第35話 日本ダンジョン協会会長ー2

 翌日。


 俺は迎えの車に乗って病院を後にした。

向かうは龍園寺家、大きな家をイメージしているのだが一体……。


「こちらでございます」


「ありがとうございました」


 俺は協会の人の案内で東京から少しだけ外れた、それでも東京都内に俺は降り立った。


 そして見た。


「……ヨーロッパ?」


 それはまるでヨーロッパの城だった。

巨大な噴水とその奥に聳える大きな白い洋風の建物。

庭というか庭園には美しいチューリップが咲き誇る。


「豪邸だ。まごうことなき豪邸……」


 敷地面積がいくらあるのかはわからないが、まるで迎賓館と見間違うような家だった。


「あ、天地さん!!」


 三メートルぐらいありそうな門の高さから俺は圧倒されていると中から龍園寺さんが俺を見つけて走ってくる。

顔がぱぁっと明るくなってとても可愛かったが、近づくにつれて顔を真顔にしていく。

相変わらず器用だなと思った、笑顔の方が可愛いのに。


「お待ちしておりました、祖父はもうすぐ着くかと……どうされました?」


 俺は一瞬見惚れていた。

昨日はダンジョン攻略のためか、とてもスポーティな恰好だったのだが今日は違う。


 真っ黒のタイトな服にミニスカート。

こういう系統を確かガーリー系と呼んだはず。

どんなのか分からない人は『ガーリー系 お嬢様』で検索してくれ。大体わかる。


 その黒のミニスカートから伸びる美しくしなやかな足は健全な男子なら反応してしまうのも無理はない。

童貞殺し、そんなスキル名があるのなら持っていそうだなとステータスを確認する、うん、ないわ。


 だがそれほどに綺麗だった。


 自然と目が言ってしまう俺は見つめながら思わず口が滑った。


「昨日とは雰囲気が違って……とても綺麗です」


「!?……あ、ありがとうございます」


 とたんに後ろを向いて、お礼だけ述べる龍園寺さん。

少し照れくさそうにしているが、女性は褒めろと教えられてきたからな。


「た、田中さんは既に中でお待ちです。お連れしますね」


「そうですか、わかりました!」


 それから一切俺の方を向いてくれない龍園寺さん。


 俺は案内されるがまま豪邸へと入っていく。

中もきちんと豪邸だが、外見とは全く異なり近代的な洋風という見た目。

ただし所々インテリアにはこだわりがあるのだろう、くそ高そう。


「おしゃれな家ですね」


「祖母が好きだったんです。私もその影響で……」


 龍園寺さんのおばあさんは亡くなっているそうだ。

だがしっかり生きて寿命で大往生で死んでいったので、悲しいが龍園寺さんは笑って話す。


「こちらです。今紅茶を入れてきますね」


 そういって龍園寺さんは言ってしまう。

メイドさんとかがいるのかと思ったが、そういうわけではないらしい。

だが家のお掃除とかは週に一度業者がおこなっているとのこと。


「お、きたね。体調はもう大丈夫かい?」


「田中さん!」


 案内されたのは、応接室とでもいうのだろうか。

大きなソファに貴族のような部屋は洋風で統一されてすごいおしゃれだ。


「はい! もう輸血にも慣れました!」


「うーん、あまり褒められたことではないな」


 俺達は少し笑い合う、紅茶とクッキーのようなお菓子も運ばれてきた。

高そうなお菓子と紅茶を優雅に楽しむ田中さんと龍園寺さんはとても似合っている。


 俺はここぞとばかりにボリボリとお菓子を飯のように食べまくる、食える時に食っとかないとね。


「お好みにあいましたか?」


「あ……すみません、甘いものって久しぶりで美味しくてつい……」


「たくさんありますので、お好きなだけ」


「はい!」


「そういえば、彩君。景虎さんは?」


「そろそろだと思いますが……成田からは最短距離で走ってくるといってましたし」


「はは……相変わらずか」


 そのときだった。


バーン! 


