第108話 機械獣モルティスターパイソン
「まずはここです!」
ナヤが扉を蹴破って入ったのは、レバーやスイッチが数え切れないほど並ぶ、電力をコントロールする設備がある部屋だ。滑空して逃げる時、手に持っている電灯の明かりだけでは危険すぎる。このビルの明かりという明かりを全て点けるのだ。
「ここのスイッチとレバーを全て上へ動かしてください!」
四人で部屋にある全てのスイッチとレバーをいじり、また大急ぎでビルを登る。さっきまでとはうって違い、全ての電灯がついてビル中が昼間のように明るい。
次第に、ギシギシと何かがきしむ、鈍い太い音がリラ達にも聴き取れるようになってきた。間違いなく近付いている。
「追いつかれそう?」
必死に階段を駆け上がりながらリラが前方のナヤに聞いた。
「いいえ! もう追いつかれてます!」
「どういう意味だ?」とオスカー。
「向こうは、ビルの中ではなく周囲を登ってるんです。恐らくシングルスターパイソンのような蛇型機械獣。でもさらに大型です。このビルにぐるりと巻き付くほどの。もう私達と同じ高さまで登ってきています!」
「どうする? 降りるか?」
そう言って立ち止まったイザックの手をナヤが強く引いた。
「登ります! 次の階に、私達でも動かせるエレベーターがあるはずです。それに乗ればまだ追い越せます!」
次の階にあるエレベーターの前で、ナヤが発掘記を開いた。壁にあるボタンをいくつも押して暗号を入力し、扉が開く。
「乗ってください」
不安そうな表情で乗り込む三人に、ナヤは力強く笑って見せた。
「超高速エレベーターです。八百メートル上の屋上まで三十秒ですよ!」
ググンとエレベーターが揺れた。階数表示はすさまじい勢いで上昇していくが、揺れは殆どない。流石古代のエレベーターといったところか。
ところが、突然大きな衝撃音が響き、四人の体がふわりと浮きあがった。
「ちょっと、これっ……」
リラを始め全員、慌てて手すりにつかまった。
「間違いなく落ちてるぞ!」
イザックはマグネットシールドの出力を最大にし、衝撃波を打ち出してエレベーターのドアを吹き飛ばした。そこにあったのは、夜の闇。そしてその中で輝くビルだ。つまり、ここはビルの外。
巨大な蛇型機械獣が、ビルにある三つの塔のうち、リラ達のいる塔を締め潰し、押し倒したのだ。エレベーターは、ボッキリ折れたビルの塔から空中に放り出されてしまった。
「オスカーにつかまってください!」
リラとイザックがオスカーにつかまり、そのオスカーをナヤがつかんで、ブロバルモモンガとなって滑空していく。イザックが振り向きながら叫んだ。
「来るぞ! 来る来る!」
赤い二つの目と、四人を一飲みにしそうな大きな口が後ろから迫っている。リラも振り向いて悲鳴を上げた。
「追いつかれる!!」
次の瞬間、四人は失速して落下し始めた。ナヤが人型に戻ったのだ。機械獣の頭は空振りするように四人の上空を通り抜けていく。
ナヤはすぐブロバルモモンガに戻り、再び滑空していく。四人は残った二つの塔の間をすり抜けた。
「まだ追って来てるぞ!」
オスカーが叫ぶ。ナヤは腕が痛くなるのを必死でこらえながら向きを変え、ビルの二つの塔を八の字に回っていった。
巨大な蛇型機械獣はナヤを追ってビルの二つの塔に絡みつき、締め潰した。
崩落音、爆発音が響く中、ナヤは崩れてくるビルをよけながら滑空を続け、ビルから何キロか離れた地点に着地した。
「追って来てるか?」
イザックはナヤに手を貸し、立ち上がらせた。
「いえ、ひとまず追ってくる音は聴こえません。イザック、お手柄でしたね」
「え? 何がだよ」
「エレベーターの扉をマグネットシールドで開いてくれて、助かりました。あれが少しでも遅れたらきっと、エレベーターごと機械獣に飲まれていたでしょう」
ナヤはイザックを抱きしめると、オスカーを呼んだ。
「オスカー、身渡り印を……」
「ああ。今もう描いてる」
オスカーは手際よくノイルバギーへと戻る身渡り印を描き、全員ノイルバギーへと一瞬で戻った。
*
次の日の朝、リラ達がビルへと戻って来ると、そこには瓦礫の大山と、それに押しつぶされて完全に機能停止した巨大な蛇型機械獣の姿があった。その頭の前に、四人で立ち尽くす。これほど巨大ならおそらく、ノイルバギーも飲みこまれてしまうだろう。
「『モルティスターパイソン』でいい?」
リラがそう名付けると「勝手にしろよ」と笑いながらイザック。
「まあ、こんだけ大きな新種を四人だけで狩ったってのは、かなりデカい実績になるな。ナヤとオスカーの望みは、これで叶うかもしれない」
イザックはカメラを取り出した。モルティスターパイソンの脇にリラ、ナヤ、オスカーが立ち、証拠、記念撮影。
「オッケー、きれいに撮れた。さあ、黄金の獅子の秘密、拝みに行くか!」
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