第79話 ナヤと獣人達
獣人達の視線は、ナヤへ向いている。そのナヤの背中には、大きな穴が開いたホールの壁と、空と城下町の景色。黒い煙をあちこちから立ち上らせ、時折爆発音も。そこでは大きな機械獣がうごめきまわっている。その中の金色に輝く一体は、獅子の亡霊。
「みなさんの街が破壊されて、けが人も出ています。破壊しているのは、みなさんが集めた機械獣と、みなさんが呼び寄せた獅子の亡霊です」
胸を張って大声で喋るナヤだが、何を言うかをしっかり決めているわけではない。心の中にあるモヤモヤとしたものを何とか伝えようと、言葉をひねり出していく。
「ガル・ババは、獣人の不幸を全て人間のせいにしました。そうなのかもしれません。私には分かりません。でも今起こっている事は、誰のせいですか? それも人間のせいだ、と考える人達は、すでにガル・ババと共に出撃に向かいました。ここに残ったみなさんはきっと、もっと大事なことがある人達だと思います。それは、人によって違うでしょうが……」
ナヤは獣人達を見渡した。みなこちらを見ている。一気に緊張し、上手く言葉が出てこなくなってしまった。
「違うでしょうが……とにかく……ここに残ったみなさんが今、なすべき事は…………」
見るからに戸惑い始めたナヤの隣に、ブルービースト幹部『右爪』アッタ・ヴァルパが立った。
「ここは俺達の大事な街だ」
ナヤに代わり、獣人達の視線を一手に集める。相手は自分の部下達だ。
「モタモタするな!」
アッタはヤジリハヤブサに姿を変え、街で暴れる機械獣へと突撃していった。それに空組の獣人達が、それぞれの獣型に姿を変えて続く。残った水組、陸組の獣人達も、下り階段を目指してホールを飛び出していった。
*
王室直属ハンター達は、ライランドも含めて縄で縛られ、師匠と部下達、そしてリラとオスカーとドグウの前に座らされていた。
「これから私達をどうするつもり?」
アイヴリンにそう聞かれ、師匠はさらりと答えた。
「別にどうもしない。私達の仕事が邪魔されないように一時的に拘束しているだけだ」
「嘘だ」とルースリー。
「もし僕達を解放すれば自分達がどうなるか、知らないわけじゃないだろ?」
「フッ」と笑う師匠。
「王室特権を侵した罪によって禁錮十年から十五年、という、アストロラの国内法の話をしているのだろう? 私がその法律で裁かれることはあり得ない。もう間もなくアストロラ王国は連合国内の自治王国となり、連合国の法律が適用可能になるからな」
リューマが「残念だが」と師匠に言う。
「エルキュルス国王陛下は、条約に調印しないお考えだ。まあ、現実的にはいつか調印することになるだろうが、その前に君は捕らえられる」
今まで立っていた師匠が、リューマの前に座って視線を合わせた。勝ち誇ってあざ笑うでもなく、挑発するでもなく、淡々と話し始める。
「リューマ。お前達王室直属ハンターは『王家の誇り』を守る存在だと言ったな」
「そうだ。私達の任務は全て、王家の誇りを守るためのものだ」
「始めは、政府と議会を跪かせるために黄金の獅子を追い、次はライバルの公爵家を追い落とすため変異体の秘密を探り、挙句の果てにテロリストに加担する。そんな行為を誇りと呼べるのか」
リューマは師匠をギロリと睨み付けた。
「陛下を侮辱するのは許さないぞ」
「すまない」とすぐ謝罪した師匠。
「エルキュルスを馬鹿にする気はない。ただ……彼には、変な虫がついていただろう? 『ファントム』の名を持つ」
王室直属ハンターの四人が全員パッと顔を上げた。師匠が変な虫と表現した国王の相談役である、仮面をつけた不気味な男ゾウマ・ファントム。四人も不可解に思っていた存在だ。
師匠は四人の顔を順繰りに見ながら言った。
「私が手を回しておいた。虫はもうすぐ取れるから安心しろ」
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