第85話 ディエンビの正体




 ディエンビのコックピット。拘束されたガル・ババの前に師匠が座っていた。

「ガル・ババ、お前はこの戦艦をどうやって手に入れた?」

「……貴様に話すことはない」


 口元から笑みをこぼす師匠。馬鹿にして笑うというより『仕方ないやつだな』と子供を笑うような雰囲気だ。


「想像はついている。どうせ、蛇と薔薇のジャオから買ったんだろう? お前はこの戦艦が一体何なのか、知っていたのか?」

「……一機で世界を征服できる力を持つ、最強の飛行戦艦『ディエンビ』だ」


 師匠はタレ目を軽く開いて「ん?」とこぼした。

「今、何と言った? 飛行戦艦……」

「『ディエンビ』だ!」

「『ディエンビ』…………はははははははは!!」


 突然大笑いした師匠。ガル・ババもブルービーストのメンバーも面食らったが、ガル・ババはすぐに師匠を睨み付け、声を荒げた。

「何がおかしい!!」


「くっ……はははは……。恐らくそれは『ディエンビ』ではなく『DMB』だ。それを『ディエンビ』とはな……ははははは! 聞き間違えたのか、それともジャオにからかわれたのか……ははははは」


「からかわれただと? 一体どういう意味だ!」


 師匠は深呼吸して息を整えると、こう言った。

「『DMB』というのは、この戦艦の愛称『』の略称だ。艦首に大きな主砲が二つついているだろう? それが出目金の目を思わせる事からつけられた」


「なぜ貴様がそんな事を知って……」


「まだ気付かないのか。それなら、この飛行戦艦の正式名称を教えてやる」


「正式名称?」

 ガル・ババだけでなく、他のブルービーストのメンバー達も、師匠の言葉に耳を傾けている。


「この飛行戦艦の正式名称は、『連合国軍二十七式大型航空戦艦』。今この戦艦を上から捕縛している二十九式『アダム・タキプレス』の一世代前の戦艦だ。お前はジャオに大金を払って、奴が盗んだ連合国のおさがりをつかまされたという事だな」


 ブルービーストによる革命は、連合国の介入により、首都襲撃が始まる前に幕がおろされたのだった。




 *




 ディエンビ改めデメバードを捕らえたアダム・タキプレスがブベル塔に到着する頃には、連合国軍がすでにブベル塔を完全に制圧していた。

 リンナとバルトに連れて帰ってきてもらったリラ達は、オスカー、ドグウと再会し、ブベル塔の一室で師匠を待たされていた。

 師匠は連合国軍人の中でも階級の高い将校で、今回の制圧作戦の司令官を務めていたらしい。そのため中々仕事が終わらないようだった。


「オスカー、あなたはこれから先どうするの?」

 リラがそう聞くと、オスカーはドグウの背中に手を添えた。

「こいつを故郷に連れて行って、両親に会わせてやる。もし必要なら、その後の面倒も見るつもりだ」

 カジェンタを吸おうとしていたドグウは恥ずかしそうに笑った。

「僕は両親の記憶ないから、ちょっと怖いけど……会ったら思い出すかもしれないしね」

「あなたね」とドグウの持ったカジェンタを指さしながらリラ。

「それ、いい加減にやめなさいね? どの道もうこれからは手に入らないんだから」

「うん」とうなずきながら、ドグウはカジェンタを箱に戻し、オスカーに手渡した。


「ナヤ……どうやって探すんだ?」

 ナヤの手を握りながらイザック。『探す』というのは、ナヤとすり替えられたアルカズ・ローリーの娘の事だ。

「分かりません……それも含めて、リラのお師匠様に相談しようと思います」

「協力してくれるか……?」

「してくれなければ……それでも何とかして探します。お父様のために」





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