第81話 S級認定と追放ー2

◇時は少し戻り日本ダンジョン協会東京支部 臨時施設


 修繕中のダンジョン協会東京支部の代わりに、付近の無事だったビルを借りた臨時施設。


 その大会議室で、決議が取られていた。


「今回の騒動、どう責任を取られるおつもりですか? 景虎会長」


「待ってください! なぜ会長が責任を取らなくてはならないのですか!!」


 副会長の悪沢が景虎会長に責任を追及する。

それを椿が反論した。

ケガも完治していないが治癒魔法によって最低限の治療を終えている。


「当たり前でしょう。何人死んだと思ってるんですか、こういう時トップの首を切るのが我々の国の常識でしょう? 責任者は責任を取るためにいるのですよ?」


「くっ! ならその場から逃げたあなたはどうなんですか!!」


 その悪沢の発言は、日本の伝統ともいえる流れ。

何か不祥事があればトップが辞職するというのが、当然という日本の風習。


「まさかC級の私に戦えと? そういっているのですか? それは責任転嫁では?」


「なにを!!」


「椿や。もうよい……わかった。では儂が会長職を辞職する」


「会長!! いけません! この国にはまだあなたが必要です!」


「別にこの国から消えるわけではない。協会職員としては在籍しておくから何かあったら相談に乗るし、助けもする。仕事は優秀なお前達がおるから問題ないじゃろ?」


「し、しかし……」


「よい。儂を信じろ」


「では、決議を取りましょう。会長の辞職に賛成の方は挙手を」


「な!?」


 その場にいる役員たちの過半数が手を挙げる。

そのどれもが副会長派の者達だった、副会長は少しずつ手を回しておりこの機をうかがっていた。


「お、お前達! 会長に恩があるのを忘れたのか!!」


 椿が怒りを込めて叫ぶ。


「違うんですよ、椿さん。これを見たらあなたも意見が変わるかもしれません」


 すると悪沢が画面に資料を映し出す。

そこには天地灰のあらゆる情報が乗っていた。


「黄金のキューブ生還者、天地灰。あれから私は独自に調べましてね、彼のことを念入りに。するとどうですか、出るわ出るわ、黒いものが。元E級なのにS級になった理由はわかりませんが……これをごらんください」


 そこには映像が流れる。

キューブの安全のために設置された監視カメラ。

だが、これは悪沢が独自に設置したカメラで景虎すら存在を知らない。


「このキューブは、アヴァロンが受注し攻略するはずです。ですが一向に攻略される気配がない。しかし……」


 直後そのキューブが開き、休眠状態になる。

しかし映像には攻略者が誰も映らない。


 それを見て景虎も目を閉じる。

協会の映像はすべて削除していたが、悪沢が自身で設置したものであることを理解する。


「このキューブ攻略者は申請では天地灰と他アヴァロンメンバー。他にもこういったキューブは存在しています。そこから彼の交友関係を調べていくと、田中一誠。アヴァロンの副代表と親しいではないですか。結局証拠もないので、推論ですがね? おそらくアヴァロンに依頼したキューブ攻略をこの少年が一人で攻略したのではないですか? あの黄金のキューブの中で田中一誠と天地灰が知り合ったことは想像に容易いですしね。見えないのは何か特別な力ですかな」


 悪沢の読みは正しかった。

少しずつ証拠を集め、アヴァロンが受注したキューブにカメラを設置して異常を見つける。

そういった裏工作には長けた男、景虎と田中の隠蔽は完璧で証拠はないが、状況証拠をかき集める。


「それで、彼をどうする気じゃ」


「私としては法にのっとり訴えてもいいのですが。日本の攻略者資格の剥奪で我慢します。穏便にいきたいのでね」


「なぁ!? S級の資格を剥奪するというのか!! 悪沢さん! それはどういうことかわかっているのですか!? 日本の数少ない戦力を!!」


「扱えない力など不要です。彼には人間性に問題があるのでは? 協会のルールを破り、アーノルド殿にも暴行を加えた。それを戦力として数えろと? 米国との関係を悪化させてまでですか? 私はそうは思いませんな」


「し、しかし! それではS級の彼を野放しにすると? それこそ危険ではないですか!!」


「資格を剥奪されたのに、それでもその力を自己のために振るうというのなら、私は躊躇なく米国に彼の討伐依頼をだします。それこそアーノルド殿がでてくるかもしれませんね。所詮はたった一人のS級、犯罪者となるのなら仕方ありません。強者だからとルールを変えてしまってはルールの意味がないでしょう」


「そ、それは……」


 悪沢の言い分にも一理あり、椿は思わず止まってしまう。


 これが悪沢の計画。


(私がこの国の会長となるために……)


 日本のS級、天道龍之介、銀野レイナ、龍園寺彩、そして本人の景虎。

実に5人中4人が景虎の一派であり、S級が結託して歯向かってきたら国民の意思も動きかねない。


 そのため、灰も資格をはく奪し景虎の力を削ごうとする悪沢の戦略。

そして穏便と言いながらも何かしたら法を使うぞという脅し。


(……本当は別の指示があったが。それはそれで利用させてもらう)


