第84話 『革命』の終わり




 ディエンビを襲った揺れの正体が分からないのは、隠れていたナヤ達も同じだった。ガル・ババがいなくなった後、リラがすぐにハッチに駆けあがり、塞いでいる何かに手を当てた。


「気を付けてください」

 下から声をかけるナヤに「大丈夫」と返し、塞いでいる何かを押してみる。だが、いくら力を込めてもビクともしなかった。


「ダメだ。出られそうにないよ」

 そう言ってリラが梯子を下りる。イザックは頭をボリボリかきながら「くっそ!」と久々にぼやいた。

「いったい何が起こってんだよ! どうやって出たらいいんだ」



 コンコンとノックする音が聴こえ、三人ともビクリと肩を震わせた。だが、扉の近くに立っていたのは、リンナ。そしてバルトだった。


「そろそろ、おいとましましょう。案内しますよ」




 *




 ガル・ババの足取りは次第に速まり、コックピットへたどり着く頃には走り出していた。ドスドスと足音を立てながら通路を突き進み、扉が壊れるほどの勢いで押し開ける。

 コックピットはすでに連合国軍の兵に占拠され、ブルービーストのメンバーは全員拘束されていた。そんな中ガル・ババの前に立って腕をこまねきニヤリと笑うのは、一人の女性軍人。


「待ちかねたぞ。ガル・ババ」


 リラの師匠、ヒビカ・メニスフィトだ。



「おのれええええっ!」

 ガル・ババは大声で叫びながら、ツツヤシガニへと姿を変えた。巨大なハサミに備えた空気砲。ガル・ババは、金属や岩も打ち壊す威力を持つその砲を師匠に向けて容赦なく放った。

 ドン! と砲撃音と衝撃波がコックピットに広がる。ところが、師匠は倒れるどころか顔色一つ変えずに腕をこまねいたままだ。

 ガル・ババは空気砲を連射。衝撃波でコックピットの窓ガラスは吹き飛び、連合国の兵達や拘束されたブルービーストのメンバーも身をかがめる。

 だが、空気の砲弾も衝撃波も、師匠を傷つける事はせずに優しい風となって消え失せてしまった。


「私にそんな攻撃は通用しないぞ」


 師匠がそう言うと、ガル・ババは人型に戻り、師匠に殴りかかった。しかし、師匠のもとへたどり着く前に一人の軍人がガル・ババにがっしりと抱きついた。

 身長二メートルを越えるガル・ババを抱きかかえて止めているその軍人は師匠の部下であり鬼熊の半獣人、ジョイス。


「人間の分際で……!」

「あたしは半獣人だよ!」

 ジョイスはガル・ババをあっさり放り投げ、腕をひねって抑え込んだ。すかさず連合国の兵士達が集まり、ガル・ババは拘束された。




 *




 バルトとリンナによって脱出に成功したリラ達三人は、リンナが空を飛ばす絨毯の上からディエンビを眺めて絶句していた。ディエンビを襲った揺れの正体が分かったのだ。あれは『捕まった』際の揺れ。

 一機でアストロラを征服できると言われた巨大飛行戦艦ディエンビ。そのディエンビよりさらに一回り以上大きな、カブトガニを思わせるような丸い戦艦が、足のようなクレーンでディエンビをがっしりつかんでいたのだ。


「あれ、連合国の戦艦か?」

 イザックがつぶやくように言うと、バルトが「そうです」と答えた。


「連合国軍が持つ、空だけでなく水上、水中まで進むことができる、世界最強の戦艦です。私も実際に目にするのは初めてですが」



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