第63話 A級キューブ in 沖縄ー7
◇彩視点
「あぁぁぁぁ!! わたしなにやってるのぉぉぉ!!」
「彩……おかえり?」
私は部屋に帰るや否や、扉を閉めて絶叫した。
すでにレイナも部屋に帰ってきているようだがそんなことはどうでもいい。
扉にもたれ掛かり火が吹きそうなほどに顔を真っ赤にして絶叫する。
さきほどまではテンションがどうにかしていたのに、冷静になると頭がどうにかなってしまいそう。
「彩? なにかあった?」
「ちょ、ちょっとね。なんでもないから!」
レイナが心配してくれるが、私はベッドにもぐりこんで布団をかぶる。
目を閉じればまだ口の中に感覚が残っている。
灰さんの舌が私の中を蹂躙した感覚、そこからだ頭真っ白になり夢中になってなすが儘になってしまったのは。
いや、なすが儘というよりは、私は自分から必死に求めていたような気もする。
「……なんかすごかった……あ、あんなことみんなしてるの? 嘘でしょ……頭がバカになる」
それに。
「最後私なんていった? エッチなことするっていった? バカバカ!! それじゃ変態! もう痴女みたいじゃない!! うわぁぁ!!」
告白できたテンション、キスしたテンション、旅行先という非日常。
言い訳をするなら沖縄の夏が悪いんだ。
それでもあれじゃ、まるで痴女じゃない、なんであんなこと言っちゃったの私!!
「あぁ!! 絶対変態だと思われてる!! キスだって私からせがんだようなものだし!! わぁぁぁ!!」
「彩……声が大きい、多分……外に」
「へぇ!?」
◇灰視点
「き、聞こえてるんだよな……」
放心状態で少し遅れて俺は部屋に戻ってきた。
ドア越しからすごい悲鳴が聞こえてきたらか悪いとは思いながらも俺は扉に耳を当ててしまう。
そして聞こえてくるのは彩の絶叫だった。
「き、聞かなかったことにしておこう」
俺はそのまま部屋に戻った。
「あ、おかえりお兄ちゃ──ふふ、彩さん頑張ったのかな?」
「お前の入れ知恵か」
「さぁーなんのことでしょーー。とりあえず今日はもう寝ましょうねーーお兄ちゃん明日朝早くからなんでしょ?」
「話を逸らしよって……はぁ、もう寝る!」
俺は電気を消して、布団にもぐる。
目を閉じると思い出すのは、甘い味。
初めては甘酸っぱいというのだが、彩の口はみずみずしくて甘かった。
正直、想像するだけで。
(しずまりたまえ、シシガミよぉ!!)
俺のシシガミが反応してしまっている。
もうガチガチだ、俺だって18歳童貞、そういうことに興味がないわけがない。
だからもし携帯の着信音が鳴ってなかったらもしかしたら……。
(付き合ってもないのに、俺はなんてことぉぉ!!)
それでも付き合ってもいない女の子をいい様に蹂躙したという事実は消えない。
少しの罪悪感と、大きな性的興奮と、これからどうしようかという不安を胸に。
(とりあえず、明日はA級だから気持ちをきりかえて……ふぅ……よし!)
