第94話 機械獣ウリュウ
釣れた魚は五匹。今日の夕飯には十分だ。イザック達は、釣り道具を片づけていた。その時、ナヤが微かな波の音を聴き取り、ハッと体を持ち上げた。湖を見る。
「大きく波打ってる……?」
「え?」とイザックも、そしてオスカーも湖を見た。その瞬間。少し離れた湖の水面が爆発するように弾け、水中から塔が飛び出してきた。
いや、塔ではない。巨大だがうねっているその金属の塊は、機械獣だ。ウツボのような長い体に、海鳥のような首と頭。三人とも全く見た事がない超大型の機械獣。そして、その口元に引っかかっているのは、リラ。
「いやあああああああ! 助けてええええええ!」
叫び声の最後の方は、水音にかき消された。リラと機械獣の姿は、すぐ水中へと見えなくなる。
「ヤバいぞ! マジでヤバい!!」
直ぐに湖に飛び込もうとするイザックを、ナヤが止めた。
「いきなり潜ってもダメです!」
ナヤはアーマーのグリップを湖に放り投げると、出力を最大にして電気を流した。バァン!! と大きな音が鳴り、周囲の水面から湯気が上がる。続けて靴を脱ぐナヤ。
「私が潜ります、イザックとオスカーは縄を引いてください!」
間もなく縄につながれたリラが島へと引き上げられた。気絶したリラにナヤが人工呼吸し、リラは水を吐いて目を覚ました。ゼエゼエと乱れる息を整えながら、リラは笑った。
「ありがとう、ナヤ。これって……」
以前、ブルービーストの南支部へ向かう途中、リラがナヤにしたのと同じことだ。
「電撃、めっちゃきつかったよ。こんなにきついんだね……ごめん」
そう言うリラにナヤは笑って首を横に振った。
「あなたの判断が正しかったです。ごめんなさい」
強力な電撃によって水中で機能が停止した巨大な機械獣をリラがドライバーガンでバラし、縄を括り付けて部品を島へと引き上げた。体はウツボ、頭は鵜のような形状だ。外殻の隙間から数え切れないほどの歯車が覗いている。全長は、五十メートル四方ある島からはみ出すほど。引き上げるのは一苦労だった。
「リラ、この機械獣は何だか知っているか?」
オスカーに聞かれたリラは、首を横に振った。
「地上にはいない種類だよ。キョウリンチョウとかゲイドラコンドルよりずっと大きいね。頭は鵜で体はウツボ……いや、龍ってことにしておこうか。『ウリュウ』! 私達が発見した新種だよ?! 胸が躍らない?!」
興奮気味の機械獣マニアにオスカーは若干引き気味で「いや……」と首を横に振った。
「こんな機械獣がいるなんて、ベルタザール発掘記には記述されてませんでしたけど……」
そう言うナヤと一緒にイザックも機械獣を眺めている。
「書かれてない事もあるってことか。油断大敵だな。こんなヤツが湖にいるんじゃ、渡るのは危険すぎないか?」
この機械獣を見れば心配はもっともだが、リラはこう言った。
「この機械獣、魚は襲わなかった。兵器として人間だけを襲うようにできてるんだよ。だから、この機械獣を改造して船代わりにすれば、きっと渡れる」
「この機械獣を改造……そんなことできるのか?」
リラの機械いじりの腕前を知らないオスカーは半信半疑だ。リラは得意げににっこり笑った。
「腕が鳴るよ」
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