第110話 四人が起こした唯一の奇跡
「あっ!」
転げそうになったナヤをイザックが支えた。
「気を付けろよ。その車のアーマー機関はお前には重すぎるだろ」
「すいません」
汗を拭うナヤの横で、イザックがアーマー機関を「よっ!」っと持ち上げる。大型バスに付いていた、かなりのサイズのものだ。
瓶の中にミズリルグリスをつめるリラの元へ、オスカーがアーマー機関を担いできた。
「あとどれくらい必要だ?」
「もうそろそろ必要最小限は。多いほどいいから、もう少し集めたいな」
「順調ですね」
ナヤとイザックもやってきた。イザックは持ってきた大きなアーマー機関をリラの隣に置くと、「ふーっ」とその場に座り込んだ。
「ちょっと休憩したいんだけど」
「そうしましょう。今日一日ミズリルグリスを集め、作戦の最終確認をしたら、黄金の獅子の元へ向かいますよ」
*
地下世界の砂漠をノイルバギーが進む。だが、そのスピードはゆっくりだ。ベルタザール発掘記に記された黄金の獅子の通り道は、ここからそう遠くない。
ノイルバギーの運転席にはイザック。助手席にはリラ。そして、コンテナではなく屋根の上に、ナヤとオスカーがいた。
ナヤの折りたたみ式楽器、ミニグイッタが、軽やかで力強くも繊細なコードを時には流れるようなリズムで、時には叩きつけるようなリズムできざむ。その上に、四人の声がメロディを乗せていく。
「それぞれの想いを背負い
黄金の獅子を追う、失敗続きの四人のハンター
湖でウリュウに出会い
砂漠ではサテツアラシに
崖と滝ではメガネキョウリン
ネオドバイでモルティスターパイソン
あたふたしながら乗り切って
時に笑い、時に泣き
絆を深めて強くなった
どんな運命が待ち受けているだろう
黄金の獅子に挑む、四人のハンターに」
四人の作詞・作曲による歌だ。今まで失敗を繰り返し、色んな人々に助けてもらいながら、地下世界に来て何とかかんとか切り抜けてきた四人が、唯一起こした奇跡。たった一晩で曲ができた。
すでに四人の視界には世界一巨大な機械獣の王、黄金の獅子の姿がある。この前見た時と同じように、一歩一歩、大地を踏みしめながらゆっくりゆっくり歩んでいる。
奇跡は起こらなくていい。自分達の今の実力はどれくらいのものなのか。それに見合った結果が欲しいのだ。
「予想より少しだけ進路が北側ですね」
黄金の獅子を見てそう言ったナヤ。イザックのいる運転席へ顔を降ろす。
「予定変更です。左折して、近くにノイルバギーをとめてください」
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