第55話 早朝のポクル宮
朝日が差し込むポクル宮の『訓練室』。ナヤの国立機械獣ハンターアカデミーへの入学が決まった時に作られた部屋だ。
そこでナヤが、機械獣に見立てられた原寸大の模型の数々を使い、訓練を行っていた。物陰から現れる模型を次々と縄型アーマーで攻撃していく。
ブザーが鳴り響いた。訓練終了の合図だ。
「ふぅ」と一息ついて、イスに座るナヤ。タオルで汗を拭いて、飲み物を飲む。訓練室の扉が開いた。現れたのはナヤの世話係の老人、ユーバート。
「ナヤ様、お疲れ様でした。ご入浴の準備ができております」
「ありがとう」
ナヤが立ち上がろうとすると、ユーバートは「お待ちください」と止め、ナヤの元に歩いてきた。
「大切なお話があります」
「……私とあなただけの?」
ユーバートは頷いた。ナヤとユーバートの間には、ローリー家の他の誰も知らない秘密が、いくつかある。ナヤの前に膝をついて目線を合わせた。
「連絡が入りました。こちらにメンバーが向かっています」
「えっ」と顔色が変わるナヤ。僅かに体をすくませる。
「何をしに?」
「私のような下っ端にはそこまでは……ただ、何かを盗もうとしているようです。ナヤ様に危険はないだろうとは思いますが、念のためどこかへご出発を。お荷物はまとめてあります」
ナヤは首を横に振った。
「ポクル宮の全員を置き去りにして私だけ逃げるなんてできません!」
「しかし……」
「何を盗もうとしているかは見当が付きます……お父様がここに運ばせた、研究所で作っている何かの資材でしょう」
そう言うと、ナヤは立ち上がって歩き出した。ユーバートは慌てて追いかける。ナヤは話を続けながら、浴場とは違う方向へ進んでいった。
「お父様が言っていた『研究所の事故』も、多分事故じゃありません。きっとブルービーストに襲われたんです。他の企業の施設には運べない、警察や政府にも言えない、何か重要な秘密があるもの。だからブルービーストのメンバーが狙ってるんです」
「ナヤ様、どちらに行かれるのですか?」
「お父様は公爵家からの護衛が来ていると言っていました。探して会いに行きます」
ユーバートが息を切らせながら走り、ナヤに追いついて肩を取った。
「ご案内します」
ユーバートにナヤが案内された部屋にいたのは、タキシードの二人組。バルトとリンナだった。
メイジャーナルでイザックに大けがを負わせた二人。ナヤは怒りと恐怖を抑えつつ、二人の前に座った。
「お話があります。まず、あなた方が護衛している物は、何です?」
バルトは笑顔を浮かべながらも「うーん」とうなる。
「それは、私の口からはお教えできかねますね。お父様に直接お聞きください」
「父は仕事に出ております。教えてください」
「できかねます」
ナヤはバルトの隣で立っているリンナに目を向けた。笑顔で頭を下げるだけで、話す気配はない。
「……私の、とある知人から情報がありました。ブルービーストがこちらに向かっているようです。あなた達が護衛している物を狙っているのではないですか?」
バルトの目が今までより少し大きく開いた。だが、すぐ元に戻る。
「獣人の考えている事は、私共には分かりませんよ。その情報は、まずお父様にお教えなさった方がよろしいでしょうね。もちろん、私共にはありがたいですが」
バルトが何も教える気がないことを悟り、ナヤはすぐ立ち上がった。
「もしブルービーストから狙われる心当たりがあるのなら、彼らが来たらすぐにそれを渡して、ここから帰らせた方がいいですよ。ポクル宮にいる全ての人間のためにも」
最後にそう言い、ユーバートと共にナヤは部屋を出た。
ナヤが去った後、部屋にはバルトとリンナだけが残された。
「思ったより早く来るようだな。狙いは間違いなく、私達が運んできた『新型チェッカー』だろう。この前研究所で盗まれた分に加えてここにある分もブルービーストの手に渡ってしまうと、いよいよ正面切って紛争が始まってしまうかもしれない。念入りに守るための準備をしなくてはね。リンナ、またお前に苦労をかけることになるが……」
リンナは首を横に振り、一人部屋を出た。
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