第86話 アッタの相棒、レブ・リモ




 師匠は、ブベル塔内ガル・ババの執務室だった部屋で、アッタと向かい合って座っていた。一枚の紙を差し出す。


「司法取引だ。お前の知っている旧ブルービーストのこれまでの活動などのもろもろの情報をこちらに教え『自治政府新ブルービースト』の総統としてこの町を治めるならば、お前は罰金刑のみになる」

 アッタは差し出された紙を前にして無言。師匠はしばらく待ってから「どうした?」と声をかけた。アッタはやっと顔を上げて、口を開いた。


「レブは……」

 そこまで言って一度口を閉じる。アッタの瞳は僅かに潤んだ。


「レブは……あんたが殺したのか?」

 旧ブルービースト幹部『左爪』レブ・リモ。彼女は行方知れずのままだ。持ち物も、遺体も、何も見つかっていない。


 師匠はアッタの問いに首を横に振った。

「いや。会いはしたが、私は闘ってもいない。私の部下にも、レブ・リモを見た者はいなかった。完全に行方不明だ。逃亡した可能性が高いな」


「探してくれ。できれば俺と同じように、司法取引を。あいつは、俺の相棒なんだ。あいつなしでは、俺はこの町を治められない」


「言われなくても探すに決まっているだろう。それが、お前が司法取引を受ける条件か?」

「そうだ」

 師匠は間髪入れずに「よし!」と紙を取り上げた。項目を書き足し、自分の印を押し、アッタに見せる。


「内容を確認して署名しろ。その瞬間、お前が新ブルービーストの総統だ。レブ・リモは私が責任を持って探してやる」




 *




 リラ達が待つ部屋のドアが、ガチャリと開いた。入って来たのはシンシアさん。面々に「お疲れ様」と笑顔を向け、オスカーの前に座った。


「話は全部聞いた。あなた、すごいね」

「え……?」

 突然褒められ、戸惑うオスカー。シンシアさんはおすまし顔ではなく優しい笑顔でオスカーに話しかける。

「ドグウの事、ヤーニンから教えてもらった。子供の時の罪滅ぼしのために自分の身一つでこんな所にまで来るなんて、あなた、本当にすごい」

「い、いや……」

 今までと違うシンシアさんの様子にオスカーが困惑していると、シンシアさんはオスカーの手に小さなカードを握らせた。


「あげる」


 そう言ってすぐ席を立ち、ドアに向かうシンシアさん。だが、ドアに着く前に再びガチャリと開いた。入って来たのは師匠。シンシアさんとぶつかりそうになり「おっ」と立ち止まる。

「すまない。……ん? シンシア、お前こんなところで何をしている?」

「別に何も」

 そう言って師匠の横を通り過ぎようとするシンシアさん。師匠は何やらニヤケながら手を取って止めた。


「待て。お前、何を赤くなってるんだ」

「赤くなんてなってない」

「なっているぞ。ここに何をしに……」

「なってない!」

 シンシアさんは乱暴に腕を振り払うと、部屋を出て行った。師匠はにやにやしながらシンシアさんを見送った後、ナヤとイザックの元へ歩いてきた。


「少しいいか。話がある」



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