「彩!! 儂が帰ったぞぉ!! 成田から全力はさすがにちょっと疲れたわぁ!」


「帰ってきましたね。お出迎えしましょうか」


 その家中に響くような大きな声に俺達は立ち上がり玄関へと向かう。

そこには、70代なんて嘘だろと思うほどにムキムキのお爺さんがいた。

七つの球を集めるアニメの亀の仙人並みにムキムキだった。


 短パンにアロハシャツがよく似合い、そしてサングラスをかけている。

髪は金髪に染まっており、年齢とは何だと言わんばかりにハイカラなお爺さん。


 露出している四肢すべてに古傷があり、歴戦の猛者だと一目でわかる。


 まるでヤクザ漫画に出てくるヤクザの組長だと思った。

厳ついのに、それでもその顔は親しみやすい。


「おかえりなさい、おじいちゃん」


 すると景虎さんはその大きな出て龍園寺さんの頭を優しくなでる。

小さな頭がすっぽり入ってしまうほどの大きな手。


「彩……電話では話したが、無事のようで本当によかった……お? 田中君もきとったか。久しいのぉ!」


「お久しぶりです、といっても今年の正月に挨拶にきましたので一年たっておりませんが」


「がはは、そうか? それで……」


「天地灰です……は、初めまして!」


 その筋肉お爺さんがゆっくりと俺の前まで歩いてくる。

サングラスを取って、その鋭い目線が俺を射抜く。

だがすぐに景虎さんは、頭を下げた。


「初めましてじゃな。日本ダンジョン協会会長の龍園寺景虎じゃ。まずは彩を助けてくれたこと、心から感謝する。いつもは儂が近くにいたんじゃが。隙を突かれた。君がいなければ彩は死んでいただろう。本当にありがとう」


「そんな自分は……護衛の任務を全うしたまでで……」


「いや、命を懸けて守ってくれたと聞いている。A級のフーウェン相手にそれこそ気を失うほどのケガもしたと。本当に感謝してもしきれない。ありがとう、灰君」

 

 その体格に似合わずしっかり頭を下げる会長。

その態度から俺は悪い人ではない事だけはわかる。

俺の短い人生感でなんとなくわかる、この人は善だと。


 自分よりも圧倒的年下で地位も何もない俺にも礼儀を尽くしてくれる。


「……わかりました。受け取ります。どういたしまして」


 すると景虎さんが顔を上げてニカっと笑う。

俺もつられてへへっと笑ってしまった、なんて安心する人なんだろう。


「おじいちゃん! じゃあここじゃなんだし、お昼にしましょう! 何がいい?」


「あぁ! 走ってきたから本当にお腹が減ったわ。そうじゃな、寿司がいいの! 特上、10人前注文してくれ」


「ふふ、了解」


 俺達はそのまま応接室に戻った。

龍園寺さんだけは、お寿司を注文しにいった、多分出前だろう。


「景虎さん、もうお年なんですから車でゆっくり移動されたほうが」


「久しぶりにやったが、息が上がってしまったわ。だがこれが一番早いからな。早く彩に会いたかったし、君達にもな。じゃあ早速彩が戻ってくる前に聞こうか」


「はい、彩君から聞いた話と昨日調査隊がキューブの中をすぐに調査しましたところ、滅神教の司教つまりA級の覚醒者フーウェンで間違いないかと。世界的に指名手配され多くの要人を殺した暗殺者、まさかあんな大物が日本に来ていたとは。私も名前しか知りませんでしたが」


「そうか……あれは協会の中でも相当に警戒されとったが……それをアンランクの灰君が倒したと。それは説明してもらえるのか? それとも秘密か? 助けてもらったのはこちらだ。秘密なら……話さんでも」


 田中さんは俺を見る。

俺はそのまま頷き、話すことにした。


「いや話します、それに龍園寺さん……いや、彩さんのことでお伝えしたいこともありますし」


「この場で聞いたことは他言しないことを誓おう」


 俺達は机に座って向かい合う。

俺は意を決したように口を開いた。


「ありがとうございます。それでですね……景虎会長。俺には魔力を持つ人のステータスが見えます。どんな力を持っているか、どんな能力なのかを。それが俺が金色のキューブを攻略して得た力です」


 俺が金色のキューブ攻略者であることは景虎会長も知っている。

だが、その結果手に入れたこの神の眼については何も知らない。


「ステータス? それはどういう……」


「見ていただいた方が早いですね」


 俺は田中さんの時と同じように紙とペンを取り出す。

スラスラとこの目に映るものを書いていく。


 机の上にその紙を置いた。

それを見た優しそうで笑っていた会長が、突如目を見開く。


「これが景虎会長のステータスです」


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