第103話 AMS治療方法発表ー3

「いよいよだね!」


「あぁ……」


 俺は若干後ろめたい気持ちになる。

正直色々あって彩に頼んだが、これは重荷だったのではないだろうか。


 世界中に注目されて、命の危険だってあるのではないだろうか。


 面倒なことを押し付けてしまっただけなんじゃないだろうか。


「……」


 俺はただ無言でその会見を見つめる。


「まずAMSについてですが、体内の魔力がうまく溜まらないことは周知の事実かと思います。今は専用の機器で他社の魔力を注入することで一時的に進行を遅らせるという治療がメインです。とはいえほとんどが効果が見られません」


 彩は現状の説明をする。

だが、この機器はとても高価で、しかも上位魔力の覚醒者が魔力を供給しなければならない。

だから滅茶苦茶費用が高く、俺のアルバイト代ではとても払えるような金額ではない。


 そのせいで俺は国からの補助が手厚い攻略者になったのだから。


「ですが、今回の治療法は体内に魔力を供給するとともに、自然に魔力が溜まるようにすることができる治療方法になります。それにしようするのが、これです」


 そういって彩が取り出したのは。


「おい、あれって魔力石か!?」

「赤色……A級の魔力石?」

「まさか魔物の力を使うのか」


 記者達は彩が取り出した魔力石にざわつく。

A級の赤色の魔力石はとても高価で、億は下らない。

それを治療に使うのか、まさかという声が上がっている。


「使用するのは、魔力石。ですがA級である必要はありません。詳しくはこちらの資料をご覧ください」


 そういって彩がスライドを大きな画面に映す。

まるでプレゼンみたいだなと思ったが、そこには俺が彩に伝えたAMSの治療方法が細かく、そしてわかりやすく乗っていた。


 その資料に、記者達はおぉーという声を漏らし、頷いていく。


 直観的にとても分かりやすく、魔力石で魔力を供給するというのはすぐに受け入れらえた。


 それからスライドが次々とめくられ、数分ほどの説明が行われた。


「そして今この治療方法で助かった人が続々と増えています。実際に効果が確認され米国の研究機関も副反応はないとの報告を受けています。これにより今日、AMSは不治の病から簡単に治療可能な病気となったのです。以上で説明を終わります」


 そして彩の説明は終わり、記者達が立ち上がって拍手を送る。

世界中が彩に賛美を送り、アッシュ式と名付けられた治療法はこの日症状の重い人から順番に救っていく。

上位魔力石を集めることは難しいが、そもそも上位の魔力を持つ人は少ないため何とかなるだろう。


 そして記者会見は何事もなく終わるかに思えた。


 質疑応答の時間が始まる。

いくつかの質問のあと、一人の男が手を上げた。

眼鏡をかけて、少し意地悪そうな男。


「質問よろしいでしょうか」


「どうぞ」


「龍園寺彩さんは、天地灰と親しい関係があるとのことですが、それは本当でしょうか」


 その質問に会場は少しざわつく。


「そ、それは個人的には祖父経由で知り合いです。彼はS級ですから」


「そうですか、私が調べた限りなんですがAMSからこの治療法が今日発表する前に世界で初めて目覚めた方がいるんですよ、天地凪。天地灰の妹さんなんですけどね」


 その発言に少しざわついていた会場が、テレビ越しでも分かるように騒がしくなった。


「これはどういうことでしょうか。先ほど交友関係があるとのことですが、彼は色々と謎が多い。明かさなければならない部分があるのではないですか? 例えばこの術式の名前の由来とか」


 それは彩のほんの少しの優しさで付けた名前。

表向きは粉末化がまるで灰のようだからという名前で付けたアッシュ式。

しかしその実態は、天地灰の灰という漢字をそのまま英語にしただけ。


 俺達二人の関係を知らなければ考えもつかない連想ゲーム。


 しかし二人の関係を知っていればすぐに感じ取ってしまう名前の繋がり。


「そ、それは……」


「今日の質問は、AMSのことだけにしていただきたいが?」


 その記者の発言に言いよどむ彩に、景虎会長がすぐにフォローを入れる。


 だが、そんなことでは止まらない。


「いえ、関係あるでしょう。連日この国で騒ぎを起こすあのS級との関係はきっちり話していただかなくては、説明責任があるでしょう」


「ないじゃろ、そんなもの」


「彼が普通の人なら私も言いませんがね、しかし彼はこの国にとっては犯罪者であり追放者、加えて闘神ギルドの王偉と義兄弟となった。これは国防の観点からも非常に重要です。我が国とあの国は歴史的にもね。そんな人が日本のトップだった景虎元会長のお孫さんと繋がっていたとなると説明していただけなければ納得いきませんよ、国民の皆さんもそう思っているはずです」


