第71話 ライトニングー2

まえがき

前話ライトニングー1 結構大事なので、良ければ見てください。





「やっと現れたか……拳神。それに白銀の氷姫、そして黒龍こと天道龍之介。そうそうたる顔ぶれだな。この国の守護者たちか」


 その岩のような男、滅神教の大司教の一人が景虎たちを見て笑った。


 景虎たちは、沖縄から成田空港につくや全力でここまで走ってきた。

彩と凪はここではなくそのまま空港で待機させている。

彩は無理やりついてこようとしたがそれは会長によって止められた。


 ここから先は戦場だからと。


「すまない、椿君……儂がおれば……」


 景虎会長が倒れそうになっている椿を抱き上げる。


「いえ、さすが会長。幸運の持ち主です。会長だけがここにいたのならあなたの性格上奴らと四対一でも戦っていたでしょう」


 椿は少し安堵して笑う。

どこまでも運のいい人だと、仮に景虎が沖縄にいっていなければここに転がっているのは景虎の死体だったかもしれない。

景虎といえど相手はS級四名、勝ち目はない。


「……すぐに病院へつれていく」


「会長、奴らの狙いは天地灰君です。私には理由は知りませんが……」


「……わかった」


 会長は大きな声で、周辺のまだ動ける攻略者達に指示をだす。


「けが人を急いで救助! その後退避! 急げ!! ここは儂らが受け持つ!」


 その指示のもと、次々とけが人が連れていかれる。

様子を見ていた職員達や、アヴァロンの生き残り達が立ち上がる。


「そんな悠長なことをさせるとでも? ファイアーボール」


 その様子見た、フレイヤと呼ばれた滅神教の大司教の一人が手を上に掲げる。

ローブをとって、顔を見せた。

赤い髪で、目も赤い、まるで火のような中世的な顔をした男。


 そして再度巨大な火の球が生成され、間髪いれずに椿達へと轟音を上げながら落とされる。

その大きさは先ほどの倍以上、ならば破壊力はそれ以上、死体すら残らず一瞬で消し炭になる火力。


「光の盾……」


 しかし、それは通らない。


 レイナの絶対守護の銀色の盾にぶつかって、爆風と熱風が吹き荒れる。

そのおかげで一切のけが人はなし、レイナの光の盾を超えることはその火球には不可能だった。


「……銀野レイナ……面倒な女だな、能力の相性が悪い。ならば数で!!」


 フレイヤが小型のファイヤーボールを大量に顕現させる。


「まぁ待てフレイヤ。あんな有象無象どうでも良い、逃げるというのなら逃がしてやろう、我らは虐殺にきたのではないのでな」


「ローグさん……わかりました。この場はあなたに任せます」


 そういってその岩のような男の指示に従うフレイヤ。

ローグと呼ばれたそのまるで岩のように巨大な体躯の男はローブを脱ぎ捨てる。

金髪に青い目、米国人であり歴戦の猛者、その体はまるで会長のよう。


 年は会長ほどではないにしろ、しっかりと中年の男。

だが体格は腹など一切でずに、いまだ鍛え上げられている軍人のような男だった。


「景虎……久しいな。あの日以来か。あの封印の儀から……もう10年か」


「……ローグ。おぬしももう暴れるような年じゃないじゃろ」


「ははは! お前に年のことは言われたくはないな。だがお前は話が分かる男だ、もう一度言おう。天地灰を渡せ。そうすればここは引いてやる」


「それはできんな」


 景虎はその要求を検討の余地もないと突き返す。


「……お前達は気づいているのか? あれが何なのか」


「灰君のことか? ああ知っているとも」


「ほう……」


「ただ優しく強く、そして心に一本の芯を持っている。さらに言えば儂の孫の思い人。そして儂の後継者じゃ、なんてことはない。この国の国民の一人だ」


「……そうか、あくまで白を切るか」


「逆にわしらこそ聞かせてほしいのう。なぜ灰君を狙う」


「ここで死ぬお前達では、知らなくてもいいことだ」


「よいじゃろ、ちょっとだけ、昔のよしみで。そうすれば灰君の居場所教えてやろう」


「……」


 会長は会話で時間を稼ぐ。

目的は色々あるが、一番はけが人の退避。

ここで争えば、間違いなく助かる命が消えうせる。


 相手はS級、手加減する余裕もない。

だから少しでも会話を伸ばそうとする。


 その景虎の一見余裕のようだが額に汗を書いている様子を見てローグは笑う。


「ははは、時間稼ぎか? 丸くなったな、あの頃のお前に比べて」


「儂も年じゃしな。守るものが多くなった、お前と違って」


「守るものが次々と増えて羨ましいよ。私はいまだにたった一つ、守れなかったものを引きずっているのだから……だが、だからこそこの既存の神の世界を壊さなくてはならない」


 そのローグの目の奥に燻る後悔の炎。

それを景虎は見つめる、決して消えはしない悲しい炎。


「……ローグよ、もうやめんか? これ以上続けてもお前の妻は……もう」


「わかっているよ、オリヴィアが生き返らないことぐらい。だが誰かがやらねばならぬのだ、これ以上悲しきものが生まれぬように。その使命を負ったのが私だったというだけのこと」


「……もう届かんのか、儂らの声は」


「すまんが聞こえんな。オリヴィアの最後の叫び声しか」


 そのセリフに説得は無理だと景虎が目を閉じる。

ローグも、短剣を取り出して逆手に持ち替えまるで軍人のように構える。


「俺が景虎をやる。フレイヤ、ゾイド。お前達は二人で天道をやれ、そいつが一番強い」


「わかりました、ローグさん。ゾイド前は任せた、俺は後ろから援護しよう」


 そういって赤い髪の男、S級の炎の魔法使いフレイヤは天道を見る。

そしてもう一人ローブを取ったのは、西洋の騎士のようで、ゾイドと呼ばれた男。

甲冑を着て、身の丈ほどの大剣を持つ、その男も天道を見て無言で頷いた。


「おい、俺は二人かよ。うちにはレイナもいるんだぞ」


「誇るがいい、お前はS級の中でもひときわ強い。二人でなければ確かに勝てない。そういう意味では銀野レイナも間違いなく強者だが……あれには最もふさわしい相手を用意しているからな」


 その言葉にレイナも戦闘態勢。

右手には光の剣を、左手は光の盾をいつでも発動できるように。


 すると、レイナの前にその最後のローブの滅神教の大司教が近づく。


「……誰」


 レイナはそのローブの敵を見つめた。

その言葉に応えるようにローブを脱いで、優しく透き通る声で答える。


「久しぶり、ずっと会いたかったわ。レイナ」


 その声に、景虎と天道がまさかとそのローブの女を見る。

冷や汗を流し、そんな馬鹿なとその女を見る。


「……やはり生きておったのか」


 その女は、妖艶な美魔女、年は30代中ごろにして衰えぬ美貌を兼ね備える。

レイナと同じ銀色の髪を腰まで伸ばし、にっこり微笑む姿はまるで優しい聖母のようにすら見えた。


「うそ……なんで……なんで……」


 だがその目だけは何も映さない真っ黒な色。


 それを見たレイナがとたんに震えだす。

膝をついて、頭を抱え、涙目で嗚咽を漏らす。


「レイナ……もっと顔を見せて。あぁ! 本当に会えてうれしいわ。レイナ! ずっと会いたかった。あの日からずっと、ずーーっと。……私の……私の可愛い」


 その女の名はソフィア。


「……レイナ!!」


 銀野レイナの実の母だった。

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