第129話 終わった世界ー3

◇灰視点


「だめ、灰さん! 逃げてください! ダメなんです!!」


「渚、大丈夫。俺結構強いからさ。ちょっと待ってて」


 そういって俺は、渚をその場において、剣を握る。

彩のアーティファクトは普通に効力を発揮した。

つまり彩は死んではいないはずと少しだけ安堵する。


「ふぅ……帝種もいるし、100は普通に超えてるな、確かにこれは前までの俺なら相手にならなかったなでも……最優の騎士」


 白き透明の鎧が灰を包み、すべての能力が一段上昇する。

俺は渚の静止を聞かずに剣を握りスキルを発動する。

渚は俺がまだ弱かった頃しか知らないので、きっと帝種が相手では勝てないと思っているのだろう。


「──真・ミラージュ。渚を守れ」


 俺の分身が現れて、渚を守るようにその場で立つ。


「待って、灰さん! 戦っちゃダメ!!」

「まぁ見てて……」


バチバチバチ!!


「──真・ライトニング」


 俺は稲妻となって一瞬で10以上の魔獣を叩き切る。


「ふぅ、うん。問題なくいけそう……──!!??」


 問題なく倒せると思った。

いや、実際に問題なく倒したんだ。


 だが俺は目を見開く。


「なんで……」


 切り裂いた魔獣、その魔獣の傷が修復されて再度立ち上がった。

まるで何事もなかったかのように、不気味な復活の仕方をする。


 俺が理解できないと見つめていると答えるように渚が言葉を続けた。


「……灰さん。あれは普通の魔獣ではありません。絶対に死なない魔獣、加えて一度戦闘を行ってしまうとどこに行っても付いてくる不死の軍団。我々はあれをイモータルと呼んでいます」


「んなバカな……」


「だからあなたとは戦わせたくなかった。でもこうなっては仕方ないです。どうにか……いえ、でもこうなってはどこに逃げても……」


 渚が絶望したような顔をする。

うん、ごめん、忠告を聞かなかった俺のせいだな。

いや、普通に倒せると思ったんだよ、なんだ不死って。


 まぁでも。


「あーそういうことね……」

「え?」


 どんな能力でも、この神の眼では看破できる。


 俺の目は黄金色に輝いて、隠された真実を映し出す。


 俺達を取り囲む魔獣の一体のステータスを見たが、やはりスキルの影響かにあるようだった。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

属性:状態

名称:マリオネット

効果:術師、もしくは中継地点から供給される魔力が尽きるまで動き続ける。

中継地点は生命体でなければならない。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「マリオネット……あれか」


 よく見るとすべての魔獣達には糸のような透明の糸が付いていた。

気づけば先ほど俺が切ったせいか、俺の剣にもその薄い魔力の糸は絡まっている。


 そしてその糸の先は。


「……空」


 その糸は上空へと向かって伸びている。

だから俺は真・ライトニングを発動しそれに向かって瞬間移動を繰り返す。


 そしてそこには。


「ガァァ!!」


 龍種が一体、空を飛んでいた。

魔力10万越え、S級の魔獣。

ジャンボジェットほどはあろうその巨体から無数の糸が地上へと伸びている。

おそらくこれが中継地点なのだろう。状態がマリオネット(中継地点)となっているし。


 俺を見るなり、叫びをあげて口を開く龍。

俺は危なげなく転移で交わし、その背後へ。

そして一閃の元その首を切り落とした。


 赤い血が雨のように降り注ぎ、その龍は地面へと落下した。


 俺はそれと同時に、地面に降りる。


「よかった。やっぱりこいつら生きてないのか。中継地点が死ねば全員魔力切れで死体に戻るってことね」


 その龍が死んだせいが、その龍から繋がっている糸は全て消えて俺達を取り囲んでいた魔獣達はまるで糸が切れたようにその場で倒れる。

おそらくマリオネットという能力は魔力を供給し続ける間は、まるで人形のように命の無い傀儡として戦い続けるのだろう。

まぁ種がわかればなんてことはないが。


「うそ……なんで……。倒したんですか、5年間私達をずっと苦しめ続けてきたイモータルを……灰さん。あなたは一体……」


 それを見た渚ちゃんが信じられないような顔で俺を見る。


「この龍を中継して、操っている奴がいるみたいだな。この龍にも糸が繋がってたから術者は辿ればついたのかもしれないけど……まぁとりあえずもう大丈夫」


 俺は驚きへたりこんでいるナギサちゃんにイモータルと呼ばれる魔獣達の仕組みを説明した。


 仕組みは分かれば単純だが、確かにこの眼が無ければどうしよもないかもしれない。

死なないS級の魔獣の群れなんて確かにえぐすぎる。

逆を言えば中継地点さえ殺せば一気に全員死ぬから種がばれてしまえば案外楽かもしれないが。


 俺は渚ちゃんに手を伸ばす。


「とりあえず、もう大丈夫。だから死ぬなんていうなよ」


 渚ちゃんはその目に涙を浮かべて俺の手を見る。


「俺がみんなを救うから」


 ぎゅっと握ったと思ったら、勢いよく俺の胸に飛び込んできた。

きっと怖い想い、辛い思いをしたんだろう、俺はあの時と同じようにその頭をなでて落ち着かせようとした。





「灰さん! もっと撫でて欲しいですけど、今はダメです! 急いで渋谷に行かなくては!」


「渋谷? そう、それさっきも言ったけど一体何が……」


 少し落ち着いた渚ちゃんが、思い出したように顔を上げる。

先ほども俺に言っていた渋谷スクランブル交差点に向かってほしいと。


「今、人類解放軍の総戦力をもって、渋谷へと攻撃を仕掛けているところなんです! おそらく……もう作戦は開始されています!」

「え?」


 時計をちらりと見る渚ちゃん、なぜ渋谷で? 一体何が。

急展開すぎて俺の頭では付いていけないんだが。


「先ほども言いましたが、灰さんが今日どこに現れるか。それは誰にもわからなかったんです! だからかつて黄金のキューブを攻略した場所であり、最もあなたが出現する可能性が高いであろう渋谷に総戦力が向かったんです! なぜなら敵の本拠地も旧渋谷にあるからです」


「……敵……円卓か」


「……はい。ここ日本を支配する円卓の騎士の一人。名をモードレッド。実質的に今この日本を支配している敵です。そして今そこでそいつと戦っているのは人類解放軍、そして指揮しているのは超越へと至った女性」


「超越者……まさかレイナ?」

「いいえ、違います。今そこで戦っているのは彼女ではありません」


 しかし首を振る渚ちゃん。

超越者へと至った女性は俺の記憶では世界で銀野レイナただ一人。 

だが渚ちゃんから聞いたのは彼女の名前ではなく。


「今渋谷であなたのために命を賭けて戦っているのは人類解放軍総司令であり、人類がここまで生き残れた一番の立役者。『暴君』アーノルド、『大英雄』王偉、『戦乙女ヴァルキュリア』レイナと並ぶ今、人類最強の一人」


 俺がずっと聞きたかった名前で。


「──超越者『神装』龍園寺彩さんです」


 俺の恋人だった。

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