第56話 ポクル宮を襲った波




 入浴後、ナヤは朝食前に一度部屋に戻ろうと、ユーバートを連れて廊下を歩いていた。

「ユーバート、他には何も連絡は来ないのですか?」

「はい、何も……到着する日取りや時間も、人数も、私には知らされていません」

「目的も?」

「はい……彼らが到着するまでは、お側を離れないように致します。私がいれば、ナヤ様が危害を加えられることはないはずですので」


「私だけではなく……」


 喋っている途中で妙な水音を聴き取ったナヤ。外の様子を見ようと窓へかけていく。続けて日を遮るような影が宮殿の中に落ちてきた。

 ナヤは窓から外を見て、愕然とした。湖からポクル宮を飲み込むような巨大な波がこちらに押し寄せて来ていたのだ。

 しかも、その波の上をサーファーのように滑っている女は、まぎれもなくブルービースト幹部『左爪』レブ・リモ。


 波がポクル宮に衝突して窓を破壊し、宮殿に水が大量に流れ込んできた。その水をかぶり、咳き込むナヤの前に、レブが立った。


「お前……アカデミーでも南支部でも、私らを馬鹿にしてくれたね。こんなところにいたのかよ」


 恐怖のあまり腰が抜け、動けない。そんなナヤの姿を見て、レブは笑いながら背中の銛を手に取った。

「情けない姿だな。卑怯で、臆病で、無能な人間……今度こそ殺してやる」


「いけません、レブさん!」


 後ろからそう叫んだのはユーバート。床を流れる水に苦戦しながらも、ナヤとレブの方へ歩いてきた。

「この方は私がお世話を仰せつかった……お判りでしょう?」

 レブは少し怪訝な顔をした後、「あっ」と思い出したように顔を広げた。そして、ナヤに笑顔を向けた。


「お前……だったのかよ! 何だよ、早く言ってくれよ。怖がらせて悪かったね」

 そう言ってレブはナヤの頭をポンポンと叩く。

「私ら『チェッカー』っていうの探しに来たんだけど、どこにあるか知ってる?」

 ナヤは首を横に振る。ユーバートが、二人の間に割り込むように、ナヤの手を取った。

「私共には、何も知らされておりません。申し訳ありませんが、お力にはなれないと思います」

 レブは「そう」と一言。

「今の波で私ら海組のメンバー二十人くらい乗り込んだから、お前ら二人とも、見かけても。怪しまれるからね」


 ユーバートが「はい」と返事をした時、遠くからドン! と爆発音が聞こえてきた。続けてさらに何回か爆発音が鳴り、僅かに宮殿が揺れる。


「何だよ、あいつら随分派手にやってるな……」

 そう言ってレブは音が聴こえた方へと走って行った。ナヤはユーバートに肩を抱かれながら歩き始める。向かうのは緊急時に使う事になっている、ポクル宮にある隠し通路へとつながる部屋だ。







「煙が上がってる!」

 運転席から降りたシンシアさんが、そう言ってポクル宮を指さした。リラも助手席から降りて、ポクル宮を見つめる。

 近くまで来たところで爆発音が聴こえたため車を一度止めたが、その爆発によるものと思われる煙だけでなく、割れた窓や不自然に水浸しになっている城壁も二人から見えた。

「一体何が……?」

「リラ、乗って。飛ばすから!」



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