第94話 A級キューブ攻略ー3
その穴からゆっくり降りてきたのは、まるで騎士。
しかし、闇のように真っ黒な鎧を付けてこちらを見る。
「人? いや、違う……お前は……なんだ?」
ランスロットが、ライトニングさんが、二人が戦ってきた黒い騎士。
俺は記憶の旅でしか見たことがないが、それはそこで見た黒い騎士だった。
その騎士は俺を真っすぐ見ていた。
興味深そうにこちらを、神の眼と対照的なほどに鎧の向こうでは真っ黒な眼でこちらを見る。
まるで観察するように、自身も何が起きているか理解できないという表情で。
俺は再度神の眼を発動させてステータスを見る。
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名前:名もなき黒騎士
状態:精神混濁(解除まで:100秒)
職業:下級騎士(黒)
スキル:闇の眼
魔 力:1000000
攻撃力:反映率▶25%(低下中)=250000
防御力:反映率▶25%(低下中)=250000
素早さ:反映率▶25%(低下中)=250000
知 力:反映率▶25%(低下中)=250000
装備
・なし
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「魔力100万!?……しかもこのステータス画面は魔物じゃない!?」
そのステータスは、魔物ではなくまるで人を見た時と同じ形式。
俺がそれを見て驚いた瞬間だった。
先ほどまではどこか何が起きているか理解できない様子だった黒騎士が俺の眼を見て叫び出す。
まるで古からの仇敵を見つけたかのように。
「ガァァァァ!!!!」
「くっ!」
その突撃を真横に交わす。
速度は速い、ただ直線すぎて避けることはさほど難しくはなかった。
「ぐるる……」
まるで理性のない獣のよう。
勢いそのまま壁に突撃し、獣のような声を上げながらこちらを振り返る黒騎士。
黒い目を鈍く光らせてただ、こちらを見る。
涎を垂らし、敵意を向きだし、殺意の波動を垂れ流す。
「……もしかして状態の精神混濁が関係してるのか」
この目の前の敵の名は昇格試験の時の騎士達と同じ。
名もなき黒騎士、それは今までの魔物とは違い種族名ではないと思う。
「ふぅ……」
俺は一度落ち着いて、剣を構える。
「意思疎通はできないか? 聞きたいことがあるんだが……」
俺は会話ができないかと言葉を発する。
「殺す……白……神」
「!?」
黒い騎士が何か言葉を発した。
理解できない言語、だが俺の脳に直接言葉の意味が鳴り響く。
まるであの時の読めない文字が書かれた石碑に触れたときのように、心で理解させられる。
驚く俺に、黒騎士は再度突撃してくる。
先ほどまでよりも確実に、命に触れようと意思をもって。
間違いなく強くなっている。
正確には、強さを取り戻しつつある。
剣の切っ先には理性が宿りつつある。
「くそっ!」
俺は諦め戦うことにした。
分からないことだらけだ、そしてせっかく意思疎通できそうな敵がきたのに。
だが、相手は魔力100万。
ただし反映率が低く、合計してみれば今の俺と同等の強さ。
しかし油断していい相手じゃない。
黒い騎士の周囲に黒い魔力集まっていく。
それは間違いなく殺意の魔力、俺を殺そうという明確な意思。
俺は握りこぶしを作って、眼を閉じる。
再度見開き黄金色に輝かせ、覚悟を決めた。
あの日俺は決めたんだ。
彩を、レイナを、凪を……そして大切な人を守るために強くなろうと、甘さは捨てると。
「悪いが……倒す。いや、殺す!」
わざと強い言葉を俺は口に出す。
自分に言い聞かせるように、俺は今から人のような理性のあるものを殺すんだと。
俺は戦う。
正義がどちらにあるかなんかわからなくても、戦う理由だけは俺にはあるから。
黒騎士が走る。
音速を超えて、魔力だけなら超越者に匹敵する一撃が俺の心臓を真っすぐ狙う。
