第39話 襲撃 幕引き 師匠の名
「リラ!」
リラは名前を呼ばれて振り返った。そこにいたのはイザック。
「ケガはなさそうだな……」
「うん、大丈夫。……手紙ありがとう。返事も出さずにごめん。今回は、立ち直るのに時間が必要で……」
イザックはリラの手を取って硬く握った。
「来てくれてありがとな。また、ハンターやる気になったんだよな?」
リラは「うん」とうなずいた。
「黄金の獅子の夢、私ももう一度目指すよ」
「その人は?」とイザックに聞かれ、リラは師匠を紹介した。
「私の地元のリードルメで会った、えーと……霊術使いの人。私の師匠だよ」
握手を交わす二人。師匠はリラの背中に手の平を添え、導いた。
「二人だけで少し話がしたい。向こうに腰を下ろして話そう」
*
「おいダメだ! 入らないでくれ!」
王室特権によって封鎖した場所から警察を追い払うライランド。メイジャーナル襲撃事件の時と同じだ。そして、奥にあるのも同じく、獅子の亡霊として暴れまわっていた残骸。機械獣の部品の山だ。その前でルースリーが言う。
「隊長、どうするの?」
ルースリーの隣でリューマは、残骸を見ながら考え込んでいる。そのさらに隣にはアイヴリン。
「結局、メイジャーナルと同じように、何の成果もあげられなかった……。何か、根本的に戦略を考え直さないといけないんじゃない?」
「そうだな」とリューマ。
「今まで後手後手に回っていたが、これからは攻めることも考えないといけない。私達が守るもののためにも」
*
アカデミーのグラウンドの隅で、リラと師匠が話していた。
「リラ、さっきはただ叱りつけてしまったが、お前の霊術の才能が開眼したのは、私も嬉しい」
嬉しそうにペコリと頭を下げるリラ。
「ありがとうございます」
「お前はこれからどうする? 相棒と再会して、夢を追うのか? それとも、まだ私達についてくるか?」
「霊術の修行は続けたいですけど、でも……」
師匠は優しく笑った。
「だろうな。お前にこれをやる」
リラの手の平に師匠が乗せたのは、方位磁針だった。
「これは……?」とリラが方位磁針を見つめると、師匠は「よく見てみろ」と指さした。
「針の先が、私の方を指しているだろう? この方位磁針は、一年間程度なら『お前が持っている間は私を指し示して』くれる。もしまた私に会いたくなったらこれを頼りに来い」
「ありがとうございます」そう言ってリラは方位磁針をしまった。
「私達はまだアストロラ国内で情報を集めるつもりだ。だがもし、お前か他の人間が私達を告発すれば、この国から逃げなければならない。お前とももう会えなくなる。そんなことにならないよう、お前も気を付けてくれよ」
「はい」とうなずくリラ。続けて「でも……」と、ずっと気になっていた疑問を口にする。
「どうして師匠は、私を弟子にしてくれて……ここまでしてくれるんですか? 師匠のお仕事には、結局のところ私は邪魔じゃないかと思うんですけど」
「ふふっ」と笑う師匠。
「『影で利用されてるのではないか』と心配か?」
リラの方も笑った。
「もうそんな心配はしてないです。……私、切り替え早いんで」
師匠はリラに、炎が揺らめく水晶玉を「持っていろ」と手渡した。これは、かつてリラの嘘を見破った道具だ。相手が嘘をつくと、オレンジ色の炎が青く色を変える。
「お前は、昔の私にあまりにも似ているんだ。それで、放っておけなくなった。私が今まで生きてこられたのは、いい仲間といい師匠に巡り会えたからだ。もし、私がなれるなら、お前のいい師匠になりたかった。それが理由だ」
水晶玉の炎はずっとオレンジ色のままだ。これは、本当のことを言っている証。
「ここでしばしの別れだが、私からの信頼の証として、お前には私の名前を教えてやる」
師匠がそのまま話そうとしたところで、リラは「待ってください」と水晶玉を師匠に返した。
「私からも信頼の証です。これはいりません。師匠の言葉を信じます」
師匠は、嬉しそうに柔らかく笑うと。水晶玉を受け取り、しまった。
「私の名前は、ヒビカ・メニスフィトだ。呼び方は、『ヒビカさん』でも、今まで通り『師匠』でも、好きなように呼べ。それでは、私はもう行くぞ。『秘書』が獅子の亡霊の映像をカメラで撮ってくれているはずだからな」
師匠はそう言って歩き出した。
「師匠! 必ずまた会いに行きます! 最後に一つ聞いてもいいですか?!」
リラが後ろから声をかけると、師匠は立ち止まって振り返った。
「私が昔の師匠に似てるって言ってましたけど、師匠も昔は霊術の才能なかったって事ですか?」
師匠は「はははは」と声を上げて笑うと、こう言った。
「悪いがそこだけは正反対だ! 私は霊術に初めて触れた時から、周りの者に将来を嘱望されてきたからな! 頑張れよ!」
師匠は、がっくりしながらも笑顔で手を振るリラに手を振り返しながら歩いて行った。
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