそが世界を統べるべきだと考えている狂ったカルト教団」


「滅神教? ……超極悪な犯罪組織じゃないですか!」


 俺はニュースのみで聞いたことのあるその名前を声に出す。

海外で大きなテロがあると大体がこの教団が絡んでくる。

世界最大の犯罪組織とすら言われ、魔力が強いものが弱い者を支配するべきであると掲げ、そしてダンジョン協会を目の仇にしている。


「いま……なんといいましたか?」


 すると先ほどまでの軽い雰囲気だったフーと名乗る男の表情が一変した。


「私達を犯罪組織といったのですか? ふざけるなぁぁ!!!」


 突如起こる魔力の放流、その怒りはダンジョンすらも震えさせるかと思われた。


「私達は世界を解放しようとしているのです!! 神が支配したこの世界を! あの憎き神がかすめ取った世界を!! その大義がなぜわからん!!」


 突如フーが怒りに任せて俺に突撃し、ただ力だけで剣を横なぐ。

俺は龍園寺さんを突き飛ばすようにして逃がし、両手で剣を掲げてフーの一撃を受け止めた。


 しかし。


「ぐわぁぁ!!」


 俺は盛大に吹き飛んだ。


 勢いそのまま後ろの壁に激突する。

ずるっと壁にもたれ掛かったまま俺は地面に座り込んだ。


 衝撃で肺の中の空気がすべて吐き出され、意識を失いそうになる。

それでも俺は顔だけ上げて神の眼でフーと名乗る男のステータスを見た。


 俺はD級ダンジョンをこの数週間回り続け、50回近く周回している。

D級ダンジョンの完全攻略は一度で100~200の魔力を得られ関東のD級キューブは田中さんの助力もありほぼすべて攻略したといっていい。


 その結果俺の魔力は6000近く上昇した。

それはB級の上位として扱われる力。


 しかしこの目の前の相手は。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

名前:フー・ウェン

状態:狂信

職業:魔剣士(闇)【上級】

スキル:ダークネス

魔 力:10500

攻撃力:反映率▶50%=5250

防御力:反映率▶35%=3675

素早さ:反映率▶50%=5250

知 力:反映率▶40%=4200


装備

・黒狼の牙剣=攻撃力+1000

・黒狼の毛皮=素早さ+1000

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 俺は意識を失いそうな目でその男のステータスを確認した。


「A級……状態が狂信……」


 狂信と書かれたその状態、しかしそれよりも今大事なのは鍛えあげたはずの俺のステータスよりも遥か上。


 その男はほんの一握りの上位の覚醒者。

田中さんと同等のA級に該当する魔力を持った敵だった。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

名前:天地灰

状態:良好

職業:初級騎士(光)【下級】

スキル:神の眼、アクセス権限Lv1、ミラージュ

魔 力:6185

攻撃力:反映率▶50%=3092

防御力:反映率▶25%=1546

素早さ:反映率▶25%=1546

知 力:反映率▶50%=3092


装備

・ハイウルフの牙剣=攻撃力+120

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



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