第96話 眩しい日常、暗い闇ー2


 数日後 金曜、凪が学校に行く日。


 俺は凪の学校についていった。

国が運営する中学高校大学までエスカレーター式の教育機関。


 正式名称は長すぎで忘れたが、通称覚醒者学校。


 大抵どの国も同じような学校はあるが、日本ではB級以上の覚醒者だけが入れる学校だ。

B級は1000人に一人ほど、それでも人口が億を超えるこの国ならば10万人近くは存在する。

学生となると数万人に落ちるがそれでもマンモス学校といってもいいだろう。


 俺が学生なら学園編が始まってもおかしくはない。


 この学校は学費もただ、食費もただ、ありとあらゆるものがただ。

教育も一流だ、なぜならB級以上の覚醒者とはたった一人で莫大な富を生む。


 攻略者専用病院のようなものだな。


「にしても……でかいし、綺麗だな」


「中学から大学まで全部まとめて入ってるからね。ネズミがいる夢の国より広いらしいよ」


 一応は東京だが、敷地的に広すぎて千葉に作られている。

その点もネズミの国と一緒だな、あれも実は千葉にある。


「田中さんが校長先生に話してくれたみたいだから、えーっと……職員室はこっちだって!」


「何から何まで世話になるな……」


 この学校の卒業生の多くはアヴァロンに所属することが多い。

戦闘訓練の先生だってアヴァロンの攻略者が臨時できたりするそうだ。

だから田中さんの顔はここでも聞く。


 凪を学校に行かせたいと俺が田中さんの前でつぶやいたときから考えてくれてたんだろう。


「おい…あれって……」

「まじかよ、なんでここに?」

「天地灰……日本を捨てたS級かよ」


(捨てたというか追放されたんだけどなーー……)


 ひそひそと俺を見て生徒達が噂する。

闘神ギルドに所属したということは、傍からみれば日本を捨てて海外の有力ギルドに言った男に見えるだろう。

いや、日本の資格はく奪されたしそうするしかなかったところもあるのだが。


 俺達はそういった声を無視しながら職員室に向かう。

すると、職員室の前に一人の女性が立っていた。


「灰くーん!!」


「みどりさん!! なんでこんなとこに!!」


 その人は天道みどりさん。

田中さんの婚約者のB級治癒魔術師が待っていた。


「一誠から、灰君の妹さんが入学するって聞いてね! はじめまして、凪ちゃん。天道みどり、田中一誠の妻予定です」


 にっこり笑うみどりさんは相変わらず優しいけど気の強そうなキャリアウーマンと言う感じだった。


「この学校の先生をしてるの。あれからダンジョン攻略は引退したわ。あ、灰君のせいじゃないからね? 私もそろそろやんちゃする年じゃないから……なんで治癒はしわには効かないんだろう……」


 そういうみどりさんは少し遠い目をしている。

年齢のことは効かないでおこう。


「ということで、凪ちゃんに私が治癒を使った医療技術を叩き込んであげる! 任せて!」


「よかったな、凪! みどりさんは厳しいけど、優しいぞ!」


「お兄ちゃん日本語がおかしい気がする。でもよろしくお願いします! みどり先生!!」


「はい、任されました!」


 にっこり笑って凪の頭をポンポンと叩くみどりさん。

看護師資格も持っているそうで、やはり治癒は医療技術を学ぶのがオーソドックスなのだろうか。


「そうだ! 今から授業だから見学していく? 入学は来週からだけど」


「いいんですか? お邪魔じゃ……」


「いいのよ! 別に! 今日は実習だから!」


「じゃあ、凪どうする?」

「いってみようかな……お兄ちゃんも時間大丈夫?」

「凪のためならいくらでも」

「ふふ、じゃあ……いきます!」


 そういって無理やり俺と凪はみどりさんに連れていかれ車に乗せられる。

今日は野外での実習だというのだが、一体。



「実習って……本物のキューブかよ。しかも俺が完全攻略したことあるキューブ」


 車で数十分。

そこには40人ぐらいの生徒達と引率の先生らしき攻略者がいた。

目の前には緑色のキューブ、つまりB級ダンジョンだった。


 そしてそこはかつて俺が完全攻略したキューブでもある。


 確か……宮殿タイプだったかな、人口の建物って感じだったはず。


「それにしてもやけに多いな……」


「実はね、普通は20名の一クラスだけなんだけど、もう一つのクラスの先生が急遽ダンジョン崩壊の対処でこれなくなったから合同で行うことになったの」


「なるほど……しかし合計40名ですか。遠足みたいですね」


「そうね、これだけの上級覚醒者で入るなんて聞いたことないわね。知ってる? 最近の子供達覚醒したときの魔力平均が上がってるらしいの、B級なんて一握りだったのに……」


