第46話 揺れるレブ・リモとシンプルな答え
リンナがディエンビのハッチをゆっくりと開く。二人で中に入ろうとするが、地下プールサイドの扉が微かにカチャリ、という音を立てた。
バルトとリンナが静かに見守るその扉から現れたのは、リラ達四人。眠っている獣人達を起こさないよう、忍び足でディエンビへと向かってくる。
獣人達はリンナの術によって深く眠らせてある。簡単にこちらまで来るだろう。バルトは小さく笑い、リンナを連れてディエンビの中へと入って行った。ハッチを開けたまま。
『入るよ』とハッチを指さすリラ。後ろに続くイザックは渋い顔をするが、リラは『早く!』と手招くだけ。結局四人でディエンビに入り込んだ。
艦内に獣人の姿は見えないが、明かりは点いている。リラはナヤを自分の隣に引っ張ってきて、ナヤが『話し声を聴き取った方向』へと進んでいった。
着いた場所は、一階から三階が吹き抜けになっている大きな空間。一階部分に小さなテーブルとイスがあり、そこでアッタとレブが話していた。リラ達は二階の陰から耳を澄ます。
「おい、気を付けろよ」
アッタがレブに言う。レブは小さな金属製の小箱をお手玉のように放っていた。
「平気だよ。蓋が開かなきゃいいんだろ?」
「蓋が開かなくても、歪んで隙間ができればそこから黄金の獅子と『繋がる』んだ。一瞬でも繋がれば、獅子の亡霊がここに来るんだぞ」
アッタは眉をひそめるが、レブはおかまいなし。今度は小箱を器用に指の上で回し始めた。
「この辺は機械獣がほとんどいないんだよ? 『生きた部品』が飛んで来たって、材料の機械獣がいなきゃ、亡霊なんか作れないだろ」
「いいからそれをよこせ」
アッタが手を出すと、レブは小箱を放った。そしてため息をついてイスにグイッともたれる。
「なあアッタ、お前は気にならないのかよ。あの言葉」
「あの言葉?」
傾けていたイスをガタン! と戻し、レブがテーブルを拳で軽く叩く。
「影使いのメイのあの言葉だよ! 『間抜けな革命屋さん』っていう」
「ああ、あれか」と、何でもないような雰囲気のアッタ。
「あの言葉が頭にきたのか?」
「ああ……。頭にきた」
そう言いながらレブは両手で頬杖をついた。いつも頭にくるとシンプルに怒るレブだが、今回は様子が違う。
「頭にきただけじゃないな?」
レブはアッタの言葉を肯定するでもなく否定するでもなく、頬杖をついたまま黙っている。
「言ってみろよ相棒。誰にも言わない」
アッタの方を見ずにレブはしゃべり始めた。
「……私らは『革命屋』なのか?」
「人間を権力の座から引きずり降ろして、獣人の国を作ろうとしてる。確かに革命だな」
「私は、アストロラから出たことないんだよ。でもあの影使いのメイは、蛇と薔薇の幹部として、世界中の『革命屋』を見てるんじゃないのか?」
「どうだろうな。そうかもしれない」
「そいつが『間抜け』って言ったんだ、私らの革命を。……あいつは人間なのに、これからアストロラが獣人の国になるって思ってないみたいだっただろ? 全然、これっぽっちも恐れずに、金だけ受け取れば勝手にすればいい、どうせ成功なんかしない……そんな風にでも言いたげに」
「怖くなったのか?」
「違う!!」
大声が艦内にこだました。同時に体を起こしたレブだが、すぐにまた頬杖をついた。
「だけど…………何だろう。よく分からないんだよ。自分でも」
「総統がいつもおっしゃってるだろう? 『答えはシンプルだ』って。シンプルに考えてシンプルに答えを出すんだ。人間が俺達に勝っているのは、人数と兵器の量だけ。だがそれも、獅子の亡霊とアルファ機械獣と、このディエンビでぶっ飛ばせる。それに一対一で闘えば、俺達が人間に負けるはずはない。空で世界最強なのは俺。陸で世界最強なのは総統。水上で世界最強なのは、お前だ」
「うん……そうだよな。難しく考えても仕方ない。どうせ私には複雑な事なんて理解できっこないんだよ。とにかく総統についていけばいいんだ」
「それでこそお前だ。さあ、そろそろ俺達も寝よう」
アッタとレブが立ち上がり、階段を二階へと上がってきた。リラ達四人は慌てて物陰に隠れる。アッタとレブは何も気付かないまま、リラ達が入ってきた扉から出ていった。
そして、扉が閉まった後に、カチャリ、と音。
鍵をかけられてしまったのだ。
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