第41話 お嬢様とおデートですー4

「きゃぁぁあ!!!」


 ショッピングモールで突如起こった流血事件。

それを見た周りの一般人達が叫びをあげて逃げ回る。


「あ、あぁぁ! た、たすけてくれぇ」


 チャラ男達が尻餅をつく。

突如現れた三人の外人、見た目は一般人と変わらない。

しかしその目の奥には隠せぬ狂気が浮かんでいる。


 まるで何事もないかのように、慌てふためくチャラ男に剣を振りかぶる。

殺すことに何も感情が動かないその剣は、真っすぐと振り下ろされる。


 だが、そんなことはさせない。

俺がそれを受け止め、叫んだ。


「にげろぉぉ!!」


「あ、あぁぁ!!」


 男達は逃げだした。

周りにいた一般人達も逃げ惑い、人が溢れていたショッピングモールの広場は一瞬で人がいなくなる。


 だが遠目ではなにがあるのかと、スマホを掲げるものもいる。

人の死体を、興味本位で動画にのせ、SNSに上げる日本人。


『さきほどといい……今のを止めるか……アンランクとはやはりうそなのだな』


 外国人だろうか、俺には理解できない言語で話す男。


「お前ら。なにものなんだ。外人……言葉が通じないな。なんで関係ない人を殺した!」


『我らは……滅神教。殺すことに意味があり、それこそが我々の抵抗だ。だが今日の本命はお前を殺しに来た。その後ろにいる女もな』


「灰さん! 彼らは滅神教のようです!」


 後ろの彩が翻訳してくれたようだった。

さすがお嬢様英語なのか分からないがペラペラなのだろう。


「そうか……なら!」


 俺はその剣を力強くはじき返す。


「ぬぅ!?」


「お前達を捕まえて聞きたいことが山ほどあるんだ」


 俺は剣を向けて前を向く。


「灰さん! 私も戦います! 私なら!」


「いや、彩。大丈夫……この剣があるし、君は戦士じゃない」


「で、でも……」


「それに……」


 黄金色に輝いているはずの俺の目。

その三人の男達のステータスを見つめた。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

名前:ラン・アグリッド

状態:狂信

職業:剣士【初級】

スキル:挑発

魔 力:8500

攻撃力:反映率▶50%=4250

防御力:反映率▶50%=4250

素早さ:反映率▶25%=2125

知 力:反映率▶25%=2125


装備

・黒象牙長剣=攻撃力+1000

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


(……B級上位か、しかも全員……B級って結構珍しいんだがな……)


 三人のステータスを見た灰は全員がB級であることを理解する。

そして剣士、魔法使い、アサシン。


 奇しくもその構図はかつてのクラスアップダンジョンと類似していた。


 違うのは、今の俺のほうが圧倒的に。


「俺一人で十分だ。……ミラージュ」


 強いということ。


『消えた!? お前ら背中を合わせ──ガハッ!』


 直後目の前に現れた俺の握られた拳によって、肺の空気をすべて吐き出しリーダーらしき男は倒れる。


『アグリッドさん! く、くそ! 幻惑を──!?』


「守ってくれる剣士がいないけりゃ、ウィッチが魔法を使えるわけないだろう」


 もう一人の顎を砕く勢いで右ストレート、幻惑という魔法を使おうとしているようだ。

ステータスをみるにチャラ男達を操っていたのはこいつかもしれない。


 彼らは操られて一瞬俺達の意識を割くための駒にされたのだろう。

そのまま俺に殴られたウィッチは脳がシェイクされてぐしゃっという音と主に一撃で地面に突っ伏した。


『し、しねぇぇ!!』


「神の目で看破するまでもない。無音ってこれだけ明るいとあんまり意味なさそうだな……」

  