「トイレいってくる」
俺は一人トイレにいった。
少し長めのトイレに、興奮を抑えるため。
騎士から賢者へとジョブチェンジを果たす為に。
ちなみにジョブチェンジは二回した。
◇翌朝
「じゃあ、儂らはバカンスしておるから頑張ってこい!」
翌朝俺達はA級キューブへと向かった。
俺と天道さん、そしてレイナと田中さんの四名。
凪、彩、会長は別の車で近くまではくるそうだ。
といってもキューブの中には入らないので、その辺で遊んでいるとのこと。
なんなら水族館にいこうとか会長がはしゃいでいるが、本当にあの人遊びにきただけなんだな。
それに彩がいないのは、少しよかった、昨日の今日でどういう顔で会えばいいか分からない。
「では、龍之介。今は朝の9時、そうだな、4時間ほど。13時には攻略する予定で頼む。13時半を過ぎた場合救援要請をだす。といってもお前達を助けられるような人物この国には弓一君と会長ぐらいだがな」
「了解です、一誠さん。んじゃいくか、レイナ、灰」
「はい!」「わかった」
俺達は田中さん運転のもとA級キューブの前に下ろされる。
そこは何もない広場だった。
沖縄県那覇市、本来であれば都会とはいかなくても十分人が多い場所だ。
しかしあたりには何もない。
その真紅に染まる血の色のような紅い箱を除いては。
一度もダンジョン崩壊は起こしていないと聞いているが、それでもA級キューブが怖いのだろう。
俺だってもし力が無かったらこんな恐ろしい箱の近くに住みたくはない。
仮にダンジョン崩壊したとしたら、鬼王、狼王のような化物魔物が跋扈してあたり一面を血の海に変えてしまう。
それは普通の人なら抗うことなどできない力の蹂躙。
「どうだ、坊主。ステータス見えるのか?」
天道さんが俺にステータスのことを聞いてくる。
というのも実はこの旅行中に天道さんに俺はこの目を話すことにした。
レイナの封印のことも聞きたかったし、なにより信頼したからだ。
田中さんと会長が信頼しているということは、すでに俺にとっても絶対の信頼をするに値する。
だから話したが、天道さんは『そうか』しか言わなかった。
信じてないわけではないだろうが、特に驚かず落ち着いて聞いてくれた。
俺はその真っ赤に光るルビーのような箱を見た。
A級キューブ、赤い箱、まるで血のような真紅の赤。
「……これがA級キューブのステータスか……」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
残存魔力:87000/100000(+1000/24h)
攻略難易度:A級
◆報酬
初回攻略報酬(済):魔力+50000
・条件1 一度もクリアされていない状態でボスを討伐する。
完全攻略報酬(未):魔力+100000、クラスアップチケット(上級)、スキルレベルアップチケット(A級キューブ初回完全攻略報酬)
・条件1 ソロで攻略する。
・条件2 キューブに入ってから24h以内にボスを撃破する。
・条件3 レッド種を100体討伐する。
・条件4 条件1~3達成後解放(エクストラボスを討伐する)
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「案の定エクストラボス……S級相当がでてくると思った方がいいな。挑戦はクラスアップチケット使ってからのほうがよさそうだ……」
条件を見るにA級と特に変わらない。
エクストラボスの強さはわからないが、おそらくS級がでてくるとみていいだろう。
なら俺はせめて初級ではなく、上級の職業になってから挑戦しよう。
「じゃあいってきますわ、一誠さん」
「あぁ、龍之介、レイナ君、そして灰君。油断せずにな、無事を祈っている」
「はい!」
俺達はそのルビーの箱に触れる。
凛とした音と主に、異界の門が開かれる。
吸い込まれるように俺はキューブの中へと消えていく。
そして始まったのは、A級キューブ攻略。
半端な覚悟も、半端な実力も通じない強者のみが生き残る異空間。
人類が攻略したキューブの到達点。
しかし今だ完全には攻略はされていない。
「よし……いくぞ」
…
◇灰がキューブを攻略しているとき、彩達
「彩さん! 彩さん! 昨日どうなったんですか? 遅かったみたいですけど!」
「え? えーっと……えーっと」
ちゅら海水族館で観光を楽しむ彩と凪と会長。
その『ちゅ』という文字をみて彩が真っ赤になったのは言うまでもない。
彩は凪の突然の質問に慌てるように、わかりやすく動揺する。
「ふふ、告白には成功したようですね。さすがです」
「そ、そうね。成功……したのかな?」
今はイルカショーを見ているところ。
横で、景虎がほほぉ! とテンション高く楽しんでいる。
彩は空を見上げて遠くを見た。
昨日自分がしたことが本当に現実だったのか、いまだに良く分からない。
それでも彩は目覚めてしまった。
昨日初めて自分の扉が無理やりこじ開けられたような感覚に、彩は性に目覚めた。
(また……キスしたいな……灰さんと)
意外と自分は性に対して貪欲だったことに気づく。
今すぐ灰に触れたいし、触れられたいし、あの強い腕で押さえつけられて無理やり……。
(彩……キスしようぜ、お前に拒否権なんてねぇから……な、なんて! きゃぁぁーー!!)
