第111話 機械獣ハンターNOILと黄金の獅子




 ノイルバギーをとめ、四人とも降りた。黄金の獅子の方を向いて、四人一列に並ぶ。その距離おそらくおよそ一キロ。リラが口を開いた。


「黄金の獅子、近付くとますます大きいね。機械獣っていうより、建造物って感じ」

「ああ」とイザック。

「大きさはけど、な。どれくらい大きいか。俺達には大きすぎる」

 オスカーがうなずいた。

「確かにな。だが、怖くはないだろう?」

「ええ。やりましょう!」

 ナヤがそう言い、四人が「おう!」と声をそろえた。


 リラとイザックは黄金の獅子へと砂漠を走り出した。オスカーは足元に見渡り印を二つ描いていく。




 黄金の獅子の歩みは、その大きさのためか決して速くない。だが、足を止めてよじ登るためには気を引かなければならない。イザックは走りながらマグネットシールドの出力を最大、発生範囲を最小にしていた。これで衝撃波が黄金の獅子の顔まで届くはずだ。


 リラは黄金の獅子の右脚に向かって走る。イザックは左脚近くの前方に立ちはだかると、マグネットシールドの衝撃波を放った。それが黄金の獅子の鼻先をかすめた。動きが止まる。


「ほらでくの坊! こっちだ!」

 黄金の獅子がイザックを見て口を広げ、牙を向いてみせる。これは、攻撃する前段階の威嚇。予定通りだ。イザックはすぐにマグネットシールドを自分の身の回りにはった。リラの調整によって、大砲の弾でも弾けるほどに協力になっている。


 リラは右脚に飛びつき、よじ登っていく。資料によれば、基本的には右脚は攻撃には使わない。

 黄金の獅子の体は金属部品の集合だが、柔らかく、脈打っていて登りづらい。リラは何度もずり落ちそうになりながら、ドライバーガンを突き刺して登っていた。


 黄金の獅子の唸り声とともに振り下ろされた左脚が、イザックのマグネットシールドに弾かれて軌道をずらし、砂地を直撃して大きな砂埃をたてた。地面もグラグラと揺れる。


「大丈夫?!」

 リラが叫ぶと返事はすぐに帰ってきた。


「大丈夫だ! でもいつまでもは無理だぞ! 早く済ませろ!」


 再び登り始めるリラ。だが、黄金の獅子の右脚が大きく震えた。

「あっ!」


 リラの手から、ミズリルグリスが入った瓶が転げ落ちた。素早く手を伸ばすが、間に合わない。

「待てこのぉっ!」


 伸ばした手に力を込め、霊術で瓶の中のミズリルグリスを握る。何とか手繰り寄せて再び手に取った。右脚の関節はもうすぐだ。




 ナヤとオスカーは身渡り印を使って、砂漠の端にある軍事要塞の廃墟へとやって来ていた。黄金の獅子もミニカーのように小さく見える距離だ。

 二人は城壁に設置された砲台の一つに駆け寄った。古代人の物としては原始的で、キャノピーはなく砲手用の座席はむき出し。手動で砲弾を装填しなければならない。

「問題ありませんか?」

 ナヤに聞かれるまでもなく、オスカーは座席に乗ってハンドルを動かして確認する。グンと砲台が揺れた。

「大丈夫だ」


 この砲台は射程距離が長いが威力は小さい。これで黄金の獅子を撃てば、黄金の獅子がこちらに来て、要塞が破壊されて、終わりだろう。


 完璧だ。





 黄金の獅子の右脚にある関節にミズリルグリスを塗りながら、リラは瞳を潤ませていた。

 これは、夢が叶うとは言えない。死んだ部品を持ち帰るだけだ。それも、機械獣部品を売る公設取引所にある死んだ鬣よりもずっと小さい部品。


 だが、その部品は黄金の獅子からリラ自身がこの手で取り外す。しかも、相棒と、苦楽を共にした仲間と協力し合って。

 今まで失敗と挫折を繰り返してきた。夢を叶えるまでにはひたすらそれを乗り越えるだけなのだろうと思っていたが、それだけではなかったのだ。

 こんな幸せを感じられる瞬間が、夢を叶える手前にもあるなんて。


 リラのドライバーガンが回転し、右手が黄金の獅子から一本のボルトを抜き取った。



「取った……取ったぁーーーーー! あ、あぁああああ~!」



 自然と泣き出したリラ。イザックは黄金の獅子左脚の爪の間をすり抜けながらそれを確認して笑うと、ポケットに入れてきた信号弾を空へ打ち上げた。緑色の煙が立ち上る。



「上がったぞ! 部品を手に入れた!」

 砲台の座席の上でオスカーが声を上げた。足元でナヤが必死に砲弾を持ち上げている。何とか装填し、「完了です!」と合図。

「よし、撃つぞ! 耳をふさいでいろ!」

 オスカーはシンシアさん仕込みの腕を発揮し、砲撃を見事黄金の獅子の首元に命中させた。黄金の獅子はイザックを狙うのをやめ、顔をこちらに向ける。


「もう一発だ!」

 ナヤは言われる前に砲弾を持ち上げ、装填。「完了です!」の合図の直後、再び砲台がドン! と揺れる。

 二発目も命中し、黄金の獅子がこちらへと歩き出した。


「よし、来る! 逃げるぞ!」


 オスカーとナヤは、身渡り印を使ってノイルバギーの元へと戻った。




 *




 黄金の獅子が要塞を破壊する頃には、四人はノイルバギーで旅をスタートさせた湖の付近まで退避していた。リラが三人に、改めてボルトを見せる。


「自分たちの力で、動いてる黄金の獅子から取り外した部品だよ。小さいけど、私達の成果」


「……小さくなんかありません。私達はこの旅で大きな成果を上げましたよ」

 にっこり笑ってナヤがそう言うと「そうだ!」とイザック。

「世界の誰もできなかったことをやったんだ! まずリーダーを胴上げだ!」

 ナヤを持ち上げて三人で胴上げ。続いてメンバー全員を一人ずつ胴上げし、最後のリラが地面に降りると、リラは地平線の彼方に見える黄金の獅子の方を向き、口に両手を添えて叫んだ。



「また来るよーーーーっ! その時は狩ってやるからーーーーーっ!」



 四人は帰路についた。地上へ戻り、師匠に旅の成果を報告しなければ。



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