第30話 お嬢様の護衛ー2

「そういうことか」


 俺は彼女のステータスを見て納得した。


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名前:龍園寺彩

状態:良好

職業:アーティファクター【覚醒】

スキル:アーティファクト製造Lv1

魔 力:325040

攻撃力:反映率▶0%=0

防御力:反映率▶0%=0

素早さ:反映率▶0%=0

知 力:反映率▶200%=650080

装備

・黒龍の羽衣:防御力+2000

・紅龍眼の魔石(未加工)

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 彼女は特別な職業のようだ。

アーティファクターなんてアヴァロンの攻略者に一人もいなかった。


 だが名前から察するに何かを作るのだろう、例えば武器職人という職業は一定数存在しているし、田中さんのギルドにもいた。

魔力を帯びた装備品を作り出せる職業の人達。

じゃあアーティファクトとは何を差すんだろう。


 しかも職業は覚醒? 上級の上ってこと? 


 全然知らない単語ばかり出てきたな。


 俺はさらに職業のアーティファクターを見つめる。

詳細を見たら何かわかるかもしれない。


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属性:職業

名称:アーティファクター

入手難易度:S

効果:魔力反映率に影響する装備を作成可能な職業

製造方法:現在のアクセス権限では参照できません

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属性:スキル

名称:アーティファクト製造Lv1

入手難易度:S

効果:魔力反映率に影響する装備を作成可能。レベルと知力に応じて、クオリティに影響。

作成量に応じてレベルは上昇する。

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「ふむふむ、よくわからん。ってか知力64万って化物すぎるだろう」


 そのスキル説明を見ても俺はよくわからなかった。

ただそのまま読むのなら魔力反映率、つまり魔力から攻撃力に変換する%が変更されるような装備が作れるのだろうか。


 俺は視線を彩さんに向けてぼーっと考察しているとすたすた進んだお嬢様からお呼びがかかる。


「天地さんでしたね。早くしてくださいますか? 時間を無駄にはしたくありませんので」


「あ、す、すみません」


 俺は頭を下げながら小走りで近づく。


(怖い子だな……これで同い年? ほんとに?)


 まるで興味ないと俺からすぐに視線をキューブへ移すお嬢様。


「龍園寺さん、こちら今日のキューブの地図です」


 するとリーダーの益田さんが印刷しておいた紙の地図をお嬢様に手渡そうとした。

しかし、腕を組んだまま龍園寺さんは拒否する。


「結構です、すべて覚えてきましたので」


「すべてって結構複雑ですけど……」


「……二度言わせないでください。覚えてきました」


 言い返した益田さんをビームでも出そうなほど鋭い目で睨みかえる龍園寺さん。


 俺は再度思った、怖いと。


 まるで女王のような冷たい目は、俺と同い年であることを忘れさせる。


「し、失礼いたしました。ではいきましょう! ご案内します、龍園寺様!」


 益田さんがへこへこと頭を下げてへりくだる。

もうすでに龍園寺様と言っているあたり調教されてしまったのだろう、アーメン。


 それにしても態度が悪いわけではないが、言葉が強くて怖いな。

それでいて不快感がない当たり、やはり生まれ持った女王様気質。


 益田さんが嬉しそうにしているあたり、これが従属する喜びなのだろか。

確かに年下の美人に支配されるのは少しだけいけない気持ちになりそうだ。

というか相手は去年まで高校生、益田さん嬉しそうだけど犯罪だからね?


