第117話 最優の騎士ー4

「準備は良いですか、天道さん」


 見晴らしのよい、10階建てほどのマンションの屋上。

そこにS級覚醒者、弓一が立つ。


「あぁ、いつでもいいぜ。ぶっぱなせ、弓一! お前ら、開戦だぁ!! 気合入れろ!! つってもしばらくやることねぇけどな!!」


 その天道の掛け声とともに戦いは始まる。

しかし龍達はまだ距離にして数キロ先、海岸線にはまだつかない。


「なぁ、何が起きるんだ?」

「お前、知らねぇのか? 国弓が来てんだよ」

「国弓? 弓でも飛ばすのか? 龍に?」

「そう、弓だ。俺は一回みたことあるけど……あれはチートだぜ」


 ベテラン達は知っている。

国弓と呼ばれた弓一弓一の能力を。


「では、すみませんが手を」


 ビルの屋上、弓一がB級覚醒者の手を触れる。


「生成……」


 その一言のあと、数秒後、B級覚醒者が息を切らせて座り込んだ。

直後、現れたのは真っ白な光の矢。


「少し休んでいてください。では、借ります。あなたの魔力」


 そして弓一は、その矢をもってまるで弓を打つようなポーズを取る。

それと同時に現れるのは巨大な光の弓、しっかり弾いて標準を合わせる。

これが弓一の力、自身もしくは他人の魔力を矢に変えて放つことができる遠距離攻撃のスペシャリスト。


 振り絞られた弓、離す手、放たれる矢。

真っすぐと光の弓矢が飛んでいく。


 数キロ先の小型の龍の首に向かって真っすぐと。


 そして。


「ギャァァ!!!」


 その龍の首が飛ぶ。

次々と放たれる弓、小型の弱い龍の命を刈り取っていく。

それでもA級からS級下位の力を持つであろうはずの災害級の龍は、不可避の弓に屈していく。


「いけるな、よし! 次はあのデカいのを!!」


 弓一の弓が魔力で光り、小型龍が取り巻く巨大な龍へと向けられる。


 直撃、しかし。


「……かすり傷……ちっ! S級上位は無理か……ん? あれは……」


 その龍はS級上位の魔力を持つ上位龍だった。

弓一の魔力では、傷をつける程度しか効果がない。

あんなものが上陸したら、天道は別としてA級覚醒者では一たまりもない。


 だから。


「はぁ!!」


 超越した少女がその銀色の刃でその龍を打ち倒す。


「レイナさん!? その姿は一体……」


 銀色の剣と盾を持ち、体を光の鎧が包む。

背中にはまるで羽のような光の翼が生えて空を縦横無尽に駆け回る。


 その姿はまるで、天使のように美しい。


 レイナが強い龍を殺す、弓一が小型の龍を殺す。


 それでも龍の数は数えきれないほどの数。

遂には上陸を許してしまうが、それでもそこには天道とA級覚醒者がいる。


「死ぬなよ、お前ら!!! 覇邪一閃!!」


 上位龍の命を刈り取る真っ黒な刃、最強の一撃。

次々と上陸した龍を屠っていく天道達、ここに戦いは始まる。


 日本の行く末を決める人間と龍の戦いが。


◇同時刻 龍の島


 島のすべての龍が日本へ向かった。

キューブの中から溢れ続けていた龍も止まり、島にはたった一つ真っ黒なキューブだけが残る。


 このキューブは、数年前からダンジョン崩壊を起こし間引くこともできず放置されていた。

崩壊していた期間はおそらく過去一番、誰も止めることができなかったS級の箱。


 人為的に崩壊を加速されて、中の魔物は溢れ出る。

ダンジョン崩壊とは、キューブの中から魔物が現れること。

原因は分かっていないが、灰によって魔力が溢れ出ることが要因の一つだと理解されている。


 キューブ、またの名を封印の箱。

ダンジョン崩壊とは、悠久の時、魔物達を封印した箱の封印が解け始める現象を差していた。

魔力が溢れ、封印が緩み、中の魔物達が溢れ出る。


 だからこそ、魔物を間引くことで封印を伸ばすことができるようになっていた。


ピキピキッ


 だが、もはやこの箱は役目を全うすることができそうもない。


 崩壊した真っ黒なキューブにひびが入る。

まるで卵から孵化するように、封印された何かが解放されるように。

 

 久遠の時、その役目を終えて砕け散る。

砕けたキューブ、その中心に二本の足で真っすぐ立つ。


 中から現れたのは、龍と呼ぶにはまるで人のよう。


 そしてまるで。


『……殺す、白の一族』


 神のようだった。




◇一方 灰


「……良い匂い、それにすべすべだぁ……」


 なんて幸せな気分なんだろうか。

この枕すべすべしてて気持ちいい、ずっと眠っていたい。

体の傷もいつの間にか塞がっているようだ、あったかい光が俺を包む。


 あぁ……俺なにしてたんだっけ、ここは天国か? あれ? 俺死んだ?


『ふふ、違いますよ。灰さん』


「はぁ?」

 

 俺はゆっくりと目を開く。

目の前には、真っ白ですべすべなふともも、俺はどうやら膝枕をされているらしい。

回らない思考をフル回転、何が起きているかを理解しようとする。


「って、え? あなた誰ですか!?」


 一つだけ理解したのは、今はこの太ももを堪能している場合ではないということ。


 すぐに体を起こし、驚きながらその人の顔を見る。


 まるで雪のような白い肌、整った顔に真っ白な髪。

全体的に白いな。雪女? 

いや違う、だって羽が生えているもの。


 その綺麗で幻想的な女性はまるで天使のような羽が生えている。

俺は思わずその羽に触れてしまった、羽毛のように柔らかそう。


『あん♥』


「へぇ!?」


 触れた瞬間その美人さんが顔を赤らめてエッチな声が漏れる。

俺はすぐに手を引っ込めた。

なんだ? 一体何が起こった!?


『初対面でエッチすぎます、天地灰さん! そこは……性感帯なんですよ』


「う、嘘でしょ? すみません、まさかそんな!! え? 嘘でしょ? 翼ですよね?」


『ふふ、嘘です。久しぶりの会話でちょっと舞い上がっちゃいました』


「嘘かよ!! って色々混乱しているんですが……失礼ですがあなた誰なんですか?」 


 俺が驚きながら立ち上がると、その女性もゆっくりと立ち上がる。

背は俺よりは低いが、羽を広げれば2メートルぐらいはありそうな大きく真っ白な翼。


『初めまして、天地灰さん』


 その女性は俺を見る。

真っ白な肌に、真っ白な髪、整った顔、そして。


『私はアテナ、かつてのその眼の所有者で──』


 その眼は黄金色に輝いている。


『──白の一族の長、神と呼ばれた存在です』

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