第109話 黄金の獅子とは




「離れて!」

 リラの合図で全員、扉から離れ、棚の後ろに隠れる。ドン! とゲイドラコンドルのたまごによる爆発音が響き、煙が舞い上がった。現れたのは、地下への階段。

 ナヤが先頭に立ち、廊下をあっちへまがりこっちへまがりしながらたどり着いたのは、黄金の獅子に関する資料がまとめて保管されている資料室だった。机が倒れたり棚が崩れたりして、物が散乱しているが、どうやらファイルの中身はまだ読めそうだ。


 シンシアさんから貰った小型翻訳読み上げ機を手にし、リラが資料室のファイルの背表紙に押し当てていく。

「開発日誌千八、開発日誌千九……」

 読み上げを聴きながら「うーん」とうなるリラ。

「そういうのじゃないんだよな……もっとこう……」

 ぶつぶつ独り言を言いながら、別の棚へ移動していく。


「塗装事業者選定、OHLL樹脂発注記録」

「いやー、もうちょっと、何て言うか……」


「特記事項八十七『前脚第二ジョイント部における骨格的脆弱性の解消について』」

「あっ!」

 リラは棚からファイルを抜き取った。パラパラとめくり、読み上げ機を押し当てる。

「黄金の獅子前脚の第二ジョイント部において、二十五度以下の状態では著しく可動域が……」


「これだ!」

 三人に背表紙の始めの方の文字を見せる。

「これと同じ文字で始まるファイルを片っ端から集めて!」




 *




 三日間、ファイルと格闘し続けたリラが出した結論は、こうだった。


「四人で狩るなんて、無茶すぎる……」


 リラが黄金の獅子の構造を説明し、その意見に全員が納得した。



 黄金の獅子は純粋な機械ではない。中央にアーマー機構を備え、関節部分は機械構造になっているが、その関節を動かすのは『金属製の筋肉』なのだ。

 古代人の技術により、温度を上げずに金属を溶かし、強度や粘度をコントロールしながら、筋肉や内臓を作り出している。

 つまり、黄金の獅子とは、機械というよりだ。機械獣のようにボルトや配線を破壊して動きを止める事も出来なければ、電撃で動きを鈍らせることもできない。

 徹底的にファイルを読みつくしたリラの感想は、『黄金の獅子は完璧に作り上げられた芸術品』だ。たった四人でそれを狩り、バラすなど、不可能。


「ここまで来て悔しいですけど……」

「そもそも、機械獣ハンターが狩れる物じゃなかったな」

「残念だが……」


 ナヤ、イザック、オスカーも肩を落とす。その姿が、リラの心に火をつけた。本当はもう諦めて帰ろうとリラも思っていたが、今、リラは気持ちを切り替えた。


「待って! まだやれることはあるよ」


「ですけど、どうやっても狩れるとは思えません。あなたが今……」

 ナヤが言う途中でリラは手を横に振った。

「狩るのは無理。だけど、部品を持ち帰るくらいはできるかもしれないよ」

「落っこちてるのを探すのか?」

 イザックに「違う!」と返しながら、リラは一冊のファイルを引っ張ってきた。

「黄金の獅子は脚の関節部分は機械になってるの。それを特殊なコーティングで保護してるんだけど、コーティングが剥がれると黄金の獅子との繋がりが切れて、簡単に取り外せるようになる」


「はがす方法があるのか?」

 リラはオスカーに無言でうなずいて見せた。


「アーマー機関で冷却材に使われることがある『ミズリルグリス』を使えば」

「どうやって手に入れるんです? まさか私達のアーマーをバラすんじゃ……」

 怪訝そうな顔のナヤ。リラは得意げにこう言った。


「高速道路だよ。乗り捨てられた大量の車から、アーマー機関を抜き取って、ミズリルグリスを集めよう」



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