第95話 湖を渡って




 改造にはイザックとオスカーの力も借りて、三日間かかった。ウリュウの上三分の一の外殻は取り外し、本体下腹部の穴は水が入らないよう塞ぐ。舵とハンドル、ウリュウのアーマー機関を停止させるブレーキを取り付け、完成。水中からは、ウリュウのシルエットしか見えないはずだ。


「さあ乗って!」

 得意げにリラが手で合図し、全員『ウリュウボート』に乗り込む。四人には大きすぎる、思いのほか贅沢な船になった。屋根がないのが珠に傷だが。


 地下には風がほとんどないため、水面はとても静かだ。ザバザバ音を立てるのは、四人が乗ったウリュウボートだけ。

 イザックは顔を出して湖を覗き込んだ。

「すげえな。何十メートルも下の水底までくっきり見えるぞ」

 ナヤとオスカーも覗き込む。

「大昔は、人が住んでいたはずですよね」

「今はもう、自然の一部だな。……機械獣以外は」

「ちょっと」とリラ。

「顔を出さないで。ウリュウに気付かれたら大変だよ。それよりナヤ。ここから先は?」


 ナヤは発掘記を手にし、記述を確認する。

「北に進み続けると、砂漠が現れるはずです。そこには古代の高速道路があり、それを埋め尽くすほどの車が乗り捨てられていると」


「古代の車かぁ~」

 楽しそうにリラがそう言った瞬間、ナヤが「しっ!」と人差し指をたてた。続けて全員に対してささやく。

「声を立てないで……」


 三人とも口をつぐみ、物音もできるだけ立てないようにする。少しそのままにしていると、ゆったりした波がウリュウボートを横から少し揺らし、去って行った。


「……ひとまず行ったみたいです」

「ふぅ」とイザック。

「ウリュウか?」


「そうかもしれません。大きな機械獣が泳ぐような、深い鈍い音でした。声を聴きとって近付いてきたんでしょう。湖を抜ける間は、みなさんあまりしゃべらないように」




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