第三部 LIONとブルービーストの秘密兵器
第42話 ブルービースト南支部
リラがリーダーとなり結成された有志ハンター隊『LION』は、ルマからだいぶ離れた森を歩いていた。他の街と繋がる道もなく、機械獣が比較的少ない森でもあるため、この地域はハンターを始め、人があまり入らない。
「なあリラ、どこに向かってるのか、いい加減教えろよ」
「もう少ししたらね」
そう言ってイザックに得意げに指を振ってみせるリラ。『黄金の獅子の手がかりがある』という事以外、他の三人に何も教えていないのだ。
「ルマに何かあるんじゃなかったんですか?」
ナヤが岩を乗り越えながらそう聞き、とリラは大きな木の根をまたぎながら「違うよ」と返す。
「『ルマに向かう』って言っただけ。目的地はこの森の中のどこか」
「『どこか』?! あてもなく歩いてるんですか?」
ナヤは少々不満げだ。彼女はローリー財閥のお嬢様であり、こんな森の中をひたすらさまよった経験などない。本当は街からあまり離れたくないのだ。
「あてが全くないわけじゃないよ。もう少ししたら教えてあげるって」
オスカーは黙々とリラに続いて歩き、イザックとナヤも『どこに向かっているのか』という質問を繰り返しながらリラに続いた。
夕暮れになる頃、川の近くでリラはようやく立ち止まった。
「よし。今日はここでテントを張ってキャンプ。作業開始!」
リラが手をパンと叩く。オスカーが背負ってきた荷物を降ろし、イザックがそこからテントを引っ張り出す。
「リラ、明日には目的地に着くんでしょうね?」
夕飯の支度で野菜を切るナヤ。顔はやはり不満そうだ。
「いつ着くかは分からないよ」
リラは川で汲んだ水を火にかける。
「食料はそんなにありませんよ? 明日中に着けないと帰りは飲まず食わずになってしまいます!」
「私とイザックがいれば、森で食べ物は調達できるよ。私達慣れてるから大丈夫だって」
リラはナヤの肩をポンポンと叩く。ナヤの不満そうな顔は全く変わらなかったが、リラはそれを見もしなかった。
*
「総統、ご決断頂けたのでしょうか」
ブルービースト本部。幹部『右爪』アッタ・ヴァルパが総統のガル・ババの執務室にやってきていた。ガル・ババはアッタにうなずいて見せた。
「公爵家が『アルファ機械獣』を手にしていると聞いて、私も決心した。蛇と薔薇とは縁を切る。そして、我々とどちらが上に立つ存在かを分からせてやる」
アッタは直立不動のまま言った。
「全ての獣人にとって、喜ばしいご決断だと思います」
「ただ、『チェッカー』というのは気になるな。レブは『ごまかそうとした』と言っていたが、私はそうは思わん。恐らく『アルファ機械獣』を作り出せる道具か何かだろう。縁を切る前にそれだけは聞き出さなければ」
「分かりました」
「すぐに南支部へ向かえ。フェンが『ディエンビ』を輸送してくる。意地汚いやつらだ。金を確認するまでは受け渡さんだろうが……『ディエンビ』を手に入れ、フェンに『チェッカー』の事を吐かせたら、蛇と薔薇の連中は殺せ」
*
カラン、とナヤがスープをすくっていたスプーンを落とした。
「……ちょっと待ってください。 ……聞き違いでしょうか? もう一度教えてください。私達の目的地はどこだと?」
リラはナヤがスプーンを落としたことを理解できないまま、言った。
「ブルービーストの南支部。細かい場所は分からないけど、ルマの南方、そう遠くない所にあるって、私の師匠から教えてもらったの」
オスカーとイザックはすでに夕食を食べ終え、片づけを始めていたが、ナヤとリラの不穏な空気を察知し、二人のそばに戻ってきた。ひとまず黙って二人の様子をうかがう。
「ブルービースト? ……ブルービーストの支部?! 正気ですか?! アカデミーを襲って獅子の亡霊を暴れさせたテロ組織ですよ?!」
