第27話 ようこそ、アヴァロンへー2
俺は田中さんのステータスを紙に記載して手渡した。
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名前:田中一誠
状態:良好
職業:魔導士(炎)【上級】
スキル:ファイアーボール、ファイアーウォール
魔 力:23450
攻撃力:反映率▶25%=5863
防御力:反映率▶25%=5863
素早さ:反映率▶25%=5863
知 力:反映率▶100%=23450
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「23450……これは私が魔力測定機で測定した魔力量。公開していないし、灰君にもいっていなかったはずだ。それにスキル名? そんな馬鹿な……」
田中さんがその紙を両手にとって見つめてぶつぶつと何かをつぶやき続ける。
俺は少しだけ、気まずそうに田中さんの反応をうかがっていた。
「灰君、これが見えるのか? まさか全員?」
「……はい、それにこの武器もステータスがあります、あとキューブも」
俺はハイウルフの牙剣を見せる。
この剣がハイウルフのものだと俺には見るだけで分かると伝えた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。頭が追い付かない。ステータスは人だけじゃなく武器、それにキューブにもあると?」
「そ、それと魔物にも。多分魔力が影響しているものすべてです」
田中さんは天を仰ぐように、上を向いてもたれ掛かった。
「……では君は魔物の強さも武器の性能も、キューブの状態もすべてわかるというのか? 数値として?」
「……はい」
「それはなんという……想像の遥か上をいかれてしまったな、何を言われてもいいように覚悟していたつもりだったが、この力は世界が変わるぞ」
そして俺は一番言いづらいことを言うことにした。
「……それでですね、多分これが一番驚くんですが……」
「なに? まだあるのか……」
「キューブには攻略と完全攻略という二種類があって、報酬がもらえます、一度クリアされたキューブなら既に攻略されていて報酬はもらえないんですが……完全攻略はあまりされていません」
「完全攻略?」
「はい、キューブにはそれぞれ特定の条件があり、例えばソロで攻略する、ゴブリンを100体倒すなどです。この完全攻略をすると報酬として……魔力の最大値が増えます」
俺の言葉に田中さんが立ち上がる。
「……噂はされていたがキューブを攻略した際稀に前より強くなるというのは……それか」
「多分……」
「ふぅ……これぐらいだろうか? もうお腹いっぱいなのだが」
「細かいことを言えばまだまだあるんですけど……」
「はは……こうなったら全部聞こう」
俺はダンジョン崩壊や、クラスアップ、アクセス権限など今の俺の考察状況含めて全て説明した。
そして、俺の目的も。
「AMS……世界を蝕む病の詳細か……」
「はい、だから俺はこの力を上げてAMSの詳細をアクセスできるようにしたいんです。方法は分かりません。でもダンジョンだけが、あのキューブだけが解決方法を知っている気がして」
「そのためにソロで攻略し、強くなると」
「……はい!」
俺は田中さんに真っすぐと気持ちを伝えた。
ソロで攻略するということは想像を絶するほどに危険だ。
それは俺が一番良く知っている、この短期間で何度死にそうな目にあったか。
だからこそダンジョン協会はでき、ギルドはでき、ダンジョンに入るためにダンジョンポイントという制度を作ったのだから。
俺はそれを破ると言っている、攻略者資格を剥奪されても文句は言えない。
「死ぬかもしれないんだよ、ソロとはそれほどに危険なんだ」
「覚悟の上です」
「……」
「……」
俺と田中さんは真剣な目で見つめ合う。
数秒後、田中さんが耐えきれないと笑いだした。
「……ふふ、ははは。君に覚悟ができていると言われたのなら信じるしかないね。私としては」
田中さんはきっとあの時の、心の試練のことを言っているんだろう。
確かにあの時俺は死を覚悟して全員の命を助ける選択をした。
もちろん、凪を助けてもらえるという打算はあったのはあったのだが。
「そうですね、止めても無駄ですよ?」
「……本当は止めるべきなのだろうね。でも……」
田中さんは俺の手を握った。
そして、また同じ目をして俺を見る。
「その力が君に与えられたのにはきっと理由がある。だから私はせめて君を支えよう」
「田中さん……」
「それとね、その力のこと。他の人に話すべきじゃない。君が、君だけがその力を使って強くなるべきだ。はっきり言おう、その力悪用すれば世界が変わりかねない、それこそ悪意ある力が君を襲うかもしれない」
「それって……」
「日本なら、相手が日本人なら私のギルドが、この国が君を守ってあげられる。だが……わかるね。誰が相手になる可能性があるかを」
「大国ですか?」
