第2話 女王エンバ
エンバの足跡を追って沼を越えようとした時、リラのネジリウマが立ち止まった。
「あれ、どうしたの?」
リラはネジリウマの首をパンパンと叩くが、前に進もうとしない。様子に気付いたイザックも戻ってきた。
「おい、どうした?」
「分からない。この子急に……」
バシャバシャバシャ……とリラのネジリウマのすぐ後ろで水音。止まった理由が分かったリラは笑い出した。
「ふふふ、なるほどね、仕方ない。でも次から、トイレは走り出す前に済ませておいてね」
イザックがリラのネジリウマの後ろに回り込んで様子をうかがう。やはり「ははは」と笑い出した。
「めっちゃため込んでたみたいだなコイツ。止めどなく出してるよ」
リラが笑っていると、森の奥から枝が折れる音が聴こえてきた。二人ともすぐに言葉を止め、ネジリウマから降りると尻を軽く叩き、少し離れさせた。
「くっそー、マジかよ。結構近いぞ」
「大丈夫。静かに近付くよ」
森をゆっくり進むリラとイザック。なかなかエンバの姿は現れない。
「なあ、おかしくねえか? 全然姿が見えねえぞ」
「しーっ。静かに。エンバは音に敏感なんだから」
「だけどさ、どこにも……」
突然、二人の上から巨大なハサミが振り下ろされた。リラもイザックも驚いて飛び退く。その二人の前に樹の上から飛び降りて来たのは、戦車の様に巨大なエンバ。
「くっそ! まさかコイツ」
「間違いないね! 女王エンバだよ。レアもの!!」
そう言うが早いか、リラはマルチドライバーガンを撃った。先端が女王エンバの耳(マイク)に突き刺さり、「ギイイッ」と悲鳴を上げる。
「逃げるよ!」
リラとイザックは走り出した。女王エンバは正面切って闘って勝てるような相手ではない。不意打ちするために一度隠れなくてはならないのだ。
リラとイザックはさっきの沼に滑り込んだ。エンバのカメラは解像度が低く、もっぱら音とサーモグラフィ機能によって敵の状態を把握している。沼に浸かっていれば、見つかりにくいはずだ。
マイクを攻撃したが、完全に破壊できたかは分からない。念のため息をひそめる。ところが、イザックがリラをつつき、ささやいた。
「なあ……大丈夫か?」
「ん? うん。別に怪我も何もしてないよ」
「いや、そうじゃなくてさ。お前、背中で踏んづけてるんだよ」
「……え?」
「だから、さっきここで、してたじゃん。お前のネジリウマが……」
耳をつんざくような叫び声とともに、リラが飛び上がって体をよじった。
「取って! 取って取って! 取って!!」
「いや、取ってって言われても、もう背中からケツまでべったり……」
「いやあああああああああ!!」
女王エンバが二人を捕捉し、木々をなぎ倒しながら走ってきた。二人とも大急ぎで逃げ出す。
「くっそ! これ結構ヤバくねえか?!」
「イザック、一瞬でいいからあいつを引きつけてて」
「一瞬……あいつの動きを俺に集中させるとしたら多分、三秒が限界だぞ?」
「三秒あれば十分!」
「分かった。……お前、相変わらず切り替え早いな」
「私のいいところ! それじゃいくよ!」
「おう!」
イザックは振り返って構えると腕に着けている小手のスイッチを入れた。ヴンと音をたてて『マグネットシールド』が光る。これはただの盾ではなく、磁力で機械獣の攻撃を引きつけることができる。
だが、相手が女王エンバのような大型の機械獣の場合、さっき言ったように三秒程度が限界だ。
リラは、女王エンバのハサミがイザックのマグネットシールドに向かって振り下ろされるのを横目で見ながら、女王エンバの懐に飛び込んだ。マルチドライバーガンの先端を、足の関節にあるボルトに打ち込み、一瞬で取り外した。メキッと音が鳴り、女王エンバの足の一本が解体。大きくぐらつく。
続いてリラは素早く体によじ登り、女王エンバの頭から伸びるコードにマルチドライバーガンを引っかけ、引き抜いた。
ブツン! という音と共に、女王エンバは目の光を消し、崩れ落ちた。
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