第38話 襲撃 水の霊術
レブが銛を手に取り、投げようとした瞬間、イザックがマグネットシールドで磁力の衝撃波を打ち出した。銛を吹き飛ばし、レブはそれに引っ張られて背中から倒れる。
オスカーがその隙に剣で切り付けた。しかし、レブは転がってよけると、すぐに立ち上がった。
鬼の様な形相で、オスカーとイザックと対峙するレブ。レブが銛を持ち上げると、バチッと音が鳴り、銛が雷を纏い始めた。
「これで磁力も通じないぞ。お前ら、三人とも全員……」
レブがゆっくり銛を構えた時、瓦礫の上から石が飛んできた。レブの手に打ち当たり、銛が地面を転がる。
石を投げたのはリラだった。
「早くナヤを安全な場所へ!」
「分かった!」と言いながらイザックがリラへと投げたのは、ドライバーガン。リラは受け取るとすぐにレブを狙って撃った。
銛を拾って体を起こしたレブの頬に、ドライバーガンの先端が打ち当たり、レブは衝撃で地面を転がっていく。
ナヤに肩を貸しながらよろよろ歩いているイザックの元へ、オスカーが駆け寄り、ナヤを背負って三人で走り出した。リラは振り返ってそれを確認し、レブが追うのをふさぐようにドライバーガンを構えて立った。
立ち上がって口を拭うレブ。腕に着いた血を見ると、リラに向けて怒鳴った。
「よくも人間の分際でこの私の顔を傷つけてくれたな! お前から殺してやる!」
雨が上がり、朝日が差し込むグラウンド。リラはドライバーガンでレブの銛と切り結んだ。レブの銛の動きは、さっき手に石を打ち当てられたために鈍っており、リラのドライバーガンに弾き飛ばされた。
飛び退くレブをドライバーガンで殴りつけようと飛び込むリラ。ところが、顔の真横から何かの気配を感じた。これは、水……の槍だ!
レブが作り出した水の槍。リラは体をひねって何とかかわした。バランスを崩したリラが立ち上がろうとすると、すでにリラの周りを何本もの小さな水の槍が取り囲んでいた。
「人間の分際で獣人に手を上げた事を後悔しながら、死ね!」
*
校舎をはさんで反対側に逃げてきたイザック達。地下壕へと逃げ込む生徒達の近くで、イザックはナヤから手を離した。
「オスカー、後は頼んだ」
オスカーはうなずくが、ナヤはイザックの手を引いた。
「どこへ行く気ですか?!」
「リラの所だよ。ほったらかしにはできないだろ」
「嫌です! そばにいてください」
「オスカーも他の生徒も教授達もいるんだから、お前は安全だ。リラも連れてくる!」
イザックはナヤが呼ぶ声を背中で聞きながら、またリラの元へと走り出した。
*
レブが手を振ってクロスさせると同時に、水の槍がリラへと飛んできた。リラは体を縮こまらせて目をつぶった。イザックとナヤを守って死ぬ。一番望んだ死に方ではないが、相棒と友達を守って死ぬなら、受け入れられる。
イザックに手紙のお礼と謝罪を直接言えなかったのが心残りだ。せめて心の中でそれを唱えながら、死のう。
水の槍の感触が伝わってきた。冷たく、しなやかで柔らかいが、同時に硬くて鋭い。だが、痛くない。どういうことだ?
リラはそっと目を開けた。水の槍はリラに刺さってはおらず、空中で震えながら止まっている。徐々に状況が理解できてきた。水の槍の動きを止めているのは、他でもない、リラ自身だ。自分の霊術が水の槍の感触をとらえているのだ。
「このぉっ!」
大きく腕を振り、槍の方向を変えてレブに打ち出す。しかし、レブが体を翻しながら腕を振り上げると、水の槍は全てレブの体を沿うように上昇し、高くかかげられた手のひらの上で一つの大きな槍となった。
「人間のくせに霊術を使うとは、とことん生意気だな。だけど、お前なんかがこの私に水の霊術で勝てるなんて思うなよ。今度は全力で打ち出してやる。お前如きの力じゃ押し返せないぞ」
リラはゆっくりドライバーガンを構えた。これで槍を弾くことができるだろうか。できなければ、今度こそ死ぬ。
突然、リラの背中の後ろから何かが朝日を遮った。いったい何かと振り返る間もなく、リラの頭越しに巨大な水流が現れ、レブに打ち当たった。
水流はグラウンドの塀を打ち壊して、レブを押し流しながら湖に流れ込んでいった。朝日に輝きながら雨のように水滴がグラウンドに降り注ぐ。
唖然とするリラの目の前に飛び降りてきたのは、師匠だった。
「ケガはないか?」
「は、はい。今のは……師匠の霊術ですか?」
「そうだ」と一言答えた師匠は続けてリラを「この馬鹿者!」と叱りつけた。
「自分の師匠が『待て』と言っているのに無視して走り去るとはな! 私が来るのがもう少しでも……」
「待ってください! 叱る前に、ちょっとこれ見てもらえますか」
リラはそう言って近くの水たまりに手をかざし、水を空中に浮かせて小さな槍の形にして見せた。
『どうです?』と得意げな顔のリラ。師匠は水の槍を見て驚いたような表情の揺れを見せた後、リラに言った。
「私が来るのがもう少しでも遅かったら、死んでいたぞ! 二度とこんな真似はするな!」
「すいません」と素直に頭を下げるリラ。だが表情はむくれていた。
*
アカデミー下の岩礁に、ダンガンサカマタが飛び出してきた。すぐに人型になり、レブは岩礁を駆け上がる。その前にアッタが立ちふさがった。
「どけよアッタ!」
「だめだ! 仕事は終わった。本部へ帰るんだ」
「ふざけるな! このままおめおめ帰れるかよ! 人間の霊術使いなんかに……」
押し切って走ろうとするレブをアッタが羽交い絞めにした。
「だめだ! お前と同等かそれ以上の霊術使いだぞ。ジャオが言っていた連合国のスパイに間違いない! 今やり合ったら計画がメチャクチャになる!」
「嫌だ! 今ここでここであいつらを……」
レブが喋り終わらないうちに、アッタはヤジリハヤブサに姿を変えると、レブの足をつかんで飛び立った。レブは宙づり状態で喚きながら暴れる。
「放せよ! 放せ!」
アッタはレブの足をつかんだまま、アカデミーから去って行った。
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