田中さんは、静かにうなずいた。
世界のパワーバランスを崩しかねないこの力は、日本という国の力を使っても守り切れないかもしれない。
中国、アメリカ、ロシア、アジア、欧米列強。
世界的に見れば攻略者の強さは中堅国家である日本。
そうなったとき、俺の未来はどうなるのか。
物言わぬただの鑑定機にされてしまうかもしれない。
この眼をえぐられるかもしれない、危険な存在だと殺されるかもしれない。
それは想像するだけで怖かった。
世界という力は今の矮小な俺ごときでは抗う事すら許されないだろう。
「だから最低S級、日本を代表する攻略者になりなさい。それならば君に手出しできるものもいないとは言わないが少なくなる」
「お、俺がS級ですか!?」
「そうだ、私がサポートする。基本的にダンジョンポイントのせいでダンジョンは一人では入れない。だから君は田舎のキューブをソロで攻略していたんだろう?」
「……そうです。ルールを破ってました」
「あぁ、だから私も破ろう。協会には嘘の申請をすることになるがね。なに私ならバレずにできるし証拠も残さない」
「それは……いいんですか? ばれたらまずいんじゃ」
「あぁ、犯罪行為だ。だが時にルールよりも守るべきものはあるはずだ。私は君を信じるし、それこそが私の正義だと今確信している。その力が君に与えられた意味もなんとなくね」
俺は立ち上がって頭を下げる。
田中さんほどの立場の人がルールを破ることの意味が分からない年じゃない。
それでも俺は頼ることにした。
ルールよりも守るべきものが俺にはあるから。
「……わかりました。よろしくお願いします!」
「あぁ、任された。ということで……今度はコネじゃなくちゃんと言えるね」
田中さんも立ち上がり、肩を握る。
「ようこそ、我がギルド。アヴァロンへ。君を歓迎する」
「え? 俺がアヴァロン所属ですか!?」
「そうだ、所属だけでもしておいてくれ。いろいろと便利になる。明日にはD級のダンジョンにソロでいくつか潜れるように手配しよう。今の君はC級の下位ならばそのレベルがちょうどいいはずだ。できるだけ早くダンジョンにいきたいんだろ?」
「はは、ばれてますか? 実は家族のためとかっこつけていますが、今すごく楽しいです。それに新しい力を試したい」
俺の本心を田中さんに見抜かれて少し恥ずかしくなる。
凪のためというのは本当だし本心だ。
それでも俺はダンジョン攻略が楽しく、成長していくことに達成感を感じている。
「わかるよ、ダンジョンは男のロマンだ。それに君は成長できる、それが楽しくないわけがない。さぁ、腹も膨れたし、話すことは話したし。今日はお開きにしようか。また連絡するよ」
「お願いします!」
そうしてその日は田中さんと俺は別れた。
とても有意義な話しができたし、今後後ろ盾が得られてダンジョン攻略も田舎まで行かなくて済むようになった。
といってもばれないように、時間は夜に活動することが多くなったが。
…
翌日 夜。
俺は、田中さんに言われた通りの場所へ向かった。
東京よりも少し外れ、千葉よりのキューブ。
本来はアヴァロンの別のチームが攻略することになっていたD級ダンジョンへと俺は向かった。
「こんばんわ!」
「お、きたね。じゃあいっといで。初回だけは見ておこうとおもってね。ちなみにこのキューブのステータスはどうなっているんだ?」
そこには田中さんが一人で待っていた。
夜も更けて人通りもない、というかダンジョン崩壊が近いということで封鎖されている。
ダンジョン崩壊が近い場合、攻略されるまで封鎖するのもダンジョン協会の仕事らしい。
攻略者はいつだって人手不足。
日本だけでたくさんあるキューブを定期的に攻略しなければならないのだからそれも仕方ない。
「えっとですね」
俺は白色のキューブのステータスを確認し、田中さんに告げた。
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残存魔力:80/100(+1/24h)
攻略難易度:D級
◆報酬
初回攻略報酬(済):魔力+50
・条件1 一度もクリアされていない状態でボスを討伐する。
完全攻略報酬(未):現在のアクセス権限Lvでは参照できません。
・条件1 ソロで攻略する。
・条件2 一度もダメージを受けずに攻略する。
・条件3 ダンジョン内のすべての魔物を撃破する(現在97)
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「なるほどな、そんな条件が。しかもキューブごとに全然違うと。それは気づけないだろうな」
「はい、それに今の世界ではソロで攻略するというのはご法度ですから……」
「そうだな。じゃあ行っておいで」
「はい!」
そういって田中さんは俺の肩を叩き、見送ってくれた。
俺はそのままキューブに触れて凛とした音と共のキューブへと潜る。
視界が暗転し、目を開くとそこは。
「……森?」