『な、なんで! お前一体何者……』


 背後から剣を俺の背中に向けて突き刺そうとしたアサシン。

しかし、その手を俺にほとんど見ずに捕まれ、逃れられない。


「ふん!」


 俺はそのまま死なない程度の力で地面にその男を叩き伏せる。


『ガハッ!』


 混凝土の地面にひびが入るほどにたたきつけられたアサシンはそのまま気絶した。

戦闘時間ほんの5秒ほど、この世界の上位に当たるB級三名、それを俺は一瞬で無力化した。



「彩、景虎さんに連絡を。滅神教が現れたと」


「……すごい」


 彩は見惚れていた。

別に戦闘マニアというわけではないが、その一瞬の攻防はとても美しかった。

強い、それだけでただかっこいいと思った。


 自分の感情にまだ名前を付けることはできないが、それでもあの日から灰のことを目で追ってしまう自分には気づいている。


 だが恋愛なんて、と18年間の苦悩が変に彼女の性格をねじ曲げており、素直にこの感情が何かは理解できていない。

そもそも容姿がいいというだけで近づいてくる男にはへきへきしていたのも確かだからだ。


「彩? 大丈夫? ケガしてないか?」


「へぇ!? あ、だ、大丈夫です。すぐに連絡します」



 すぐに彩が電話し、現れた黒づくめの男達。

その先頭にシュートの黒い髪の女性が、スーツをビシッと決めて歩いてくる。


 見たらわかる、とても強く、そして彼らのリーダなのだろう。

その射殺すようなきつい眼は、合わせるだけで逸らしてしまうほど。


 だが圧倒的に美人だった。


「ダンジョン協会 覚醒犯罪対策課……」


 それはこの国のダンジョン協会から派遣されてきた上位の覚醒者に対する警察のような人たちだ。

B級以上に該当する覚醒した犯罪者に対抗するために作られた組織。

この国の警察では、C級以下の対応しかできない。

だからダンジョン協会 覚醒犯罪対策課がB級以上の対応と分けられている。


 その先頭で部下達にはきはきと指示を出すその女性がこちらに歩いてくる。


「彩さんお怪我はありませんか? ……すぐにその死体の処理を。けが人は……他にはいないようですね」


「大丈夫です。椿さん。それより……」


 彩が目配せするのは俺と倒れている三人の滅神教の男。


「……初めまして、ダンジョン協会 覚醒犯罪対策課 椿 小百合です。……あなたがこの三名を?」 


「はい、そうです」


「失礼ですが……お名前は? 滅神教のB級と聞いていますが、そのレベルの覚醒者三名を倒せるような強者。私の記憶にある限りでは一握りです。そして私はあなたを始めてみます。もしかして海外の方でしょうか」


「……いえ、俺は天地灰、日本人です。そのえーっと」


 俺が返答に困っていると彩が間に入ってくれる。


「椿さん、詳細は祖父にお聞きください。私達はただ襲われただけですので」


 怪訝な顔をする椿さん。

だが諦めたように小さなため息を吐き頷いた。


「……了解しました。では身柄をお引き受けいたします。私はA級ですのでご安心を」


「そのようですね」


 俺はその椿さんのステータスを見ていた。

はっきり言うとA級上位、田中さんよりもこの人強い。


 そして今の俺よりも魔力量でいえば上だ。

S級に肉薄しているA級上位の存在、とてもバランスのいいステータスをしていた。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

名前:椿小百合

状態:良好

職業:パラディン【上級】

スキル:挑発、守護結界

魔 力:74000

攻撃力:反映率▶50%=37000

防御力:反映率▶50%=37000

素早さ:反映率▶50%=37000

知 力:反映率▶25%=13500


装備

・なし

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「……」


 ステータスを見つめる俺を椿さんが見つめ返す。

少しの静寂が起こるが、椿さんはふぅと声を漏らして三人の男達を護送車に運んだ。


「本来であればお話をお伺いしたいのでご同行願うのですが……今日は失礼いたします。またお会いしましょう、天地さん。あなたとは付き合いが長くなりそうです」


「はい」


 そして俺達と犯罪対策課の人達は別れた。

その後の処理は全部彼らがやってくれるようで、本来であれば事象聴取があるのだろうが俺達はすぐに解放された。

それは彩が会長の孫だということも関係あるのだろうが。


「じゃあ、大変な日になったけど今日はこれで帰ろうか」


「はい、今日はありがとうございました。アーティファクトの製造については数をこなせばレベルが上昇しより精度が上がるようです。より良い魔力石があればいつでもお持ちください」


「え? じゃあまた作ってくれるの!?」


「はい、いつでもお待ちしてます。私自身も強くならなければいけませんのでたくさん試したいと思ってます。それに……」


 彩は少し恥ずかしそうに俺の指を見つめる。


「灰さんのなら……いつでも……」


 俺は少し頭をかしげながらも了解する。

そしてその日は家まで送ってから解散しようとした。

相変わらずの豪邸に彩を送りとどけ、夕方のいい時間なので飯でも食って帰ろうかと考えているときだった。


 門をでて少しだけ歩いていると、黒塗りの高級車が俺の横に止まる。

少し身構える俺そして窓が開き、中から顔を出すのは。


「灰君、よかった。ちょうどいい」


「あ、景虎さん。ご無沙汰してます」


「とんぼ返りで悪いが話したいことがある、中で話そう。それと今日は泊っていきなさい」


 俺はキン肉マンに捕まった。


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