第36話 日本ダンジョン協会会長ー3
「これが景虎会長のステータスです」
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名前:龍園寺景虎
状態:良好
職業:バーサーカー【上級】
スキル:痛覚遮断、自然治癒
魔 力:284300
攻撃力:反映率▶100%=284300
防御力:反映率▶25%=71075
素早さ:反映率▶25%=71075
知 力:反映率▶25%=71075
装備
・なし
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俺は景虎会長に紙に書いたステータスを見せる。
そして俺は思った、この人やっぱりキン肉マンだと。
見た目通りのバーサーカー、職業による反映率の上昇をすべて攻撃力に注ぎ込んでいる。
俺の初級騎士(光)なんかは、攻撃力と知力に25%の上昇補正が入っている。
だが、バーサーカーは75%の攻撃力に対する上昇。
これは推論だが、初級職は合計50%、上級職は75%、そして彩さんの覚醒は100%の上昇をしてくれるんじゃないだろうか。
それにスキルも痛覚遮断に、自然治癒。
強いわけだ、単純な力と痛みを無視して戦い続け、さらに回復までするのだから。
「魔力は確かに田中君も知っているだろう、しかし……スキル。痛覚遮断については、わしの特異体質だとばかり……現役時代の仲間達しか知らないはず。いや、それでも聞けば……」
「景虎さん」
悩むようにその紙をみる会長を田中さんが呼んだ。
そして目を合わせて頷いた。
「にわかには信じられないが、信じよう。これは灰君が知りえない情報だ。これが強さの秘訣だと?」
俺はそれからキューブについても説明した。
景虎会長は、田中さんの時と同じような反応をしたが、それでも田中さんの後押しもあり納得する。
「これを知っているのは?」
「田中さんと会長だけです」
「そうか……わかった。再度他言しないことを誓う。だがこれで合点も言った、アンランクの灰君がA級と戦えるまで成長したということに」
だが俺はそれを否定する。
「いえ、違います。俺だけでは絶対に勝てませんでした。今の俺はB級の中堅。勝てたのは彩さんの力です」
「彩の?」
その時だった、彩さんが扉を開けて注文を終えて戻ってくる。
会長はその場で口を閉じたが、俺としては彩さんには全部話すつもりだった。
なぜならアーティファクトを作って欲しいからだ。
彼女が悪なら俺はそんなことはしない、でも彼女は善だと思う。
ただ力ない自分をもがき続けているだけの必死な少女。
「彩さん、座ってもらえますか? 話したいことがあります」
「へぇ!? あ、あや……」
「すみません、景虎さんもいますので……下の名前でいいですか? それとも……」
「あ、あぁ! そうですよね。わかりました……彩で問題ありません。それに敬語も必要ないです、天地さんは同い年ですので」
「あぁ……わかったよ、彩。じゃあ来てくれる?」
「……」
「彩?」
「は、はい!」
赤くなりながら照れている彩、下の名前で呼ばれることにあまり慣れていないのだろうか。
まぁ昨日まで赤の他人だしな、仕方ない。
すると景虎さんと田中さんがひそひそと話し出す。
「た、田中君……も、もしかして……」
「そういうことでしょう、意外と天然のたらしのようです」
「どうしました? 田中さん、景虎さん」
「な、なんでもないよ」
「ま、まだおじいちゃんとは呼ばせんぞ!」
(年齢のことか? 確かに年齢はおじいちゃんだけど、この人を年寄り扱いはできないだろう)
「天地さん、私も灰さんとお呼びしてもいいでしょうか」
「ん? いいよ。じゃあ話を戻します。彩のステータスですが……」
俺は彩を見つめて、紙にステータスを書いていく。
彩は目を合わせないように、髪を指でくるくるとしているが、まるで絵のモデルのような佇まいだった。
やっぱり美人だと改めて思うほどには座るだけで絵になる。
「知力以外には反映率が0、これが起因していると思われます。そして彩には特別な装備を作る力が宿っています。アーティファクトと呼ばれる装備。このステータスに書かれている反映率という数字に影響を与える装備です」