絶対灰が言わないようなことを妄想する。
好きでなければ気持ち悪いセリフも、好きならば正直なんでも嬉しい。
そんなピンクな妄想にふける高校卒業したての年頃の恋する乙女になっていた。
つまりバカである。
「彩さん、顔真っ赤……えっち……」
「え!? う、うそ!?」
「嘘です。ふふ、図星ですね? エッチな妄想してたんですね? ほら、どうなんですか!」
「も、もう! 凪ちゃんの意地悪!」
(灰さん……今何してるかな……頑張ってるのかな……)
◇一方 灰達
「灰! そっち一体いったぞ!」
「はい!!」
「ギャァァ!!」
俺達はA級キューブの中間あたりまで来ていた。
ここは洞窟タイプのようで、今までよく攻略してきたダンジョンと同じような形態をしていた。
「ふぅ……とりあえず大体倒しましたね。こんな見た目でなんて強さだ」
目の前には真っ赤なゴブリンの死体があった。
いわゆるレッド種と呼ばれる魔物の中の最強種、突然変異ともいわれる種族だ。
俺はそのステータスを見る。
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名前:レッドゴブリン
魔力:40000
攻撃力:反映率▶25%=10000
防御力:反映率▶25%=10000
素早さ:反映率▶25%=10000
知 力:反映率▶25%=10000
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スキルもない、反映率も低い。
だが、魔力は化物だ。
この小さな体に流れる魔力は鬼王や狼王を超える文字通りの化け物。
今の俺達なら難しい敵ではない、しかしこの敵が10体同時に現れた。
正直ソロでは今の俺でも難しいかもしれない。
だがここには、二人の最強がいる。
「坊主も相当やるじゃねーか。弓一よりもつえーんじゃねーか」
「弓一さんってもう一人のS級ですよね、まだお会いしたことないですけど」
「まぁそのうち会える。今海外だけどな……お、団体さんだぞ」
「灰、休んでて。私だけで十分」
岩陰から現れた赤い狼達。
これもレッド種と呼ばれる最強種。
魔力5万を超える化物が三体。
「ガァァ!!!」
「光の盾……」
レイナが手のひらをウルフ達に向ける。
まるでバリアを張るように。
「ガァァ!?」
レイナに向かって音速並の速さで突撃するレッドウルフ達。
しかし、突如レイナの前に現れた銀色の壁に阻まれ強く頭を打った。
混乱するウルフ達。
そして、レイナは手のひらを横にして薙ぎ払うように振るった。
「光の剣……」
その盾が無くなり、銀色の線がまるで剣のように空間を断絶する。
ウルフ達は抵抗もできずに切断された。
これがレイナが持つ二つのスキル、光の盾と光の剣。
シンプルゆえに強力。
あの盾は今の俺でも抜くことはできないだろう、そして光の剣は俺の防御力を貫くはずだ。
一切感情が動かない顔をしながら魔物達を一刀両断していく姿は、白銀の氷姫の異名を持つレイナを表す。
その後ろ姿は戦場に立つジャンヌダルクのようだった。
綺麗だなと俺は少し浮ついてしまう、そもそも憧れているのだから仕方ない。
俺はその後ろ姿に見惚れてしまったし、なびく銀色の髪を見て綺麗だなと思った。
「レイナもいつか誰かとキスするのかな……」
あの無表情な少女も誰かを好きになるのだろうか。
クールキャラというか、どちらかというと無表情キャラ?