「さ、さきほども言った通り祖父経由で知り合いではありますが親しい間柄というわけでは……」


 その彩の発言を待っていたかのように、記者はにやりと笑って彩の言葉を遮った。


「私これでも色々と調べましてね……龍園寺彩さんと天地灰さんの関係性を。ほら、皆さんこれをご覧ください」


 そしてその記者は用意していた写真を周りに配りだし、その紙をカメラに向けて見せた。


 そこには、かつて俺が初めて彩とショッピングモールに出掛けたときのまるでデートのような写真が取られている。

彩は精一杯のおしゃれをし、俺と一緒に楽しそうに歩いていた。


 なんでそんなものがと思ったが、思い出した。


 あの時滅神教に襲われてギャラリーが俺達の写真をたくさん撮っていた。


 おそらく騒ぎが終わり、二人でかえっているときも取られていたのかもしれない。

それをSNSで上げた人がいたのか、この記者が集めたものなのかはわからないが。


「どうなんでしょうか、これでも親しくないと? 失礼ですが……恋人同士にも見えるようです。この写真を見て親しくないなどと言える人はいないと思いますがねぇ……随分と楽しそうにしていると私は見えましたが」

 

 その記者のセクハラのような発言に、彩は顔を赤くする。

だがその赤い顔はいつもの恥ずかしがっていて可愛い彩の顔ではなく、辱められている顔だった。


 自分の秘めている思いを世界に向けてヘラヘラと話されるのはどれほど辛いことだろう。


「いい加減にせんか!」


 景虎会長が、はっきりと大きな声で怒る。

その迫力はテレビ越しにも伝わって、記者達も拳神と呼ばれたそのプレッシャーに思わず後ろに倒れそうになる。


「で、ですが。はっきりさせるべきでしょう! 私は怯みませんよ、恫喝なんかじゃ!! さぁ! 龍園寺彩さん! 天地灰とどういった関係なのか、なぜ灰という意味のアッシュ式と名付け、その妹を無許可で最初に救ったのか。さぁ! 発表していただきたい!! 実は男女の中ではないのですか?」


 だが、その記者もプライドなのか怯まない。


 さらに大きな声で反撃する。


「あ、い、いえ……私と灰さんは……そんなのじゃ……」


 彩は思わず涙を浮かべそうになっている。

声が震えているのが、俺にはわかった、下をうつむき力がない。


「灰さん? ふむ……下の名前で呼び合う仲なんですね。少しずつボロが出始めたように見えますが」


「……」


 彩は下を向いたまま。

他の記者達も嬉しそうにその話を聞いている。

スクープだ、特ダネだ、視聴者が食いつくゴシップだと。


 俺のせいだ、俺が全部彩にぶん投げて、面倒ごとを押し付けたからだ。

彩はそれでも俺を守ろうと、何も言わずにいてくれている。

そのせいで言い返せずにただ黙ってしまっている。


 あの頃はまだ弱くてこの力を知られてはまずくて、だから俺は彩に重荷を背負わせた。


 ほとんど無理やりに押し付けた。


 全部俺のわがままだ。


 だから、俺は立ち上がる。

もう俺は弱くないから、守ってもらう必要もないから。


 だから。


バチッ!


「さぁ、龍園寺彩さん! 天地灰との関係は一体どう──はぁ?」


 その饒舌に話していた記者は、言葉に詰まり声が裏返る。

それと同時に、他の記者も立ち上がり全員が驚愕の声を上げた。


「「えぇぇぇ!!!!」」


「え? どうしま──」


 彩がその記者達の反応に驚き、後ろを振り返ろうとする。

同時に、肩に乗った安心する大きな手の感覚ですべてを気付く。


 振り返るとそこには。


「彩、ごめんね。俺が押し付けたせいで。こんなことになるとは思ってなかった。ごめん」


 稲妻を纏った少年が立っていた。


 灰は彩の影に瞬間移動した。

世界のカメラが向いているこの場所にライトニングを使って転移する。

記者達はその渦中の重要人物の登場に驚き、シャッターが鳴る。


 彩は驚き、会長は笑う。


「か、灰さん!? なんで!!」

「ガハハ、そうじゃな、お前さんはそういう男じゃな。……もう思う通りやりなさい、灰君」


「はい、話すことにします。会長のおかげで、みんなのおかげで、俺はもう守られるだけの存在じゃなくなりました。だから」


 灰は彩が持っていたマイクを優しく手を握って受け取った。

彩はなすが儘にそれを手渡す。


 そして、その記者達に言い放つ。


「驚かせてすみません、でも皆さん私に対して知りたいことが多そうでしたので。……初めまして、天地灰です。質問には私が直接答えます。では、先ほどの記者の方、今度は私に」


 眼を黄金色に輝かせ、少しばかりの怒りを魔力と雷に纏わせて。


「質問をどうぞ」


 世界に向けて意思を伝える。

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