第40話 襲撃後 王家と公爵家




 国立ハンターアカデミーはブルービーストの予告通り破壊され、トイスターの街も獅子の亡霊と変異体の機械獣が荒らしまわり、警察も陸軍も王室直属ハンターも、獅子の亡霊の新たな手掛かりは何もつかめず、水上兵隊に至ってはブルービーストのたった一人の獣人に、軍艦を一隻沈められてしまった。


 そして、なにより世間に衝撃をもたらしたのは、翌日にアストロラ首都上空からバラまかれたビラだった。そのビラには、瓦礫の上に横たわるアストロラ国旗と、それを引き裂き、貫いて悠々とはためくブルービーストの旗の写真が、大きく載っていたのだ。


 そのビラをグシャリと握りつぶし、わなわなと震える男がいた。

「リューマ、これはどういうことだ」

「面目ありません」

 大きなテーブル越しに立っている王室直属ハンター隊長のリューマは、国王へ深々と頭を下げた。国王は立ち上がり、グシャグシャにまるめたビラをリューマの方へ投げた。

「祖先より受け継がれてきた、我が国の旗! 王家の旗が無残に引き裂かれた! 我が家の誇りはどうなる! お前達は我ら王家の誇りを守る存在なのだぞ!!」


 激昂する国王の隣から「国王陛下ぁ」と不気味に呼びかける、仮面をつけた男がいる。

「リューマ隊長だけの責任じゃぁありませんよ。そもそも政府や公爵家が、王家をないがしろにしているのが問題の本質ですからねぇ」


 国王は鼻息荒く椅子に腰かけると男に言った。

「ではゾウマ。お前はどうするべきだと考える?」


 仮面の男ゾウマは「アヒヒ」と声を裏返しながら不気味に笑った。

「襲撃時リューマ隊長達が、防衛するべきアカデミーから離れて獅子の亡霊の所へ行ってしまった事は、政府、議会だけでなく国民からも反発をかいましたからねぇ。ひとまず獅子の亡霊と黄金の獅子の事は、表立って狙うのを控えた方がいいでしょうねぇ」

「だが、その間に公爵家に黄金の獅子を手に入れられたらどうするのだ」


「そうならないよう、これからはワイも動きますよぉ。公爵家はワイが監視して、黄金の獅子に関して何か新たな情報があれば、すぐに陛下にお教えします。ついでに『チェッカー』とかいう道具がどんなものかもねぇ。リューマ隊長達には、ブルービーストの言っていた『アルファ機械獣』の事を調べてもらえばいいんですよぉ」

 国王は「うむ」とうなずくと、リューマに言った。

「リューマ。聞いていたな? すぐに仕事にかかれ」


 リューマは頭を下げ、部屋を出た。



「隊長、陛下は何て?」

 部屋を出たリューマを待っていたのは、残りの三人。最初に聞いてきたアイヴリンに、リューマは首を横に振った。

「私達は黄金の獅子からは手を引くようにと。代わりにゾウマが公爵家を見張るそうだ」

「はあ?!」とライランド。

「ずっと俺達が調べてたのにか?! 何で途中からあいつに取られなきゃいけないんだよ!」

「私達は成果を上げられなかった。しかも、アカデミーの一件で王家の誇りも傷つけた。仕方ないことだよ」


 部屋の扉が開き、仮面の男ゾウマが出てきた。リューマ達を見て「アヒヒ」と笑う。

「直属ハンターのみなさん。アカデミーではお疲れ様でしたねぇ。これからはワイもみなさんの力になれるよう、しっかり仕事しますからねぇ」

 リューマはチラリとゾウマの仮面を見て言った。

「ああ……。もし黄金の獅子に関して何か分かったら、私達にも教えてくれ」


「モチロンですよぉ。ただ、まずは陛下に。陛下がダメだと言ったら、それには逆らえませんからねぇ。じゃ、そういうことで」

 ゾウマは手を振り、廊下を歩いて行った。ルースリーがそれを見送りながら眉をひそめる。

「気持ち悪いやつ。どうせ仕事なんかろくにやるはずないよ。陛下はどうしてあんな得体のしれないやつをお側におくんだろう」


 リューマはゾウマと反対方向に歩き出した。他の三人も続いて行く。

「それもまあ、今のうちは仕方ない。黄金の獅子が『』であると、王家に情報を持ってきたのはあいつだからね。私達はとにかく、陛下から仰せつかった任務を着実におこなうんだ」




 *




「本当か? 本当に何も知らないのか? 思い当たる節も? ……そうか。まあ、元々裏の世界のやつらだ。気を付けろよ」

 ウーゼンバルグ公爵はそう言って電話を切った。


「いかがでしたか?」と聞くのはバルト。傍らにはもちろんリンナも。


「アルカズは蛇と薔薇の裏切りに関しては本当に何も知らないようだ。しかし、研究を共同でやっているだけあって、蛇と薔薇だけでもチェッカーを作ること自体は可能だと。つまり、裏でブルービーストにチェッカー自体やそれを使用して手懐けた機械獣を売りつけている可能性は否定できない」


「なるほど。私共はどう動きましょう?」

「蛇と薔薇から『影使い』が来ていると言っていたな? リンナは使えるのか?」

「はい」とバールトルーズ。

「しかし、ごくごく初歩的な術しか使えません。霊術を入れて考えても、あの影使いを私達二人だけで押さえこむのは無理でしょう。ただ、気配を追うことはできます」


「十分だ。影使いを追い、蛇と薔薇がブルービーストに何を売りつけているのか調べろ。黄金の獅子の任務も引き続きな。どちらもブルービーストが絡んでいる。準備ができ次第出発しろ」


「かしこまりました。行くよ、リンナ」

 リンナが「シュエラ」と答え、扉を開く。バルトが出ると、リンナも続いて出て行った。



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