でも昨日の彩のように真っ赤な顔で恥ずかしがりながらもキスにのめりこむ。
そんな恋を彼女もいつかするのだろうか。
それを想像すると少しだけ変な気分になる。
「おい、何鼻の下伸ばしてるかしらねぇがいくぞ。灰!」
「あ、す、すみません!」
その後も俺達は苦戦というほどではないが、楽勝というほどでもない戦いを行っていく。
時刻はすでに3時間ほどだがついにボスの部屋まで来ることができた。
「地図どおりですね!」
「あぁ、その地図はレイナが書いたんだ」
「え!? レイナ地図かけるんですか?」
「?……通った道をそのまま書くだけ」
「いや、そうだけど……」
「こいつこう見えて天才なんだよ。バレーの時見ただろ、彩の動きを一瞬で真似たの、何やらしてもすぐにできるようになっちまうんだ。俺の剣術、体術も全部一瞬で覚えやがって。嫌になるぜ」
「す、すごいですね……」
「私……すごい。もっと褒めて」
「へぇへぇ。お前はすげぇよ。んじゃサクッとボス殺して帰るか。俺がやるわ。今回は坊主のおかげで大分余力あるからな」
俺達はボスの部屋の扉を開こうとする。
強大な門、赤い宝石が散りばめられた禍々しい文様で大きさは小さなビルほどはあるのではないかと思うほど。
それを天道さんは両手で押し込みギギギっという音と共に扉が開いていく。
中には赤い狼がいた。
狼王よりもさらに大きい狼。
だが、色は真っ赤、で名前はそのままルビーウルフ。
今確認されているウルフ種の中で最強の個体。
その魔力は9万を超え、A級上位の攻略者でも討伐はソロではできない。
アヴァロンの一軍でやっと倒せる、そんな存在だった。
だが、相対するこの傭兵はさらに規格外。
「坊主、見せるっていったよな。本気を」
そういう天道さんは、腰の剣を抜く。
真っ黒な黒刀、形は日本刀と全く同じだがその黒は光を一切反射しない闇というにふさわしい黒だった。
「ガァァ!!」
俺達の入場に気づいたルビーウルフが大きな声で吠える。
そして音すら置き去りにする速さでその巨体で向かってくる、まるで戦闘機のような速さ。
俺は神の目を発動する。
天道さんの全身から真っ黒な魔力が両手に集まり、刀へと伝播していく。
深呼吸する天道さん。
まるで時間が止まったように静かな水面に水滴が垂れるような感覚。
そのタイミングで目を見開いて、黒刀を振り下ろす。
「覇邪一閃……」
その一撃は、まるで世界が割れたような真っ黒な世界を作り出す。
それは斬撃だった、真っ黒な斬撃が剣から伸びてそのまま世界を断ち切った。
斬撃が飛ぶなんて、どこの死神の漫画だよと思ったが、その真っ黒な斬撃はその直線状にあるものに存在を許さない。
つまり、ルビーウルフを一刀のもと両断した。
まるでウォーターカッターのような鋭利に真っすぐ切られた狼はその場で真っ二つに割れてしまう。
「どうだ、本気はすげぇだろ。バレーのときは手を抜いたんだ」
「天道さん、こんなもの彩に向けたんですか。そりゃ怒られますよ」
「だから手加減したって」
「龍が悪い。ちゃんと彩に謝って」
「……お前が言うか……全力でぶっ叩きやがって……ボールが破裂してなかったら人が死んでたぞ」
「はは、じゃあ……とりあえず魔力石を回収しましょうか」
俺達はそのまま魔力石を回収して、光の粒子に包まれるのを待った。
A級ダンジョンは特に難しいことはなく、ソロでもなんとかギリギリいけるかな? ぐらいの感触を得た。
なので上級職にクラスアップできた後なら余裕はあるかもしれない。
その時は多分スキルももらえるはずだ。
一体どんなスキルがもらえるんだろうか。
「といっても問題はエクストラのほうだが……お? きたな」
そう思っていると光の粒子に包まれて俺達は転移する。
暗転した視界が戻ると、真っ赤な壁に囲まれた箱だった。
ゆっくりと倒れて開いた箱。
「おう、無事攻略できたようじゃな。お疲れ!」
そこには会長と凪と田中さんと彩が俺達の帰りを待っていた。
すると彩が俺に向かって駆けてくる、まるで練習終わりの女子マネージャーみたいに。
「灰さん! お疲れ様です。これ濡れたタオルとスポーツドリンクです!」
「おい、坊主だけかよ。俺は?」
「龍さんは……はい、これ龍さんの荷物です。ご自分でどうぞ」
「……扱い違いすぎねぇか?……お前らできてんのかよ……」
「にゃぁ!? そ、そんなことはない……です?」
なんだこの可愛い生き物は……。
俺を見て天道さんの言葉を少し肯定してほしいような声で上目遣いで俺を見る彩。
自分のことを好きだと言ってくれているのを理解すると、すべての行動が可愛く見える。
これの現象に名前が欲しい。
「……ありがとう、彩。助かるよ」
「はい♥」
「彩のやつ……目がハートになってやがる」
「がはは、ひと夏の思い出といったところかのぉ……喜ばしいことじゃ」
こうして俺達の沖縄でのA級キューブ攻略は無事終了した。
だが俺にはこの後クラスアップダンジョン、そしてS級ソロ攻略が残っている。
だがまだ俺は知らなかった。
東京では、とんでもないことが起きていることに。
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