第69話 ナヤの正体を知ったイザック
「おいリラ、ここずっと一本道だぞ?!」
イザックが後ろから叫ぶ。リラは思わず立ち止まった。
「まさか行き止まり……?」
だが、ナヤがリラを追い越していく。
「追われてますし、もう行くしかありません! 行き止まりだったら、私達が追っ手を食い止める間にオスカーとドグウだけ、塀を乗り越えさせてでも逃がすんです。早く!」
不安は的中し、古いビルの裏口に突き当たって道は行き止まり。ナヤは迷いなくドアを蹴破った。階段を見つけて登っていく。二階の扉を開き、獣人の影を見つけてナヤは慌てて閉めた。
「屋上まで登りましょう!」
屋上まで全員で登り、入って来た扉を閉めた。さらに、廃棄されていた椅子や戸棚でガッチリと塞ぐ。
「大した時間稼ぎにはならないぞ」
「分かってます!」
ナヤはオスカーに返事をしながらあちこち頭を振り、何かを探している。
屋上から下を覗き込むのはリラ。シンシアさんを探しているのだが、ビルの前には大勢の獣人が集まってきており、その中には見当たらない。
「ナヤ、どうすんだよ」
イザックがそう言う傍ら、ナヤは屋上の隅で消火用ホースを見つけ出していた。
「これを、道の向こうの建物に結び付けて渡ります」
「どうやってだよ! お前の縄アーマーでもリラのドライバーガンでも絶対届かない距離だぞ?!」
ナヤは気付いた。大騒ぎで忘れていたが、まだイザックには自分が隠していた事を話していなかったのだ。真実を知ったらイザックはどう思うだろうか。ゆっくり話している時間はない。
カン! と音を立てて、ナヤは屋上の手すりに立った。手にはホースの先端を握っている。
「イザック、私はあなたに隠していたことがあります」
「……は? 隠してたことって?」
突然何を言いだすんだ、まさにそんな表情。
「私は失う事にはもう慣れました。もしあなたが私を見限っても、文句を言うつもりはありません」
そう言いながらもうっすら瞳を潤ませるナヤ。
「だから、何だよ隠してることって!」
「私は、ローリー家を追い出されました」
イザックだけでなくオスカーも、驚いて目を広げる。
「追い出されたって? ……どうして」
イザックの表情が純粋な驚愕なのか、失望なのか、ナヤにはよく分からなかった。
「理由は……これです!」
手すりから飛ぶ。白いブロバルモモンガへと姿を変えて、ホースをつかんで向かいの建物へ滑空するナヤ。イザックは言葉を失いながら手すりを握りしめた。
「……獣人……ってことか?! 嘘だろ……」
ところが、滑空しているナヤをオレンジ色に光る流星のような鳥が激しく打ち付けた。熱の霊術で炎をまとったヤジリハヤブサの獣人アッタだ。気付くと辺りは鳥の獣型となった獣人達が飛び回っていた。
ナヤはアッタの体当たりで、ビルの下で待ち構える獣人達の中へとひとたまりもなく落下した。
「ナヤーーーーっ!!」
ナヤの名を叫んだイザック。ビルの屋上からためらいなく飛び降りた。獣人達にのしかかるように着地したが、ナヤと一緒にあっという間に取り押さえられてしまった。
「どしよう、助けないと! でも飛び込んでも捕まるだけだし、一度私達だけでも逃げる? ……っていうか、まずここから降りないと」
リラは振り返ってドグウを見た。リラ達と違い、ここから飛び降りて無傷で済みそうには見えない。そもそも、ただ飛び降りたらイザック達と同じように捕まるだけだ。
ドン! と物音。屋上の入り口の扉に、向こう側から体当たりか何かされているらしい。もはや一刻の猶予もない。
「おいリラ、俺に抱き着くんだ」
オスカーが突然そう言った。「えっ?!」と固まるリラ。
「しがみついていろって事だ! ドグウ、お前もだ」
二人をつかまらせたオスカーはビルの屋上から、こちらを襲おうとするコンドルの獣人にあえて飛びついた。
コンドルの獣人は必死に羽ばたきながら、地上の獣人達を避けて路地に滑空して落下した。人型になった瞬間、リラがドライバーガンで一撃をくらわせ、気絶させた。
「オスカー、ファインプレーだよ。逃げよう!」
三人が逃げていく背中の方で、ブベル塔のサイレンが鳴り始めた。
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