 みどりさんの話だと、最近キューブに触れてはじめて覚醒するとき明らかに昔より魔力が高い子が多いらしい。


 今日参加する生徒は、実にB級32名、A級は凪含めて8名だそうだ。

先生は10人参加しているそうで、A級二名、B級八名、つまりキューブに参加するのは合計50名。


 生徒4人に対して、先生が一人ついている形。

いわゆるフォーマンセル、そして監督の先生と言う形だな。


 その中には治癒の魔術師は凪とみどりさんを含めると5人ほどおり、けが人の治療を主に行うという。


 ケガすること前提の研修とは中々気合の入った学校だと思ったが、さすがに志望する子だけだそうだ。

保護者が怒らないのかと思ったが、参加すると獲得した魔力石などを山分けするそうで大人気研修らしい。


 それに今までケガ人がでても、ベテランの先生もたくさん同行しているため大怪我した子はいないらしい。


 そういった旨味をしっかり教える当たり、国が攻略者を欲しているのがよくわかる。

今だ日本中のキューブは余裕をもって崩壊を食い止めているには程遠い、いつでもぎりぎりで回しているそうだ。


「よし、じゃあ俺もミラージュで」


「灰君? だめよ? ただでさえ今はあなた立場が弱いんだから」


「ですよねー……」


 俺もミラージュでばれないように参加して影から凪を守ろうと思ったがさすがにダメだった。

ただでさえ、資格を剥奪されて色々バッシングを受けているのにこれ以上問題を起こすわけにはいかない。


 その国の攻略者資格を持っていないものがその国のダンジョンに入るわけにはいかない。


「大丈夫だよ、お兄ちゃん! こんなに強い人がたくさんいるんだもん! だからお兄ちゃんもほら、今日も中国いくんでしょ? そろそろ出勤時間じゃ」


 凪が心配させないように俺の背中を押す。


「いや、今日ぐらいは休もうと……」


「もう! お兄ちゃんも妹離れしないとだめでしょ! ほらいったいった!! ハオさん待ってるんでしょ」


「おぉ凪よ。これが思春期か。もうお兄ちゃんとお風呂に入ってくれないのか」


「もうすでに入ってないから! 変なこと言わない! お兄ちゃんにも仕事があるんだから。ちゃんと帰ってきたら報告するからね」


「わかった、わかったから押すな押すな」


 俺は凪に押されて、仕方なく本来の通り中国でA級キューブを攻略することにする。


 B級ダンジョンで、この人数だ。

危険はないとは言わないが、問題ないだろう。

というか過剰すぎる、国でも落としに行くのか? という戦力だ。


 だが生徒達はみんな中学生。

A級もちらほらいるが、それでも戦闘経験は薄いからこれぐらいがちょうどいいのかもしれない。


「予定攻略時間は2時間、今日はボス戦までやっちゃうから」


 このメンバーでボス戦までいくそうだ。

50人に囲まれたボスが可哀そうに思えるが仕方ない。


 いまだかつてこれほどの大軍で攻略されたダンジョンがあるのだろうか。


「凪、じゃあ俺はいくけど……」


「う、うん……でもちょっと緊張するね。でも頑張る!!」


 凪は初めてのダンジョン。

俺は昔を思い出す、初めてのダンジョンはE級だったがとても緊張した。

ダンジョンの中は空気が違う、イメージでいえば某テーマパークのアトラクションの中のような、冷たい空気。


 あの時の俺は魔力5、ゴブリンですら殺される存在。

だからとても緊張したし、死というものをずっと実感していた。

佐藤にもし見捨てられたらそのまま死ぬしかないという別の緊張感もあったのだが。


「はーい! みんな注目! じゃあ今から現地実習を始めます!! 勝手な行動は絶対に慎むように!! まじで危険だから!!」


 みどりさんの号令のもと、生徒達が次々とキューブに入っていく。

俺の手を握っていた凪も、意を決していキューブへと向かった。


「俺も妹離れしないとだめだなー……」


 その背中を見つめながら俺は凪に手を振って、ライトニングを発動する。



「おはようございます、ハオさん」


 そして俺は中国の闘神ギルド本部のハオさんの影へと転移した。


「おぉ!? 何度やっても慣れませんね。はい、おはようございます、灰さん」


「じゃあ今日もA級キューブいってきます! 今日はちょっと急ぎます! 予定があるんで!」


◇一方 凪


「ここがキューブ……暗い……ちょっと怖いかも」


 凪が中に入ると、薄暗い洞窟のような空間が広がる。


「じゃあ、みんな訓練どおりに!! まずは点呼!」


 初めてのダンジョンで怖気づく者、何度もこなし勇猛果敢に立ち向かう者、慣れからかあくびすらする者。

多種多様な反応を見せる50名の参加者。


 それでもここはダンジョン。


 油断したものは、子供だろうと食らっていく。


 そしていつも、隠された要素というのは。


『参加人数上限の49名を超えました……総魔力量計算中……総魔力量50万、違反レベル2。ステージ2まで用意……B級ダンジョンからEXダンジョン『久遠の神殿』へ転移します』


 油断したとき、ふいに突然現れる。

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