第28話 ようこそ、アヴァロンへー3

 あれから二週間が経った。

深夜のD級ダンジョン攻略は一日二回、30回近く攻略した。

ミラージュの力は圧倒的で、俺は物足りなさすら感じていた。


 はっきり言ってヌルゲーでしかない。


「田中さん、そろそろC級にチャレンジしたいと思ってます」


 俺は田中さんの部屋に来て相談していた。

アヴァロンのギルドバッヂを付けて完全に社員としてだ。

このギルドバッジを付けているだけで、尊敬されるのだからまるで将軍の印籠だな。


「……二週間だよ? 時期尚早じゃないのか? 確かに君は強くなったと思うが。C級からは難易度が跳ね上がる」


 俺は田中さんに相談していた。

正直D級のダンジョン攻略がマンネリ化していてこれ以上は成長が遅いと思う。


 なんせ一つ攻略しても魔力が100しか増えない。

しか──と言える当たり元々5の魔力しかなかった俺の感覚もマヒしてきているのだが。

仮に田中さんに追いつこうと思ったら300個近くのダンジョンを攻略しなければならない。


 それは日本だけじゃなく、海外のダンジョンまで視野にいれなくてはいけない量だ。


「頑張ります。だからお願いします!」


 俺は田中さんに精一杯お願いする。

だが、田中さんの表情はあまり優れない。


「うーん、そうだな……じゃあ一つ条件がある」


「なんですか!?」


「その話の前にね、少し話は変わるが、君の攻略者資格だけどC級に変更しておいたよ。稀に起きる魔力成長現象だと説明しておいた」


「あ、そうなんですね。了解です」


 知らずにキューブを完全攻略した人や、初回攻略した人が前よりも強くなったことを魔力がまるで成長したことから魔力成長と呼んだ。

しかし本来魔力といくらキューブを攻略しようとも成長しない。

そのためとても珍しい現象ではあるが一定数観測もされているのでそういう制度もある。


「C級ほどあれば何かと便利なのと……実は頼みたいことがあってね」


「なんでしょう……」


 田中さんが不敵な笑みを浮かべながら机から何か資料を取り出した。

攻略者の情報と、一人の女性の写真が写っている。


「C級ダンジョンにアヴァロンのメンバーとしてパーティ攻略してほしい。まだC級ダンジョンには入ったことがないだろう? まずは空気を掴むといい。良い機会だと思ってね」


「それは良い考えですね。それなら安全です。それが頼みたいことですか?」


 田中さんの提案は、一度も入ったことがないC級ダンジョンにパーティとして潜れということだった。

俺はその提案を受け入れる。

いきなりC級をソロよりはどんなものかパーティで一度攻略した方が安全なのは確かだ。


 だが、この攻略は普通の攻略ではないようだった。


「あぁ、実はね。うちに特殊な依頼が来ている。ある人がダンジョンに潜るからその護衛をしてほしいと」


「護衛……ですか、珍しいですね。お金持ちかなんかです? 酔狂な人もいるもんだ。ダンジョンに入りたいなんて」


「あぁ。それがこの女性なんだがね?」


 そういって田中さんが俺に見せたのは一枚の写真。


「……高校生ぐらいですか? すっごい美人ですね……どこかで見たような……」


 俺はその写真を見る。

黒髪でロング、姿勢が綺麗で、スタイルがいい。

釣り目というか、目力というか、鋭い眼光は見ているだけで緊張する。

正直めっちゃ美人だなと思ったし、真っ黒な制服で全身黒尽くめはドキッとさせられる。


 でもどこかで見たことがあるような……。


「日本ダンジョン協会会長、龍園寺景虎さんは知っているね?」


「そりゃもう、S級として一時代を築いた攻略者ですしね。俺の、いや全攻略者の憧れです。拳だけで魔物達を粉砕する動画は何度見ても爽快ですす、武術の達人だとか。でももう引退されたと」


「あぁ、あの人ももう70過ぎだからな、正直全然元気だし、私なんぞ片手で制されるだろう。本人はダンジョンに潜りたがっているが、全員で必死に止める毎日だったよ」


 そう言う田中さんは、会長と知り合いのようだった。

どこか懐かしいような目で上を見上げている、何かあったんだろうか。


「失礼。でだね、この少女。名を龍園寺彩という。つまりは会長のお孫さんだ」


「お孫さん!? 超VIPじゃないですか!?」


 日本ダンジョン協会の会長、つまり日本で一番ダンジョンに関する偉い人。

本人もS級として莫大な富を築いた超セレブでもある龍園寺景虎、そのお孫さんの彩さん。


「そう、今年高校を卒業されてね、18歳になった。だから同い年だね。それで攻略者資格を取得されたんだ。一度ダンジョンに潜ってみたいらしい……それで同行するようにと我がギルドに依頼がきた。彼女は魔力に興味を持ち、高校生ながらに最先端の研究を行なっている」


「そうですか……それは責任重大ですね」


「そうだね、だからB級で固めようともおもったのだが、それはルール違反だと本人がね……はは。気の強いお嬢さんでね。景虎さんのお孫さんだよ、本当に」


 田中さんの話だと、正しくダンジョンポイントという制度にのっとったメンバーで構成してほしいとの依頼だという。

本人はダンジョンを攻略したいのであって、護衛されたいわけではないとのこと。


 だからせめてと、攻略するダンジョンはC級を選択した。


 B級からは本当に危険であり、初めてで入る場所ではないという理由からだ。

そのため、ダンジョンポイント制度にのっとってC級上位三名、B級一名で護衛することになったらしい。


「そこに君も行ってほしい。はっきり言うと今の君はC級を逸脱しているし、今回に関して一番適任だと思っている。一石二鳥だし、お孫さんに顔が売れるかもしれない。玉の輿だぞ? しかも超美人だ」


「はは、了解です」


 俺は田中さんのちょっと親父っぽいセリフに乾いた笑いを浮かべながら了承することにした。

C級ダンジョンをベテラン達と安全に攻略できるなら俺としては断る理由などない。


「あ、そういえばそのお孫さん……彩さんでしたっけ? 等級はなんなんですか?」


 護衛というからにはD級、それともC級辺りだろうか?


 すると田中さんからは信じられない言葉が飛び出した。


「……S級……魔力量……32万の化け物だよ」


「……護衛いらなくねぇ?」


 俺は思わずため口をついてしまった。


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