生い茂る木々、せせらぎの音、蟲の声。
ダンジョンとしては余り見ないタイプだろう。
まるでアマゾンだ、言ったことはないけれど。
何もかもがデカい、木もデカいし、草もデカい。
日差しが明るく、蒸し暑い。
服装がラフな格好でよかった、それに食料と水も鞄にいれているので当分は大丈夫だろう。
脱水症状になりそうな気温だった。
そして目の前には。
「うわー……でっかい蜘蛛だ」
俺は木に張り付いている白色の蜘蛛っぽい何かのステータスを見つめる。
正直気持ち悪い。
俺は貧乏ゆえに虫には耐性はあるほうだし、ゴキブリに至っては同居虫なのだがそれでもデカい虫は気持ち悪い。
ちなみに小さい蜘蛛は益虫と呼ばれているから俺は家で見かけたら今日もお勤めご苦労様ですと言っている。
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名前:ホワイトスパイダー
魔力:50
攻撃力:反映率▶20%= 10
防御力:反映率▶10%= 5
素早さ:反映率▶40%= 20
知 力:反映率▶30%= 15
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「……ホワイトなんだ、キューブもだけど結構色によって強さがわかるようになってるのは親切だよな」
E級ダンジョンのブルーベアー。
D級ダンジョンのホワイトスパイダー。
そして強くなるとレッド、イエローなどキューブと同じ色の魔物が現れる。
もちろん、そんな概念すらない魔物もいるのだが。
「よし、せっかくだ。やってみよう」
俺はそのホワイトスパイダーに地面に落ちていた石を投げる。
見事命中した石に怒ったのかいくつあるかもわからない目がぎょろっと俺を凝視する。
とたん気持ち悪いぐらいの速度で俺に向かって駆け出した。
「──ミラージュ」
発動するのは、俺の新しいスキル。
俺に向かって全力で走ってきた蜘蛛は俺を見失ったようにその場で停止し、キョロキョロする。
俺はゆっくりと音を立てずに背後に回って、剣を振りかぶり、そして。
ズシャッ!!
「ギィィィ!!!」
俺の剣によって真っ二つに切り裂かれた虫が断末魔を上げて絶命した。
緑色の気持ち悪い液体がびっしりと俺の真っ白な剣にへばりつく。
「やっぱり見えてないんだな。これは……便利すぎる」
俺が使ったスキル、それはミラージュ。
あの初級騎士試験をクリアした俺に与えらえた破格の性能の力。
それを踏まえて俺は自分のステータスを確認する。
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名前:天地灰
状態:良好
職業:初級騎士(光)【初級】
スキル:神の目Lv1、アクセス権限Lv1、ミラージュ
魔 力:385
攻撃力:反映率▶50%=192
防御力:反映率▶25%=96
素早さ:反映率▶25%=96
知 力:反映率▶50%=192
装備
・ハイウルフの牙剣=攻撃力+120
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なんとこの職業を得た結果、魔力に対する反映率が上昇した。
攻撃力と知力が25%だったものが、50%にあがり実に25%の上昇。
全体でいえば50%の上昇となる。
職業というものは、魔力をより効率的にステータスに反映させてくれるのだろう。
田中さんは魔導士という上級の職業だったからか全体で75%の上昇率で知力が100%だった。
上級職は75%の上昇になるのかな? 今度意識して周りの人を見てみよう。
「こう見ると随分強くなったよな……」
今ではハイウルフの牙剣よりも俺の方が攻撃力が高い。
これはいつか新しい装備も考えないと。
良い武器職人がいればいいんだが……職業が武器職人の人を探すか?
俺は2400万円もする装備が少しだけ物足りなくなってくる。
前の俺からすれば贅沢な悩みだが、C級の俺ならB級の装備、いや、できればオーダーメイドを……。
「それにしても、まったく気づかれないな……この虫達知力低いし、俺のこと全然見えてないんだろうな。これは借り放題。本当にいいスキルをもらえた」
そういって俺はひたすらと虫を狩り続ける。
一方的、敵にすらなっていない。
背後から透明人間として一撃を繰り返し続ける。
『条件2を達成しました』
「お? 全部倒せたか。じゃああとはボスだけだな」
俺はミラージュを発動させながらボスの部屋に行く。
中心には巨大な蜘蛛がいた、ホワイトスパイダーのボス、ビックホワイトスパイダー。
俺よりも二回りは大きいその蜘蛛。
しかし。
「ボスまで気づかないとは……」
俺はゆっくりと隣まで歩いていき一撃でその蜘蛛の首を切断した。
気持ち悪い断面と血が噴き出して、無機質な声が完全攻略を俺に告げた。
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