第93話 A級キューブ攻略ー2


「ガハハ! 儂、大爆笑」


 レイナが爆弾発言をした記者会見の後。

逃げるように龍園寺邸にむかった全員は笑い合う。


 その発言は、日本中を沸かせ、記者達は次々と質問を投げかける。

収集がつかないと判断した悪沢は一旦記者会見を中断し、再度正式に発表すると会見を終了した。


「笑いごとではないですが、いや、驚きましたね。悪沢会長のあの顔だけで私の留飲は落ちました。まさかレイナ君が世界に向けて告白するなんて……」


「なんで笑うの! ねぇ、お爺ちゃん。これで灰は日本に帰ってくる?」

 

「うーむ、まだ難しいの。だが、さっきの会見で間違いなく何かは変わるじゃろうな。詳しい事情を知らないものも、何か事情があったんだということだけはわかったはずじゃから」


「そっか……灰のためになれたならよかった」


 そういってレイナは少し顔を赤らめて嬉しそうにする。

その表情は、完全に恋する乙女は綺麗状態。


 今日この発言で、世間の灰を叩く流れは変化する。

灰を擁護する声は少しばかり大きくなり、批判するものは少しばかり小さくなる。

まだか細い変化だが、いつか激流のなる可能性を秘めて。


「彩……お前やばいんじゃないか? ちゃんとアプローチしとるんか? 取られるぞ」


 景虎が横に放心している彩にひそひそと様子を聞いた。

彩は、やられたという顔で心ここにあらずという状態。


 だが景虎の声で我に返る。


「レ、レイナ! わ、私だって負けないわよ!!」


 立ち上がり、何度聞いたかもわからない宣戦布告。


「はは、灰君も大変だな。彼は今ダンジョンの中かな?」


「A級キューブに挑戦するって言ってました。はぁー心配。おじいちゃん中国いってきていい?」


「構わんが、あんまり付きまとうと嫌われるぞ? それに夜には帰るんじゃなかったのか?」


「うーー……」


 そわそわする彩。

灰にすぐに会ってレイナとの関係、そして自分のことをどう思っているのかを問いただしたい。


 でもそれはそれで重い女と思われるのも嫌である。

めんどくさいと思われたりなんて絶対嫌だと思うのも事実。


「あーーなんかずっと不安!! これがメンヘラなのかしら!!」


 頭を抱えてうーうー唸る。

灰のことが頭から離れない恋する乙女。


 本人に悪気はなくても、無自覚のメンヘラ製造装置になりつつ灰であった。


「私は待つ。いつまでも待つっていったから。灰はきっと帰ってくる」


「なんでちょっと本妻っぽい余裕だしてんのよ!!」


◇一方 灰


『条件3を達成しました』


「ふぅ……やっと100か。疲れた……神経使うよこれ、これは一日一つ攻略が限界だな」


 俺はふとスマホを取り出し時間を見る。

俺のスマホは特注性の滅茶苦茶頑丈な入れ物にいれている。

このスマホには何度助けられたことか、相棒って呼ぶか。


「9時に入って……15時か。6時間……まぁそんなものかな」


 俺はこのダンジョンに6時間ほどいた。


 このダンジョンに入る前にメモしていた条件を俺はスマホで開く。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

残存魔力:83000/100000(+1000/24h)

攻略難易度:A級


◆報酬

初回攻略報酬(済):魔力+50000

・条件1 一度もクリアされていない状態でボスを討伐する。


完全攻略報酬(未):魔力+100000、特殊スキル獲得チケット(A級キューブ初回完全攻略報酬)


・条件1 ソロで攻略する。

・条件2 一度もダメージを受けずにボス部屋までいく

・条件3 レッド種を100体討伐する。

・条件4 条件1~3達成後解放(エクストラボスを討伐する)

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「あとはボス部屋にいくだけだな、完全攻略報酬が転職チケットから変わってるけど……」


 沖縄のA級キューブでは報酬が上級職転職チケットだったはずが、特殊スキル獲得チケットとなっていた。

おそらくだが、俺がすでに上級職転職チケットを使ったからだろうか。


 一体何がもらえるのかはわからないが、何かしらスキルがもらえる気がする。

 

 俺はそのままミラージュを発動し、ボス部屋へと向かった。


 沖縄のA級キューブの時と同じように巨大な両開きの扉。

小さなビルほどはあるのではないかというその巨大な扉を軽く押す。


 ゆっくりと扉が音を立ててひとりでに開き、中心には鬼がいた。


「ルビーオーガ。あの額の宝石がルビーなら滅茶苦茶高そう。そういえば彩は赤が好きだし、残るならプレゼントできるな」


 そのオーガは大きさは俺よりも一回り大きい。

アーノルドぐらいだろうか、人としては異常な大きさだが魔物とすれば普通ぐらい。


 巨大な牙を映えさせて、赤い皮膚はまるで返り血。

額には、紅い宝石が埋め込まれているがあれがおそらくあいつの魔力石。


「ギャァァ!!!」


 俺を見るなり突撃してくるルビーオーガ。

さすがはA級キューブのボス、今までのダンジョンの比ではない。


 俺は迎えるように剣を握ってゆっくり歩いていく。


 目の前に迫るルビーオーガ。

その鋭い爪をまるで槍のように俺の顔面をえぐり取ろうとする。


 だが。


「魔物としては今までで一番強いよ……でも」

 

「ガァッ!?」


「お前の数十倍強い化物が外にはいるんだよ、それこそ鬼みたいなな」


 俺が思い出すのは、あの暴君。

ルビーオーガが可愛く見えるほどの最強。


 その破壊の拳に比べれば毛ほども怖くない拳。

ギリギリまで引き付けて紙一重で交わす。

最小の動き、ならばカウンターの余裕もある。

一撃のもと、俺の白剣がルビーオーガの首を飛ばした。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

名前:ルビーオーガ

魔力:98000

攻撃力:反映率▶50%=49000

防御力:反映率▶50%=49000

素早さ:反映率▶50%=49000

知 力:反映率▶25%=24500

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 文字通り桁が違う強さをもって、オーガの最上位種を切り伏せる。


 剣を振り払い血を払う。

俺は心を落ち着かせて、もう一度剣を握る。


 ここからだ。


 ここからこそが本番で、今までのは所詮準備運動。


『条件1,2,3を達成しました。エクストラボスを召喚します』


 完全攻略の最大の障壁、条件4のエクストラ。


 前回はB級キューブなのにA級の強さが現れた。


 ならば今回はS級並の強さの魔物が現れるとみていいだろう。


 帝種? 龍種? それともさらに?


 俺はいっさい油断しないという表情で何が来ても対応するつもりだった。


 両の目を黄金色に輝かせ、頭上に空いたまるで宇宙のような黒い穴を見る。


 何が来ても驚かないつもりだった。

どんな強敵が来ても驚かないつもりだった。


 でも、あまりにそれは予想外だった。

その穴からゆっくり降りてきたのは。


「……お前は……まさか」


 昇格試験の後、残された白い騎士達の首にかかったタグ。

それを触れた時に脳裏に流れた情景で何度も見た。


「……黒い……騎士」


 白い騎士達の宿敵。

全身を闇のような鎧に包まれた真っ黒な騎士だった。

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