第87話 in上海in中国ー3
◇
闘神ギルドの全員が、始まろうとしてる戦いを見る。
まるでスポーツ観戦でもするかのように、談笑しながら。
『どっちが勝つか賭けようぜ、俺はリンに100万』
『俺も』
『私も』
『じゃあ、俺も』
『…………っておい、全員リンじゃ意味ねぇだろ!』
『ってか魔力25万だろ? 相手にならねぇだろ。さすがに二倍は』
『確か瞬間転移っぽい能力のはずだよな、影の上に稲妻となって転移するって』
『便利だけど、戦闘にはむかねぇんじゃねーか。運搬係としては滅茶苦茶重宝するだろうから欲しい人材だけどな』
ギルドの一員は笑いながらどちらかが勝つかに賭けようとする。
100万元、日本円にして2000万円に近い金額を簡単に掛けようとするあたり彼らの金持ち具合が伺える。
だが、ほぼ全員の意見は一致している。
勝者はリンだと。
魔力の差は絶対の差、二倍近くの差を埋めることなどそれこそ武術の達人でもなければできない。
灰のスキルの種が割れてなければまだ戦えたかもしれないが、アーノルドとの戦いですべての手の内を世界中に晒している。
『しかもここは光源が頭上にしかねぇ。見晴らしもいい。影に転移してもすぐにばれる。こりゃ決まりだな。俺は1000万元』
『おいおい、まじで全員リンに賭けるのかよ、これじゃ賭けにならねぇよ。誰か灰君に──』
闘神ギルドの全員がリンの勝利に大金を賭けた、そのせいで賭けが成立しないかと思われたときだった。
『灰君の勝ちに1億』
『『え?』』
たった一人が灰の勝利に賭けた。
その発言に全員がその発言をしたものを見る。
それは。
『灰君の勝利に全部賭けてやるよ。その方が盛り上がるだろ?』
闘神ギルドのギルドマスター、救国の大英雄、ワン・ウェイだった。
楽しそうに、にこにこしながら灰を見る。
『王さん! 相変わらず大穴狙い大好きっすねーははは!』
『さすがギルマス。太っ腹っす!!』
『逆張りの王!』
『お金配りお兄さん!!』
全員がその発言を、きっと盛り上げるためだけだろうと勘違いする。
王は中国最強であり、中国でトップレベルの金持ちだ。
彼にとって一億元など、大した金額ではないのだから乗ってくれただけなんだと考えた。
そして賭けは成立する。
『残念です、私も皆さんほど稼げているなら灰君に賭けたんですけどね。王さんちなみに理由をお聞きしても?』
スカウトのハオは、王の隣に立ち笑いかける。
『良い目をしてると思った、それだけだ。……じゃあ準備は良いか! 二人とも!! えーっとAre you ready?』
『いつでもどうぞ!』
「OK!!」
その返事を聞いた王がニコニコしながら大きな声で叫ぶ。
『GO!!』
戦いの合図を。
◇灰視点
俺は、リンさんのステータスを見た。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
名前:リン・ジョン
状態:良好
職業:拳師【上級】
スキル:身体強化、波動拳
魔 力:504000
攻撃力:反映率▶75%=378000
防御力:反映率▶50%=252000
素早さ:反映率▶25%=126000
知 力:反映率▶25%=126000
装備
・なし
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
(拳師……すごくバランスのいい戦闘職か。それに装備は無し。ならフェアじゃないな……)
俺は彩の剣を床に置いた。
これにより俺のステータスは。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
名前:天地灰
状態:良好
職業:覚醒騎士(雷)【覚醒】
スキル:神の眼、アクセス権限Lv2、ミラージュ、ライトニング
魔 力:251185
攻撃力:反映率▶75%=188388
防御力:反映率▶25%=62796
素早さ:反映率▶50%=125592
知 力:反映率▶50%=125592
装備
・なし
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
(素早さと知力以外はぼろ負けだな……)
二人が構える、そして開始の合図とともに戦いは始まった。
(スキルはシンプル、肉体の強化と魔力を飛ばす遠距離攻撃か……)
俺はその二つのスキルの詳細を見た。
どちらもシンプル、ゆえに強力。
先手はリンだった。
灰に向かって走り出す。
鉄のプレートでできた床がへこむ程の踏み込み。
観戦する世界の上位者達は、この一撃で下手をすれば決まるのではないかと身を乗り出す。
リンは強い、それは彼らの共通認識。
年こそ若く技術的にもまだ浅い、闘神ギルドにおいては中間よりも若干下、序列にするなら33人中20位ほどには位置するそれでも強者。
純粋な魔力ならば、天道龍之介にも迫る存在。
その世界トップに足を踏み入れたリンが灰の目の前に高速で移動する。
その勢いそのままに、様子見程度の右ストレート。
ただしS級でなければ死んでもおかしくはない威力。
(……なんだろう)
その一撃を、文字通り灰は紙一重で交わす。
ただし危ないという意味ではなく、余裕をもって最小の動きで。
その目の輝きによって。
『!?……やるじゃないか! なら!』
(右足軸の左足で後ろかかと蹴り……)
灰はリンが蹴りを繰り出す前にしゃがんで避ける。
魔力が集まった場所、つまりはリンが意識している場所を見ればどんな攻撃がしたいのか一目瞭然。
『な!?』
(あの最強の一撃を見たからかな……遅い)
アーノルド・アルテウス。
触れたら即死の最強の一撃をその眼で真っすぐ見た灰からすればリンの一撃に脅威を感じなかった。
ゆえに冷静に、見える。
スローに見える、そして。
未来すらも見える。
(やっぱり動揺すると魔力って揺れるんだな……)
灰の目は黄金色に輝いて、リンの急所を看破する。
完璧なタイミングで完璧に余裕をもって交わされたリンの後ろ蹴り、ならば次の一撃は甘んじて受けるしかない。
『!?……身体強化!!』
完璧に交わされた、これは一撃をもらうしかないと判断したリンはスキルを使い体を守る。
灰の正面に魔力を集め、防御力を増加させる。
それは正しい判断だった、その防御力ならば正面からでは灰の攻撃力では貫けない。
「──ライトニング」
ただし、稲妻は貫通する。
『!?』
一瞬で灰を見失うリン。
灰のスキル、ライトニングで背後の影へと一瞬で移動。
次の瞬間。
『はは、賭けは俺の勝ちだな』
王がつぶやき笑い出す。
「はぁ!!」
同時にリンは意識外から首裏へと灰の肘鉄を食らって意識が飛ぶ。
魔力の薄い場所を、そして動揺しさらに弱まった場所を的確に一撃。
あのアーノルドの魔力の鎧すら貫いた一撃は、リンの意識を簡単に刈り取った。
闘神ギルドの全員が立ち上がって目を見開く。
その攻防は、3秒にも満たない。
一見すると瞬殺、ただしここにいるのは仮にも一流達。
何が起きて、なぜリンが負けたのかは俯瞰するように見れば理解できた。
『つ、つえぇぇ……』
ただただ、灰が強かった。
ライトニングというスキルの凶悪さは全員が認識を改める。
目の前でいきなり消えるというのは、頭上で俯瞰してみるのと相対するのではあまりに違うようだった。
だがそんなことよりも全員が灰の度胸と、戦闘センスに舌を巻く。
『やっぱり良い目してるな、さすが……』
王だけは、別の視点で。
『……黄金のキューブ攻略者』
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