第110話 四人が起こした唯一の奇跡




「あっ!」

 転げそうになったナヤをイザックが支えた。

「気を付けろよ。その車のアーマー機関はお前には重すぎるだろ」

「すいません」

 汗を拭うナヤの横で、イザックがアーマー機関を「よっ!」っと持ち上げる。大型バスに付いていた、かなりのサイズのものだ。



 瓶の中にミズリルグリスをつめるリラの元へ、オスカーがアーマー機関を担いできた。

「あとどれくらい必要だ?」

「もうそろそろ必要最小限は。多いほどいいから、もう少し集めたいな」


「順調ですね」

 ナヤとイザックもやってきた。イザックは持ってきた大きなアーマー機関をリラの隣に置くと、「ふーっ」とその場に座り込んだ。

「ちょっと休憩したいんだけど」

「そうしましょう。今日一日ミズリルグリスを集め、作戦の最終確認をしたら、黄金の獅子の元へ向かいますよ」







 地下世界の砂漠をノイルバギーが進む。だが、そのスピードはゆっくりだ。ベルタザール発掘記に記された黄金の獅子の通り道は、ここからそう遠くない。

 ノイルバギーの運転席にはイザック。助手席にはリラ。そして、コンテナではなく屋根の上に、ナヤとオスカーがいた。

 ナヤの折りたたみ式楽器、ミニグイッタが、軽やかで力強くも繊細なコードを時には流れるようなリズムで、時には叩きつけるようなリズムできざむ。その上に、四人の声がメロディを乗せていく。



「それぞれの想いを背負い

 黄金の獅子を追う、失敗続きの四人のハンター


 湖でウリュウに出会い

 砂漠ではサテツアラシに

 崖と滝ではメガネキョウリン

 ネオドバイでモルティスターパイソン


 あたふたしながら乗り切って

 時に笑い、時に泣き

 絆を深めて強くなった


 どんな運命が待ち受けているだろう

 黄金の獅子に挑む、四人のハンターに」



 四人の作詞・作曲による歌だ。今まで失敗を繰り返し、色んな人々に助けてもらいながら、地下世界に来て何とかかんとか切り抜けてきた四人が、唯一起こした奇跡。たった一晩で曲ができた。

 すでに四人の視界には世界一巨大な機械獣の王、黄金の獅子の姿がある。この前見た時と同じように、一歩一歩、大地を踏みしめながらゆっくりゆっくり歩んでいる。

 奇跡は起こらなくていい。自分達の今の実力はどれくらいのものなのか。それに見合った結果が欲しいのだ。


「予想より少しだけ進路が北側ですね」

 黄金の獅子を見てそう言ったナヤ。イザックのいる運転席へ顔を降ろす。

「予定変更です。左折して、近くにノイルバギーをとめてください」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る