第83話 ナヤがどうしても聞きたかったこと
部屋の扉から吹き飛ばされたガル・ババの部下二人の前に現れたのは、白いタキシードの女。リンナだ。部下の一人がグルル……と喉を鳴らして睨み付ける。
「貴様、確か公爵家の犬だな。すぐ八つ裂きにしてやる」
対するリンナはにっこり笑って、ポケットから瓶を取り出した。中に入っているのは小さな金属の玉。蓋を開けると、その玉が空中に広がった。
*
「入って来たのはお前達だけか?」
部屋の中、ナヤの言葉を無視してガル・ババが聞いた。ナヤは小さくも力を感じさせる声で言い返す。
「聞きたいことがあると言ったでしょう。こちらの質問に答えないなら、あなたの質問にも答えません」
ガル・ババはナヤ達の思惑を見透かすようにニヤリと笑った。
「お前達だけなら、獣型になる必要すらないな」
リラ達がアーマーを構えると同時にガル・ババが襲い掛かってきた。
ナヤがアーマーのグリップを投げつける。ガル・ババはそれを避けるようにジャンプ。
そのタイミングでイザックがマグネットシールドを撃ち出した。服の装飾に引っ張られ、ガル・ババは後ろへと吹き飛ぶ。すぐに起き上がると、怒鳴りながら上半身の服を引き裂いて放り投げた。
「小賢しいガキどもがぁっ!!」
リラがドライバーガンを撃った。飛んできた先端をガル・ババは片手で難なくキャッチ。そしてワイヤーを思い切り引っ張った。
リラはあえてドライバーガンを放さずに、引っ張られて飛んだ。そして、イザックがマグネットシールドでドライバーガンごとリラを撃ち出す。
リラは両足でガル・ババの顔面めがけて蹴りを放った。しかし、ガル・ババはまたしても難なくキャッチ。リラを振り回して投げ飛ばした。リラはイザックにぶつかり、二人まとめて倒れ込んで動かなくなった。
ふと見ると、ガル・ババの視界からナヤの姿が消えていた。だが、あのモモンガの獣人が何を考えるか、ガル・ババには容易に想像がつく。
ガル・ババはすぐに振り返ると、目の前まで滑空して来ていた白いブロバルモモンガを片手でつかんだ。ナヤは慌てて人型に戻り、アーマーを投げつけようとするが、ガル・ババがもう片方の手でナヤの腕をひねり上げた。
「うっ……ぐ!」
アーマーがナヤの手からガチャガチャと床に落下。ガル・ババは両手でナヤの胸倉をつかみ、宙にぶら下げた。
「身の程知らずのガキめ。これで思い知っただろう。さあ、今すぐ死ぬか後で死ぬかくらいは選ばせてやる」
ナヤはガル・ババを睨み付けながら言った。
「どうせ死ぬなら、教えてください……私とすり替えられた、お父様の……アルカズ・ローリーの娘は、今どこにいるんです?」
「フン」と鼻で笑うガル・ババ。
「何を聞くかと思えばくだらんことを。その子供なら、奴隷としてその辺で働かせているはずだ。何かで死んでいなければの話だがな」
「それも分からないんですか?」
「私にはどうでもいいことだ。人間の子供がどうなっていようと」
「よくも……お父様の子供に……」
「お前のような雑魚が偉そうな口を……」
ガシャン! と大きな音が辺りを包み、ディエンビがぐらりと揺れた。ハッチを何かが塞ぎ、部屋が少しだけ暗くなる。
ガル・ババの手が僅かに緩んだ瞬間、ナヤは両手で耳をふさいで叫んだ。
「今です!!」
気絶したふりをしていたリラが起き上がり、黒いボールを投げた。これは、ナヤがシンシアさんから貰ったものだ。
リラが投げた黒いボールがガル・ババに当たった。
ボールが反応し、耳をつんざいて脳まで揺さぶるような凄まじい音を鳴らし始めた。目がくらんだガル・ババはナヤから手を放し、手探りでボールを探して叩き潰した。
ナヤ達の姿はもうない。ガル・ババはハッチの方を見上げた。塞いでいるのは、金属の何かだ。板か、機械の部品か、よく分からない。
「……チッ!」
ガル・ババはドアを打ち破って部屋から出ると、気絶している二人の部下には目もくれず、コックピットへ向かって行った。
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