「うん。まあ、怖いのは分かるけど、ある程度は危険を冒さないと何も手に入れられないよ。誰も狩った事ない黄金の獅子を狩ろうっていうんだから……」
「どれくらいの危険があって、どれくらいのリターンがあって、他にどんな方法があるか、何も検討しないで、そんな危険な所に『これから行く』なんて、無責任です! リーダーがそんなじゃ困ります!」
バッサリとそう言ったナヤ。リラもむっとして言い返す。
「じゃあ具体的にどうしたいの? 他に黄金の獅子の手がかりがあるの?」
「それをきちんと事前に……」
「イザック! オスカー!」
二人ともリラを見る。
「二人はどう? 何か手がかりある?」
二人が答える前にナヤ。
「あるかどうか以前に! リーダーなんだったら、こんな場所に無理やり引っ張ってくる前に、事前にメンバーに……」
「分かった。次からそうする。今回はもうここまで来ちゃったし、もし他に手がかりがあるなら、また考えればいいんじゃない? で、イザックとオスカーはどう?」
「いや……」「何もないな」とイザックとオスカー。
「そう。で、ナヤは? 何か手がかりあるの?」
ナヤは何も答えなかった。
*
ブルービースト南支部。ここは小さな島を模した巨大な基地になっている。その中央にある、湖と言っても差し支えないほどの大きな地下プールの周りに、ブルービーストのメンバーが数人集まっていた。
このプールは海と繋がっており、海底を通って『ディエンビ』がここに運ばれてくる手はずになっているのだ。
プールから、ダンガンサカマタが飛び上がった。くるりと宙返りし、メンバー達の前に人型になって着地。ブルービースト幹部『左爪』のレブ・リモだ。
「来たよ。思ってたより大きい。みんな少し下がれ」
レブはそう言って手を振りながらメンバーを下がらせる。間もなく、プールがドッと音を立てて揺れ、水を押しのけるように、巨大な『ディエンビ』が浮かび上がってきた。
プールの水が大量に溢れ、ブルービーストのメンバー達は慌てて後ろに下がったり、積み上げた木箱に乗ったりつかまったりする。
ブルービーストが巨額の資金と引き換えに蛇と薔薇から手に入れた『ディエンビ』。それは、全長三百メートルはある巨大な飛行戦艦だ。艦体側面には大砲や機関銃が数え切れないほど並んでおり、後ろの方には小型戦闘機も積載されている。
プールから全長五メートルを裕に越える巨大な黒いウサギ達が次々と這い出してきた。ブルービーストのメンバー達が驚いてざわつく。「騒ぐな!」とレブが黙らせた。
大きな漆黒のウサギ達はレブ達ブルービーストの前に整列。そして、ディエンビにあるハッチのうちの一つがガスを抜くような音を立てて開き、中から影使いのメイとフェンが現れた。
「レブさん、あれは……?」
耳元でささやくブルービーストのメンバーに、レブは小声で答える。
「影使いのメイとかいう、蛇と薔薇の最高幹部だよ。あいつの気色悪いウサギ共がディエンビを運んできたんだ」
フェンとメイがレブ達の前に降り立った。
「ふん、随分汚いところだな」
フェンが辺りを見渡しながら言う。ここはトタンや崩れたコンクリート、むき出しの鉄筋だらけで、さらには苔や雑草も生えている。
フェンは煙草をくわえて言った。
「金と暗証番号の交換だ」
「金はまだ到着してない」
レブがそう言うとフェンは声に怒りをにじませた。
「どういうことだ? 到着する時間は伝えたはずだぞ。まさか約束を破るつもりじゃないだろうな。こちらは……」
「お前らが」とレブが大声で被せる。
「いくらここでガタガタ言っても、金はまだ来てないんだよ。アッタがこっちへ運んでる。もう少しすれば着くからそれまで大人しく待ってろ!」
フェンは苛立った様子でタバコの煙を大きく吐いた。
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