 悪沢は心の中でつぶやく。


「そんなことせんでも、反旗など翻さんというのに。だが彼を失うということがどれほどこの国の痛手かわかっておるのか?」


「民意に聞いてみますか? おそらく大多数が賛成するかと思いますが?」


「灰君とアーノルドの戦いが悪意ある加工を施されネットでは流れておる、誰の仕業かはわからんがな。だが彼の人間性を知らず行ったことだけで語るならば確かにそうじゃ。灰君はルールを破った。しかし彼にも事情がある」


「人間性とは、どう思うかではなく、どんなことをしてきたかです」


「そこを分けて考えるのがお前の悪い癖じゃ、どう思って行動したか、結果しか追い求めんと本質は見えてこん。灰君は正義も悪も自分の中に確かに持っておる強い子じゃよ」


 その言葉に悪沢は目を閉じ、反論しない。

そして決議が行われた。

過半数以上の賛成により、天地灰の攻略者資格は剥奪が決定する。

結果は分かり切っていた、もはや日本ダンジョン協会は悪沢のものとなる。


「では、以上です。今までお疲れさまでした、景虎会長」


「せいぜいのんびり余生を過ごすことにするわい。だが悪沢よ、本当に危なくなったとき。その時はプライドを捨てこの国を守る代表として助けを求めて来い。お前の上にもそういっておけ」


「!?……ふふ、言われずともわかっていますとも」


 そして会議は終了した。


(まぁよい。これで儂もあの件に対して自由に調べられる……しばらくは悪沢に矢面に立ってもらおうかのう)


 会長だけは、何か別の考えをもって。


 直後、しばらくして始まったのが記者会見。


◇灰視点


「攻略者資格を剥奪することにいたします。理由としては今回のアーノルド・アルテウス殿に対する不当な暴行が原因です。これは米国も了解した処遇ですが、剥奪に留め法的な処罰は与えないと決定しております」


「そっか、剥奪されたか。さすがにお咎めなしとはいかないな。でもそれぐらいですんでよかった。傍から見ればただの暴行罪だし」

「お兄ちゃん……」

「大丈夫、剥奪されたぐらいじゃ問題ないよ。安心しろ」


 だが俺は今後どうするべきかを考えていた。

ダンジョンに無断で入ることはできる、ライトニングとミラージュがあればバレることもないだろう。

それでも剥奪されたのなら、今後どう動くべきか。


 そこから淡々と灰が資格を剥奪された理由を説明する悪沢。


「そして最後に、龍園寺景虎会長は今回の騒動の責任と、また高齢による体調不良を訴え本日をもって会長職を辞することが決定しました」


「はぁ!? なんだよ、それ……」

「お兄ちゃん……景虎会長辞めちゃうの?」

「体調不良のわけないし、責任……なんで会長が……俺のせいかな……」


 その後質疑応答の時間が始まるが、俺はテレビを閉じる。

ネットニュースでは、ルール破りのS級、即追放との記事がすでに上がっている。

相変わらずこういうニュースは速いな。


 俺はどうするべきかと田中さんに連絡しようとしたが、そういえばスマホは修理中だった。

ライトニングで田中さんの家まで行こうか、それとも田中さんも今知ったのだろう。


 少なくともさっきまでは知らなかったはず。


 俺が思案してどうしようかと考えている時だった。


ピーンポーン


 俺の家のインターホンが鳴る。


「宅配? 凪なんか頼んだ?」


「ううん、なにも」


「誰だろう……ちょっと出てくる」


 俺はそのままインターホンに出る。


「はーい、どちら様ですか?」


「あ! いきなり夜分遅く大変申し訳ございません、初めまして。天地灰様。私、ハオ・ユーと申します」


「ハオさん。(知らない名前だ……黒スーツもしかしてダンジョン協会?) ……どうしました? もしかして資格剥奪の件ですか??」


 俺はそのインターホン越しに見えるハオさんを見る。

アジア人の顔で、中国人だろうか? 雰囲気はそっち系に見えるがビシッとビジネススーツを着ている。


 とても親しみやすい笑顔で、俺は少し心を開いてしまった。

これがプロの営業マンだとしたらさすがだ、俺はもはや玄関に上げてもいいとすら思っている。


「あ! いまテレビご覧になったようですね。ご安心ください、私は剥奪しに来たわけではございません。むしろ灰様にとって魅力的なご提案に参った次第です。あ、申し遅れました、私……」


 そういってハオさんはポケットから名刺をだし、それを画面に映した。


 そこには、剣と槍が交差するロゴマーク。

それは最強の証。


 中国最強。

世界1,2を争うギルドの名前。


「私、中国の闘神ギルドから参りました。スカウトのハオと申します!!」



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