第45話 リラとナヤの決闘




 山小屋から出ると、リラとナヤは、お互い自分のアーマーを持って向かい合った。

「決闘です。もし私が勝ったら、今まで私を馬鹿にして低く見てきたことを謝ってもらいます。リーダーの座からも降りてもらいますよ」


「じゃあ私が勝ったら、私をリーダーとして認めて、素直に従うこと。それでいい?」

「望むところです!」


 双方アーマーを構えて走り出した。ナヤはリラの足めがけて、縄のグリップを投げる。リラはドライバーガンを地面に突き立ててジャンプ。難なくかわすと、ナヤを蹴り飛ばす。

 腕でガードして後ろへ下がるナヤ。持ち前の身軽さで近くの木の枝に飛び上がり、上から再びグリップを投げつけた。

 リラはドライバーガンを上手く縄に押し当ててその軌道をずらすと、ブーツのつま先でグリップをシュート。グリップはナヤの方へと飛び、ナヤの額を打った。

「うぐっ!」

 ナヤは木の枝からひっくり返るように落ち、仰向けに倒れた。その喉に、リラはドライバーガンの先端を突き立てた。


「勝負あったね」


 ナヤは何も言わない。だが反論のしようなどないはずだ。リラは回れ右をして山小屋へと歩き出した。

 ところが、ゴツン! と後頭部に衝撃。ナヤが投げた石が地面にボトリと落ちた。


 リラはすぐ踵を返すと、ドライバーガンを構えてナヤめがけて走り出した。ナヤも迎え撃とうとアーマーを構える。

 しかし、リラの真横からイザックが飛びかかり、押し倒して押さえ込んだ。

「いい加減にしろよお前ら!!」


「全くだ! 子供じゃあるまいに!」

 オスカーもナヤを羽交い絞めにして持ち上げている。ナヤは宙ぶらりん状態で「放しなさい!」と手足をばたつかせて暴れていた。




 決闘自体は丸く収まらなかったが、その後ナヤはリラの指示や行いに一切文句を言わなくなった。




 *




「全てだぞ! 全てディエンビに積み込め!」

 アッタがブルービースト南支部の建物内をあちこち歩き回りながら、大声で言う。

「紙一枚、サイコロ一つ残すな!」


 地下プールでディエンビに荷物を運びこむのは、人間の奴隷達だ。数人の獣人が仕事を見張り、たまに怒号を浴びせる。


 レブは地上と繋がる一階の窓からそれを見下ろしていた。

「人間ってのは本当に貧弱でのろまだね。今日中には終わらないよ、こりゃ」

 扉を開いてアッタが入ってくる。


「レブ、壁の点検は終わったのか?」

「ああ。ちゃんとレバー一つで開く。ディエンビが通れるかも確認済みだよ」


「よし。明日の朝にはここを立つぞ。もう戻らないから、お前も最後に支部内に何も残ってないか確認しておけ」




 *




 翌日の昼。リラ達四人は海岸線を望む崖の上で、身をかがめていた。視線の先には海岸線、獣人に見張られながら洗濯物を干す、人間の奴隷達の姿があった。

 通常、人型になっている獣人は人間と判別がつかないが、アカデミーを襲った際のアッタとレブと同じ服装をしているブルービーストのメンバーは、一目で分かる。


「あの人達にくっついていけば、南支部までいけるはずだね」

 リラはそう言う。イザックはチラリと後ろにいるナヤを見た。ふてくされるとも違う、生気を感じさせないほどの無表情だ。

「ちょっと危険すぎないか?」

「常に風下にいるようにすれば大丈夫。ナヤに音を聴いてもらって追いかけよう」

 イザックにそう返したリラ。ナヤは何も返事をしなかった。







 夜になり、ようやくディエンビへ荷物を積み込み終わったブルービーストは、地下プールのプールサイドにマットを敷き、メンバーと人間の奴隷の寝床を用意していた。

 ブルービーストメンバー達は奴隷達の監視を交代でしながら、お喋りを楽しんでいる。そのため、ディエンビの上を歩くバルトとリンナの小さな足音には、誰も気づかなかった。リンナの光の霊術によって、二人の姿はブルービーストのメンバー達からは見えなくなっている。


 リンナが片手の小指と親指で輪っかを作り、口に押し当てた。


「フーーーーーーーー……」


 ゆっくり、長く息を吹く。薄い煙が徐々に地下プールに満ち、人間の奴隷もブルービーストのメンバーも、一人残らず深い眠りに落ちた。



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