「なんと……彩のステータスも」
俺は景虎会長と彩にステータスを見せて説明する。
彩は驚くが、それでもすぐに理解する。
頭の良い人だ、1を聞いて10を知る。
「これが私の力……私だけの特別な力……」
すると景虎会長が彩の頭に手を置いて優しくなでる。
「そうだ、お前は無能なんかじゃない」
「うん……うん……」
彩を慰める会長、無能のS級と呼ばれてきた彼女が一体どんな人生を歩んできたのかまでは俺は知らない。
だが、無能と呼ばれる気持ちだけはわかるつもりだ。
どれだけ努力しても、生まれ持った魔力という才能の前では虫けら同然に殺される。
俺はそこで受け入れてしまったが、彼女は受け入れずにずっと戦ってきたのだろう。
無能ではないと証明するように、努力を重ねてきた彼女を俺は少し尊敬している。
「それで、この能力のことは俺にも正直よくわかりません、でも……」
俺は持ってきていたA級の魔力石、彩が作ってくれたアーティファクトを差し出す。
紅く丸い石は、真ん中で綺麗に割れてしまっているが。
「魔力石、これを使って作り出すものです。彩、割れてしまったけどこれは返しておく。それで何か思いだせない?」
「ありがとうございます。割れてしまいましたか……ですが命には代えられませんね。あの時なぜ特別な力がでたのか……色々考えていることがありますのでちょっと検証させてもらいますね」
俺はこくりと頷く。
研究者のような彩のことだ、きっとあの時の状況を事細かに再現し、原因を見つけてくれるだろう。
「また完成したら呼んでよ、俺ならアーティファクトがどんな能力を持っているかがわかるから。詳細までは今はわからないけど……」
「わかりました! 色々試行錯誤してみます。力があると証明されただけで見えない暗闇を進むより、はるかに真っすぐ道が見えました」
「それはよかった。では俺の話は終わりですが……」
「話してくれてありがとう、灰君。しばらくは儂が彩の傍にいることにする、わしがおればそう簡単に手だしはできんだろう」
「この度は本当にありがとうございました。灰さん。この力を使いこなせるようになったらぜひアーティファクト? を受け取ってください」
(よっしゃ!)
俺はその言葉に小さく心でガッツポーズした。
正直自分の口から言うのは少しだけ抵抗があったのだ。
多分アーティファクトの価値は億で済まないかもしれない。
それこそ大国がその力を求めてどんな行動を起こすか分からない。
こんな言い方はしたくはないが、彩の力はこの現代において兵器だ。
世界のパワーバランスを壊しかねない力。
借りに量産できるのならば、それこそ世界が変わる。
だから。
「二人ともわかっておるとは思うが……」
「はい、誰にも彩さんの力はいいません」
「私もです。景虎さん」
彩の力については、俺の力同様に秘密となる。
それから俺達は今後のことを話し合った。
「じゃあ、灰君。C級ダンジョンをソロ攻略していくつもりなんだな?」
「……そうしたいです」
俺はソロ攻略を続けたいことを伝える。
相手はダンジョン協会会長、いうなれば最もこのルールについて厳格に守らなければならない存在。
もしかしたらここで俺は資格はく奪すらも。
「いいぞ」
「え?」
「元々ダンジョンポイント制度は力なき攻略者が死なないように考えたものじゃ。今ではルールとして定着しているがそもそもの始まりはたくさんの人がダンジョンで死んでいく中で作られていった我々の基準だった。最低限それだけの戦力でダンジョンには望むべきだというな。だが、君には成し遂げなければならない理由があるのだろう? ならば止めない。ルールよりも優先するべきことはこの世界にいくつもある。ただし!」
景虎さんは指を口に当ててウィンクする。
「内緒じゃぞ? 一応儂会長じゃし」
「はは、了解です」
「よかったです。これでAMSの治療方法を探せます」
俺は握り拳をつくって、ガッツポーズ。
これでまた一歩凪を目覚めさせるのに近づいた。
「灰君……その前に、少し庭にでんか」
「え?」
すると景虎会長がニカッと笑いながら俺を見る。
「儂と戦おう」
まるで子供のように。
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