それでもそこに技術はない。
なら。
「ミラージュ」
「──!?」
俺に当たるわけもない。
俺はミラージュを発動し、避けると同時に一瞬視界から消える。
驚く黒騎士が伸ばし切った腕を真上からの一撃で叩き切る。
「ガャァァァ!!!」
黒騎士の腕が飛び、俺達と同じ真っ赤な血が周囲に舞い散る。
ただ直線上に攻撃してくる黒騎士の攻撃は避けるのはたやすいし、カウンターも決めやすい。
黒騎士は片腕を抑えて、俺を見る。
その目は恐れではなく怒りが溢れているように見えた。
「殺す! 白の騎士!!」
突如魔力の放流が起きる。
真っ黒な魔力がその黒騎士から溢れ出る。
精神混濁の時間は終わり、明確な意思をその眼から感じる。
だから俺は。
「……──ライトニング」
明確な殺意をもってとどめを刺す。
「がっ!」
ミラージュと背後へのライトニングを用いて瞬間移動。
俺の今一番得意な初見殺しの最大火力の一撃。
その威力は防御の反映率の低い黒騎士の胸を簡単に背後から貫いた。
口から赤い血を垂れ流し、黒騎士は剣を地面に落とす。
状態は間違いなく死という文字に変わり俺はこの意思のある生き物を殺した。
昔の会長の言葉を思い出す、俺は今自分の意思で、自分のために命を奪った。
「……その眼……ランスロット? いや、違う……何だお前は」
消え入りそうな声で黒い騎士が言葉を漏らす。
「どういうことだ……教えてくれ! お前達はなんだ! 神って! 白い騎士って!」
俺はずっと疑問に思っていたことを脈絡もなく単語だけ並べて問いただす。
なんとなくこいつは知っている気がしたから。
「何も知らぬか……今度こそ、今度こそだ。お前達を滅ぼし我らが闇が世界を手に入れる……待っていろ。白の騎士」
そしてその言葉と同時に、石のようになった黒い騎士は砕けて灰になった。
魔力石も残らずに、ただそこには灰だけが残っている。
おそらく俺の言葉は届いた、なぜなのかは分からないが。
「……なんなんだ」
俺は黒い騎士の灰を手に握って見つめる。
ステータスも表示されず、完全に灰になっている。
「敵……なのか」
敵なのかわからない、でもこの見た目の騎士と白い騎士は戦っていた。
こいつらは白の敵なんだろうか、少なくとも味方には感じない。
ステータスには下級騎士(黒)と記載されていた。
ということは上級もいるんだろう、それがどれほど強いのかは分からないがこの相手以上ならば危ない。
精神混濁状態だったからこそ、それほど苦戦はなかったが魔力でいうと圧倒的隔たりがある。
「……はぁ」
俺はその灰をそのまま地面に捨てる。
なんて後味の悪い戦いだったのか。
魔物にだって考えも意思もある、それを殺してきたのだから今更とやかくいうつもりはない。
それでも間違いなくこの敵は意思と言うものをもっていたし、言葉だって交わせた。
俺からの言葉が届いていたのかはわからないが、それでも何か反応はみせてくれた。
『条件1,2,3、4の達成を確認、完全攻略報酬を付与します』
その無機質な音声だけは相変わらずに俺に勝利を告げた。
俺は勝ったんだろう、なにかに。
勝利がもたらす高揚感など一切感じずに、戦闘は終了した。
俺は呆然として手から落としそうになっていた剣をもう一度強く握りなおす。
「……ぶれるな、俺は戦うって決めただろ」
ソフィアさんを田中さんの炎で天に送ったあの日俺は決めたのだから。
レイナを抱き締めながら決意したのだから。
滅神教の大本を倒す、そしてそのためには力がいる。
アーノルドにも勝利できるほどの力が。
だから。
「止まらないぞ、おれは」
立ち止まってしまいそうな自分の心に言い聞かせる。
まずは魔力100万を目指す。
想いを貫くためには力がいるから。
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