 龍園寺さんがそのままキューブへと歩いていく。

C級のダンジョンが広がっているピンク色のキューブ。

通称桜キューブは、まるでピンクダイヤモンドのように美しい、


「これがダンジョン……綺麗……」


 キューブの前に立ち、龍園寺さんはため息を吐いた。

確かにキューブは綺麗だ、まるで宝石のように煌いている。

特に桜色は女性に映える、ただし中はそんな甘いものではないのだが。


「ひゃ!?」


「え?」


 龍園寺さんがキューブに触れた瞬間、凛という音共に水面に波紋が広がるようにキューブが波打つ。

聞こえてこないはずのかわいらしい声がどこかから聞こえてきて全員が龍園寺さんを見た。


 すると龍園寺さんが顔を赤らめながら少し大きめの咳払いをした。


「んん!! ではいきましょう。益田さん、指示を」


「了解いたしました! 龍園寺様!」


 そして俺達はダンジョンへと向かった。

中心に龍園寺さんを挟み込むように、キューブの中に入る。


 特に変わった様子もなく、中は洞窟タイプのダンジョンだった。


「ここがダンジョンの中ですか……不思議ですね。全く理解できない、転移……魔力もですが使うことができても、一切原理がわからない」


 龍園寺さんはあたりを見渡すように、てくてくと歩いていく。

壁を触ったり、床を触ったりまるで研究するように、そういえば田中さんが研究者として海外で論文を出すほどには頭がいいと言っていたな。

多言語マスターで、高校生ながらに海外を飛び回る。


「それに……」


 すると一体の鬼が物陰から現れる。

ゴブリンの上位種だろう、ゴブリンにしては部族のような服に体格はすでにプロレスラーのようだった。


 しかし益田さんによって一撃で殺される。


 C級といえどB級の相手にはならないだろう。

そして倒れた鬼を龍園寺さんが触った。


「……ダンジョンの中では初めて触りますね、これが魔物。内臓器官は正しくあり……女性を凌辱する本能を持つ。なぜ? なぜ人を襲うの?」


 突如龍園寺さんが腕まくりをして、手を死体に突っ込む。


「……魔力石、これも文献通りの場所にありますね。……益田さん汚れました」


「はい! 私の服で──ごほん。失礼。ほら、灰君! 荷物の中からタオルお出しして!」


「……わかりました」


 俺は預かっていた荷物の中からタオルを取り出し、龍園寺さんに水と共に手渡そうとした。

しかし、龍園寺さんはその白くて汚れを知らない美しくしなやかな腕を俺に差し出す。


「?」


 俺は首をかしげる。


「かけてください。今手が離せなくて」


 そういう龍園寺さんは、魔石を色んな角度から興味深そうな目で見ている。

その集中力たるや俺のことなど一切視界に入れてくれない。

スマホを取り出し、写真を収め必死に何かをメモしている。


「わ、わかりました」


 俺は冷たい水をかけてタオルで血をぬぐった。

細いのに、やわらかいのはやはり女性の身体だった、そう思うと少しドキドキする。

横で益田さんがうらやましそうにしているが、さっきからあなた犯罪すれすれですよ。


 その後もダンジョン攻略はサクサク進んだ。

といっても龍園寺さんが何かあるたびに興味深そうに調べるためそこまで早くいかなかったが。


「このまま何も起きなさそうだな、よかった」


 ダンジョン攻略は特に問題なく進む。

所詮はC級ダンジョン、何も起きないと俺達の気は緩んでいた。


 俺も同じ、何事もなく終わるだろうと。


 だが俺達は護衛の任務という意味をまだ理解できていなかった。

龍園寺彩、彼女に護衛が必要な本当の意味と、この世界には魔物よりも怖い存在がいるということを。


◇同時刻 外


「はぁ……眠い。暇ですね……」


 灰達が攻略しているC級ダンジョンのキューブ。

そこで警備しているダンジョン協会の職員達、彼らはD級以下であり基本的にダンジョンに関する業務は行うが攻略は行わない。


「まぁ、お嬢様が攻略しているし仕方ない。会長の命令だからな……といっても会長はNYで世界中の代表達と会議中だが」


「わしが一緒にダンジョンにいく!! ってしつこかったけどよかったよ。あの年でよくやるわ」


「ははは、それでも全然現役いけるだろうけどな」


「ちげぇね。拳神の名はだてじゃねーだろう」


 二人の警護があくびしながらも笑い合って談笑していた。

それでも目を光らせてキューブに誰も触れないように警護する。

その時だった。


「!?」


 警備していた一人の視界が暗転し、突如世界から光が消える。

何か異変かとあたりを見渡すが一瞬で世界は日常を取り戻した。


「な、なんだ? 飛行機? 今一瞬暗く……」


「どうした?」


「いや、なんか真っ暗になったと思ったんだけど……あれ? 気のせいか?」


「はは、疲れてんじゃないか? ずっと空は晴天だぞ」


「そ、そうかな……」


 眼をごしごしとこすり勘違いだったかと首をかしげ、警備に戻る。

 

◇ダンジョンの中


 黒いローブに身を包んだ何かがダンジョンに入った。


 漆黒に身を包み、闇を纏って誰にも気づかれず。

その男は入るや否や、まっすぐと走り出した。


 どの魔物達にもまったく気づかれに。


 その姿はまるで。


 『闇』のようだった。


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