第78話 ライランドVS師匠




 リラはまだライランドに押さえつけられていた。ライランドは師匠と対峙しているが、リラを放そうとする気配はない。

「俺もアストロラの王室直属ハンターだ。そう簡単に負けるつもりはない。お前を殺すつもりでやってやる」

 そう啖呵を切るライランドに対し、師匠は冷静に返した。

「私はお前と闘いたくはない。リラを放してくれ」


「放したらどうするのか言えよ。俺を殺しでもするんだろ?」

「闘わないと言っているだろう。私はここにはリラを助けに来ただけだ」


「しらばっくれんな!!」


 ライランドは小さなドライバーの先端をいくつも投げた。それが宙を浮き、師匠の周りを取り囲む。

「俺のとっておきを見せてやる」


 バリバリバリッ! と雷の音が鳴り響き、宙に浮くドライバーをかなめにして、雷の牢獄が出現した。

「出られやしないだろ? 連合国の凄腕スパイなんて言ったって、生身の人間だからな」

 ライランドはそう言って「ハハハ」と笑う。

「お前がもし、『闘いたくない』なんて腑抜けた事言わないで俺に突っ込んでくる勇気があれば、結果は違ったかもな。だけどもう、終わりだ!」


 バァン! と雷の音。リラには音しか聴こえない。まさか……とリラの体が震え始めた。ところが、よく聴くと、ドドド……と水の音がする。


 リラからは見えない師匠の頭上では、海水が球体になって渦巻いていた。雷を引き寄せ、吸い込んでいる。

 それを指さし、師匠がライランドに言った。

「これが何だか、分かるか?」


 声を聴き取ったリラが「師匠!」と呼んで体をよじった。ライランドはそれをグイッと押さえつけながら、師匠の頭上で渦巻く海水を見る。

 湯気を上げながら、その湯気をも吸いこみ、圧縮し、回転が激しくなっていく。


「水は電気分解されると、水素と酸素になる。それを私が熱の霊術で加熱していくと、どうなるか……」


 海水の球体はもはや海水ではなくなり、光り輝く高熱の球となって周囲を照らし始めた。部屋の温度もどんどん上がっていく。


「師匠?! ……あの、それこっちに投げるんですか?!」

 顔を上げられないリラにも、師匠の言葉と光と熱で何となく状況は分かる。

「師匠? 師匠! それこっちに投げます? 私見えないんですけど、どれくらいの大きさですか? 私に当たったりします?! 人に当たっても大丈夫なやつですか?!」

「うるさいぞ。しばらく黙っていろ」

 球は圧縮され、手のひらサイズになり、師匠の肩の横に止まった。



「……お前、まさか弟子もろとも」

 ライランドがそう言った瞬間、球は真横に飛び、壁の穴から外へと飛び出して行った。少ししてからドン…… と爆発音。


「お前の『とっておき』は私には無意味だ。リラを放せ。無駄な戦いはやめろ」


「そうはいかねえんだよ!」

 ライランドはリラの頭をグイッとずらし、伸びた首にナイフを当てた。


「俺も自分が守る物のために、引き下がるわけにはいかない。ガル・ババの邪魔はするな。その壁の穴から出てけ」


「私がいつガル・ババの邪魔をすると言ったんだ?」


「しらばっくれるなってんだよ!」


 ライランドを刺激しないでください! と願うリラの目の前で、水たまりがゆらりと揺れた。次の瞬間、そこから鋭く立ち上がった水柱にライランドのナイフが弾かれた。床に落ちて転がるキンキンと音という共に、師匠の声が部屋に響く。

「無駄な戦いはやめろ」

 この部屋は海水で水浸し。師匠の力が及ばない空間など、ここには存在しないのだ。


 部屋の扉が開いた。入って来たのはジョイスとシンシアさんにヤーニン。そして、捕虜となった王室直属ハンターの三人。後からオスカーとドグウも。

 ライランドはそれを見て、ついにリラを解放した。



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