第32話 アカデミー地下 三つ巴の小箱争奪戦
アカデミーの地下へと続く水路の入り口に、アッタとレブがいた。格子に手をかけて引っ張っている。
「レブ、音を立てるなと言っただろう!」
「分かってる! 仕方ないだろ、さび付いてるんだよ」
ギシギシと音を立てながら外した格子をゆっくりと脇に置き、二人は水に半分潜りながら進んでいった。
「こっちだ」
レブが先導し、アッタが続いて行く。水がある場所なら、レブを頼りにしていれば間違いはない。
迷路のような水路をしばらく泳ぎ、頭上に現れたフタを外して這い上がると、大きな部屋にでた。
「ここで合ってるか?」
レブに聞かれてアッタが天井をチェックする。だが、よく見るまでもなく、端の方に月明りが指している部分があった。
「見取り図どおり、明かりを取り込む窓がある。ここで正解だ。さすがだなレブ」
レブは得意げに笑うと、部屋の中央に向かった。
元々は実技訓練用の体育館として作られたらしいこの部屋は、かなりの広さがあり、天井も高い。レブが手を叩くと、音が部屋中にこだました。
「ふー! 気持ちいい」
「音を立てるなと言ってるんだ!」と苛立つアッタ。彼に見えないよう、レブは舌を出した。
「さっさと仕事を済ませるぞ」
アッタは部屋の中央に来ると、しょっていたカバンから金属製の頑丈な箱を取り出した。そして、手のひらサイズのその箱についているスライド式のフタに手をかける。
ところが次の瞬間、箱が飛び上がりアッタの顔に体当たりをかました。
「いてっ!」
「はあ?! 何が……!」
アッタとレブが状況を飲み込めずにいる中、箱は宙を舞い、いつの間にか部屋の片隅にいた女の手にすうっとおさまった。白いタキシードを着ている。
「誰だ!!」
レブが怒鳴ると、その女はにっこり笑って手を振り、部屋の出入り口の一つへと走り出した。
「おいお前、待てよ!」
走り出すレブ。ところがその目の前に突然、
バルトが待つ出口へと走るリンナ。ところが、別の出入り口付近から銃声が響き、リンナの手元から小箱が弾かれた。
王室直属ハンターの紅一点、アイヴリンが放った銃弾によって飛び上がった小箱。それを手にしたのは、金属板を浮かせて空中を移動するルースリー。
「もーらい!」
しかし、そこに『ヤジリハヤブサ』の獣型に変化したアッタが飛びかかり、箱を奪い去った。それをライランドが磁気の霊術で飛ばすドライバーで追う。
「くそ、流石に速え! 隊長、挟み撃ちにしてくれ!」
「よし、アイヴリン! 君も援護を頼む!」
アイヴリンの「オーケー」という返事を聞くやいなや、隊長はメイジャーナルで見せたように、虎と入り混じった『不完全な獣型』に変化すると、壁を蹴って飛び上がった。
ドライバーと銃弾に逃げ道をふさがれたアッタを隊長が殴り飛ばし、箱が床に落下。それを拾おうとルースリーが走る。
そこに『水の槍』が飛んできた。ルースリーは間一髪、足場の金属板を急上昇させてよけた。
「人間風情が生意気に霊術なんか使いやがって! 私の槍で一人残らず串刺しにしてやるよ!」
レブは自分達が入ってきた水路から霊術で水をくみ上げ、いくつもの槍を作り出していた。それが次々と飛びかかり、ルースリーは小箱から引き離された。
「早く拾え!」
アッタがそう叫び、レブが小箱の元へ走る。ところが、レブより早くリンナが拾った。
「待てよ、ねえちゃん!」
ライランドがドライバーを突っ込ませた。ところがドライバーは、リンナの目前で僅かに軌道をずらし、ライランドの意思とは違う方向へ飛んでいく。
「しまった! あいつも磁気の霊術使いだ!」
ライランドが気付いた時にはすでにドライバーをリンナの霊術に乗っ取られていた。リンナはドライバーを自分の元へ引き寄せると逃げ出した。
「追うんだ!」
そう言って走り出した隊長に他のメンバーも続いて行く。ところが、その前にナイトスワロウが現れ、レブにしたように閃光を浴びせかけた。四人が怯む間にリンナはバルトの待つ出口へと走っていく。
ところが、突然隣の壁の一面が弾けるように崩壊し、巨大な機械獣が現れた。その機械獣は、四本ある前足の一本でリンナを殴りつけた。
リンナはドライバーを盾代わりにして受けたものの衝撃で吹き飛ばされ、ドライバーと小箱が床に転がった。機械獣が腕の一本で小箱を拾い上げる。
「何なのコイツ!」
正体不明の機械獣に驚くアイヴリン。その横にはドライバーを取り戻したライランドがいる。
「何でもいい! 機械獣相手なら俺達のお手のモンだろ!」
ライランドは機械獣めがけてドライバーを飛ばす。ところが機械獣は、ありえない複雑な形に腕をぐにゃりと曲げ、ドライバーを殴り飛ばした。外殻の隙間からは真っ黒な光がまたたく。
「ライランド! こいつは機械獣じゃない」
そう言いながら隊長が飛びかかり、獅子の亡霊を一撃で倒した拳で『こいつ』を殴り飛ばした。機械獣の外殻がガラガラと崩れ落ち、そこに現れたのは全身漆黒の、巨大なウサギのような化け物だ。
「ギョロロロロロォ!」
漆黒の化け物はけたたましい咆哮を上げ、口から火の玉を吐いた。王室直属ハンター達は化け物から距離を取る。
膠着状態の中、化け物の奥からコツコツと音を立てて、一人の女が現れた。緑色の長い髪を一本の三つ編みにしている。さらにその奥から、男の声。
「全く、こんな場所で大騒ぎして」
気取った口髭を生やした、蛇と薔薇のフェン。小さなスピーカーを持ち、女の隣に立った。
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